表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/52

5-10 アッサムブレンドのジンクス



 エドワードは無言の早足で進み、古びた廃墟に入っていった。


 そこはわたしがアレクさんに囚われていた建物だ。


「……どうしてここだってわかったの?」

 追いついたとき、エドワードはわたしが閉じこめられていた部屋に立っていた。


「焚火のにおいが微かに残っていたからな」

 部屋の中央の黒い跡にエドワードは近付く。

 そこに置いてあった小さな缶を拾って中を検めたエドワードはわずかに目を瞠った。


「エドワード?」

 近付いたわたしに、エドワードは手の中の物を見せる。


 拾った缶は開けてあり、その中にはわずかに茶葉が残っていた。


 すん、とその香りを嗅いでみる。

「アッサムのブレンドティーね」

「ああ。――懐かしいな」

「懐かしい?」

「聖騎士団時代、魔物討伐で遠征に行くとき、紅茶は決まってアッサムのブレンドを

持って行った。聖騎士たちにとっては遠征中の唯一の楽しみだ」


 何かを思い出したのか、エドワードはふと唇に笑みを浮かべる。


「アッサムブレンドはすぐに色と味が出て、野営地で飲むのに適している。いよいよ突入の前になると、特別に持参したミルクを入れてミルクティーを作って飲むんだ」

「そういえばアレクさん、ここでわたしにミルクティーを作ってくれたの」


 わたしが言うと、エドワードは「やはり」と呟いた。


「遠征隊の中ではあるジンクスがあった。突入前に飲むミルクティーを作るとき、缶に茶葉をわずかでも残しておくこと。そうすると生きて帰れる、というジンクスだ。生きて帰るという思いを残すということなんだが――」



 エドワードは小さな缶を揺らす。缶の底でわずかに残った茶葉が乾いた音を立てた。



「アレクは生きている」

「えっ……」

「アレクには生きる意志がある。あいつがそう決めていたなら、あいつは死んでない。この残された茶葉が証拠だ」

「じゃあ、アレクさんは」

「だぶんあの魔炎から離脱できたんだろう。あいつなら可能だ。かつて、マーリンの再来とまで言われた詠唱者テイマーだからな」


 わたしはどこかホッとするような気持ちになると同時に、言いようのない不安にも襲われる。


『友を待っているんだ。殺すためにね』

 そう言って微笑んだ端麗な顔が脳裏に焼き付いていて。


 そのことをエドワードに伝えるべきかもしれない。

「エドワード……」


 ためらいつつ口を開いたとき。


 ぐうぅううううううう。


 静かすぎる空間に、ごまかしようのない腹の虫の音が盛大に響いた。


「あ……」


 みるみる顔が熱くなっていく……消えてしまいたいっ!!

 そんなわたしを見てエドワードがぷっと吹き出した。


「す、すすすみませんっ、ていうか! 何も食べてないんですよ?! パーティーでも美味しそうなオードブルとかいっぱいあったのに全然食べるヒマもなくてっ、そのっ――」

 大きな手がぽすりと頭に載って、反射的に言い訳が止まる。

「帰るか。グレゴリーに何か作ってもらおう」

「は……はい?」


 帰るって、クライン商会に?


 ブライト長官が言ったことが頭をよぎる。

 そのことにちょっぴり甘い魅力を感じた自分に気付いていて――わたしはぶるぶる頭を振る。

 ダメダメダ! 贅沢は敵よ! クライン商会での生活に慣れちゃったら贅沢病になっちゃう。そもそもエドワードとは住む世界が違うんだから!


「帰りますけど帰りません!」

「はあ? 何言ってんだ。腹減りすぎて頭がさらにおかしくなったか?」

「ち、ちがいますっ!!」

「まあいい。グレゴリーの作るコンビーフのサンドイッチは絶品だからな。チョコチップとラズベリーのスコーンもいい」

「なっ……」


 ぱあああ、と目の前に光が差す。コンビーフのサンドイッチ?! はたまたチョコチップとラズベリーのスコーン?! 

 それはぜったい美味しいやつでしょう!! しかもグレゴリーさんのお手製なんて間違いなく最高でしょう!!


「さっさと歩け。行くぞ」

「はい!!」



 またお腹鳴りそうなお腹をあわてて押さえ、わたしはエドワードの背中を追いかけたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ