5-6 指輪の威力
「エドワード!!」
思わず身を乗り出した瞬間、ガドゥの凶爪が襲いかかってきた。
「!」
「グガガガァア!!」
危うく避けて距離を取る。
ガドゥは崩れかけた顔を憎悪にゆがめ、歯茎のむき出しになった口から涎を垂らしてわたしを威嚇する。
剥きだしの殺意に戦慄する。
こいつはわたしを殺したくたしょうがないんだ。
でも死霊魔術で操られているから自分の意志では殺せない。その焦燥がありありと伝わってきたとき、わたしは思い出した。
「……そうか」
アレクさんはエドワードに言った。『《《君が少しでもおかしな動きをすれば、我が僕が即座に彼女を殺す。――わかったか、我が僕よ》》』
「だったらわたしが何をしようと逆らえないわけね!」
わたしは即座に戦闘服の左ポケットに手を差し入れる。そこにはエマさんが仕掛けておいてくれた武器が収納されている。
「細剣」
呼び出すと、手に柄の感触が吸い付いてきた。
「追いつけるものなら追いついてみなさい! 力じゃ負けるけど速さじゃ負けないから!」
わたしは細剣を一振りで抜くと同時に高速魔法を発動、近くの巨石に飛び乗る。
その挑発にガドゥはまんまと乗ってきた。
♢
防御魔法で魔炎の矢を祓うとエドワードは高速魔法と強化魔法を発動、超高速で連射する。
銃弾は宙で青い閃光となって網のように広がった。
「捕縛魔法弾か。私を傷付けずに捕らえようとは泣かせるね。君は本当に優しくて――甘い」
刹那、アレクの両手から赤い閃光がほとばしる。
「《フラマ エクスプロシオ》――我が魔炎に焼き尽くされるがいい」
閃光は魔炎の大蛇と化しエドワードへ襲いかかった。
「くっ」
エドワードは防御魔法を展開し瞬時に跳躍、巨石の上へ飛び移る。
魔炎の大蛇のように渦を巻き、ハリケーンのようにうねりを上げてエドワードを執拗に追う。
が、巨石の周囲を縦横に動く俊敏なエドワードにあと一歩で追いつけない。
「相変わらずずば抜けた反射神経だね。それを最大限に活かせる魔法の選び方も素晴らしい……やっぱり君は私と一緒に国を作るべきだ!」
「目を覚ませアレク! アルビオンを滅ぼして何になる! そんなバカげたことにおまえの才能と時間をムダに使うな!!」
「ムダ? それはどうかな」
アレクが大きく手を動かすと魔炎の大蛇が大きくうねった。
「くそっ、魔炎が」
エドワードが顔を歪めた。魔炎が届いた左足に魔炎の炎が広がる。
《アクア フルクシオ!》
エドワードが詠唱すると魔炎はすぐに消えるが、腿まで魔炎に包まれた左足にはすでに魔障が広がり、動かない。アレクの哄笑が巨石の間に響いた。
「チェックメイトだ、エドワード!」
魔炎の大蛇が大きく首をもたげた。
「くそっ」
エドワードは反射魔法を発動するが、相手は自分より詠唱能力が上の魔法士。結果は見えている。
(……詰んだかな)
エドワードは苦笑する。もう左足に感覚がない。
(せめてあいつを逃がしてやらないと)
巻きこんでしまった少女。よく笑い、単純で、馬鹿馬鹿しいくらいお人好しで。
戦闘する姿もドレス姿も、ハッとするような美しさを持っていて。
(綺麗だと、伝えられなかったが)
即座に聖弾を再装填、ガドゥの動きを少しでも封じようと標的を捜す――その翡翠の双眸が驚愕に見開かれた。
エドワードに向かって飛んできた銀影は。
「なっ……にやってんだ!!」
「エドワード伏せてーっ!!」
ビビアンの背後からはガドゥが怒り狂った形相で迫っている。その後ろに魔炎が重なった。
「《テンペスタス》! 指輪よ魔力を貸して!!」
ビビアンがかざした左手から光がほとばしった。
刹那、ただの簡易な防御魔法にしか見えなかった魔法壁が七色を放つ。
魔法壁にぶつかった魔炎は弾かれて方向を変え、ガドゥを吞み込み――アレクへと向かった。
「なんだと?!」
アレクは咄嗟に防御魔法を発動、魔炎の大蛇はアレクの掌から分離し、操作を失った魔炎はとぐろを巻いてガドゥにまとわりつく。
「グガガガガガゥオオオウウウウ!!」
凄まじい慟哭のような咆哮。赤い魔炎の中で踊るようにガドゥが悶えた。




