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5-3 聖騎士団長官ジョージ・ブライトの指令



 聖都ロンディニウム郊外。

 聖都西大門の先にある広大な敷地には、聖都守護の魔法陣を収める巨大な白亜の神殿がそびえる。


 大小いくつもの聖騎士団の隊が、その神殿を囲むように布陣していた。

 黒地に赤の剣、白の杖、金の縁取りの聖騎士団旗がいくつも翻り、さながら戦争体勢の様相を呈している。



 ひと際おおきな聖騎士団旗の立つ幕屋に、一人の聖騎士が急ぎ足でやってきた。



 紫色の波打つ髪を一つに結い上げた肉感的な美女は颯爽と歩く姿も美しい。

 だが、幕屋の警備騎士は美女の姿を見た途端、震え上がって敬礼した。

「ご苦労」

 美女は軽く答礼し、幕屋の入り口をくぐると幕屋の主に最敬礼の姿勢を取った。


「魔法部門修復部隊より伝令。聖都守護魔法陣の修復が完了したとのことです」



 これに頷いたのは深い皺が刻まれた柔和な髭面。

 老齢の域に入ったいまも現役で現場の指揮を執り続ける生きた伝説レジェンド、ジョージ・ブライト聖騎士団長官だ。



「ご苦労さまジュリア。他の頼んだ件はどうだい?」

「は。まずアルトワ邸の件ですが、リアンクール元帥の使者に賜りました報告では、パーティーの招待客はすべて、アルトワ邸地下に用意された避難所に待機しているとのことです」

「アルトワ邸に派遣したボルチモア隊に、招待客で帰宅を希望する人々を屋敷まで護衛するように指示を出してくれる?」

「御意。あの、ブライト長官」

「んん?」

「報告では、アルトワ邸を制圧したのはボルチモア隊ではなく、パーティー客の男性とその同伴者の女性らしいのですが……」



 言葉を濁した部下にブライトはニコニコと続きを促す。



「ふんふん、それで? 遠慮しないで言っていいよ」

「は。実はその男性客が……エドワード・クラインだったという情報があるのです。真偽は確認できておりませんが」

「うん、それはエドワードだよ。僕がパーティーに潜入させたからね」

「え?!」

「この件の最初から僕が聖ベルナルド塔へ呼んでいたんだ」

「なっ……」

「ガドゥの再封印するなら、彼にやらせるしかないと思ってねえ。君も知っての通り、封印に直接関わった本人だからさ」

「あのっ、それはエドワードが聖騎士団へ復帰するということでしょうか?!」



 色めき立つ部下を、ブライト長官はどうどうと制する。



「ごめんねえ、まだそこまで口説けてなくて。今回はクライン商会への仕事依頼、という形でエドワードを引っぱり出せただけ」

「そ、そうでしたか……」

「もちろん僕も諦めてない。これからも度々エドワードにはちょっかい出すつもりさ。優秀な新人候補ちゃんもくっ付いてくることだしね」

「新人候補……それはエドワードの同伴者だという女性でしょうか」

「うん。アルトワ邸を制圧したのは間違いなくその二人だね。――どしたの、ジュリア?」


 ブライト長官は眉間を険しくした部下を覗きこむ。



「は、それが……そのエドワードらしき男性客と同伴者の女性が忽然と消えたらしいのです」

「消えた? ふむ、聖都の中のレッドキャップを鎮圧に行ったかな」

「わかりません。それと、実はアルトワ邸で死者が一人出ているのです。受付を担当していたらしき使用人です。その死因がどうやら――」


 ジュリアは声を低めた。


「――傀儡魔法マリオネットによるものらしい、と」

「本当かい?」

「はい。額にその証の黒い印があったそうです」



 柔和な初老の男の顔が一転、鋭い双眸に炯々とした光を宿す。



「今現在、聖都で傀儡魔法を使える魔法士は多くない。そしてその多くは、僕も含めて聖騎士団に所属している。ということは、聖騎士団員に犯人がいるか、もしくは――」

「《《過去に》》聖騎士団員だった者の犯行です」



 ジュリアの硬い声にブライトは頷く。



「わかってるよね?」

「はい。――アレクセイ・スミルノフ」



 ブライト長官は大きな溜息をついた。



「やっぱりこのシャレにならない悪戯を仕掛けたのは僕のもう一人の愛部下だったのかあ。聖都の守護魔法陣を一人で破壊するなんて芸当も、バラバラにして封印した太古魔を集めて死霊魔術ネクロマンシーで操るなんて執念も、あの子らしいもんねえ」

死霊魔術ネクロマンシー?! アレクは禁忌魔術に手を出しているのですか!」

「たぶんね。そう考えるとすべて辻褄が合うから。君も、惨殺された巡回騎士の遺体を見ただろう」



 巡回聖騎士が死亡した現場も、聖騎士の遺体の状態も、残虐な凶暴さを示唆するものだった。ガドゥの目撃情報より、かの太古魔は完全復活を果たしていないから、死霊魔術ネクロマンシーで操ったとしか考えられない。



「確かに人間業じゃなかった。頭蓋骨が粉々に砕けていたんですから。ガドゥがやったのは確かかと思っていたが……アレクが死霊魔術で操っていたなんて」

「やっぱり彼とは敵対するしかなさそうだね……人の命を奪った者を聖騎士団が放っておくわけにはいかない。それに、エドワードと新人候補ちゃんはきっとアレクを追っている」


 ブライト長官はぶつぶつと呟き、顎髭をなでたのち、耳に掛かった指令用のレシーバーに触れて声を張り上げた。


「聖都西大門一帯に展開している全部隊に伝令。これより撤収作業に入り、順次聖都に帰還。ただし魔法部門の修復部隊と神殿を警護する攻守部隊のみ指示があるまで残留せよ。聖都に帰還した部隊は聖都内を巡回、レッドキャップによる被害確認と被害救済に努めよ――以上」



 そして、くるりと振り返り、ジュリアに告げる。

「ジュリア、すぐにマックスを呼んでくれ」

「は。エリオットとケント、ユリアは」

「彼らは残留隊だし、そこから外せない」


 ジュリアは唇をかみしめる。彼らはかつて、ジュリアとエドワード、アレクセイと共にガドゥ封印作戦のメンバーだった。

 聖騎士団創設以来の最強部隊を言われた自分たちが、なぜあんなことになってしまったのか。あのときの苦い思いは今でも胸で疼いている。


 ブライト長官は静かに、しかし力強く言った。

「『奇跡の封印』作戦部隊、五年ぶりの再会だ。ジュリアとマックスは僕と一緒に来なさい」


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