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5-4 処刑の丘


 乾いた風が強く吹く。

 太陽の残照が地平線にまだ残る。空には振るような星が瞬き始めていた。


 この場所は少し小高い丘になっていて、眼下の広い平原が見渡せる。平原はただ平原だけど、崩れかけた石造りの建物がぽつぽつと建っていた。


「さっきまであそこにいたなんて信じられない」

 少し前、アレクさんがやってきてこの丘に連れてこられた。



 目をつぶって、と言われ、少し身体が揺れるような感覚に包まれた直後、目を開けるともうこの丘にいた。

 移動魔法までさらりと使えるなんてアレクさん、さすがは『奇跡の封印』作戦部隊の詠唱者テイマーだった人だ。



 広い丘には円を描くように巨石が並んでいて、わたしたちは巨石に囲まれた円の中央にいた。

 わたしの周囲には複雑な幾何学模様の魔法陣が仄青く光っている。

 きっとこれまた強固な檻の魔法陣なんだろう。磁石が反発するように、魔法陣の外へ行こうとすると内側へ跳ね返される。



 魔法陣のすぐ外にはアレクさんが立っている。その視線は遠い。アレクさんの傍で奇妙に身体を揺らすガドゥの唸り声が風の音と混ざった。



「寂しい場所ね」

 わたしは思わず呟いた。

 話しかけたつもりはなかったけれど、アレクさんが振り向く。



「ここはかつて、処刑場だったんだ」

「えっ」


 知らなかった。


「さっき私たちがいた建物に収容された罪人は、ここで処刑されたらしい。あそこにほら、白い森が見えるだろう?」


 建物群の向こうに、聖都を囲む森の一部が見えている。

 そこは普通の森と違って、白い木々が群生していた。だからこうして暗くなってもその部分だけが闇に浮かび上がって見えた。


「ここで処刑された罪人の遺体は、あの森へ運ばれたらしい。あの森は太古の森と呼ばれていて、決して人は近寄らない。あの森で罪人は土に還り、その魂は今も、そして永遠に太古の森を彷徨っていると言われている」

「知らなかった……聖都のすぐ外にそんな場所があるなんて」


 聖都は女王陛下の住まう場所。アルビオン聖女王国の中で最も聖なる場所。

 そのすぐ近くに罪人を処刑し、葬る場所があったなんて。



「聖なるものには必ず影があり、血塗られた歴史があるんだよ。――そうだろう、エドワード」



 いつの間にか、巨石の間の闇に浮かび上がるように長身の人影が現れた。



 同時にわたしを囲んでいた魔法陣がすう、と消える。

 すぐにガドゥがわたしに近付いてきて犬のように嗅ぎ回ると、アレクさんが鋭い声で言った。

「我が僕よ! 我がいいと言うまで乙女に手出ししてはならない! おまえは乙女を見張るのだ!」


 不満そうに唸るガドゥにアレクさんが手をかざす。黒い靄のようなものがどろり、と流れ出てガドゥの身体を取り巻いた。


《アドモネイレ》

 ガドゥが喉をかきむしって苦しみだした。土気色の肌に赤黒い傷が滲んでいく。

「罰を受けたくなくば、役割を思い出すがいい。不完全なおまえなど死霊魔術ネクロマンシーの作り物でしかないのだからな」

「死霊魔術ですって?!」


 それはアルビオン聖女王国で禁忌とされている魔術の一つ。


「アレクさん! ガドゥは封印を解けかけてるんじゃなくて、アレクさんが死霊魔術で操ってるってことですか?!」

「そうだよ。このおぞましい魔物は死霊魔術ネクロマンシーで作った不死人ゾンビだ。私の意のままに操れる。ただし元が上級魔物だから自我が強くて、死霊魔術のために欠片を集めてやったら復活できるってカン違いしてるみたいだけどね」

「そんな……!」


 禁忌魔術は恐ろしいとされるもので、魔法士ならばその魔術の名を口にするのも躊躇われるという代物だ。

 それを、こんなに涼しい顔で。


 アレクさんは近付いてきた黒い人影に極上の笑みを浮かべた。


「ようこそエドワード。会いたかったよ」


 アレクさんとは対照的にエドワードは闇に浮かぶ氷の彫像のようだ。

 黒い戦闘服に身を包み、青白く光るような空気を発する姿は、まさに魔王。

 エドワードはわたしをちら、と見て言った。



「約束通り来てやった。そいつを解放しろ。でなければおまえを今すぐ殺す」




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