5-2 アンティークとリンゴ
「これでどうかしらねえ?」
エマが出してきたのは、見事な金細工の置物だ。
ペガサス二頭が大きな馬車を牽いているもので、置物とはいえ今にも駆けだしそうな躍動感にあふれている。
「エドワードの指定した品を探すのが一苦労だったわ。骨董品の在庫が予想外に多くて。作製から100年以上で、できれば聖獣が引いている乗り物。該当する中で一番状態がいいのがこれだったんだけど、他の品も確認する?」
「いや、これでいい。エマの目は確かだからな」
エドワードの言葉に、エマはおどけて肩をすくめる。
「お褒めいただいて光栄だけど、まさか今、商取引の話じゃないわよね?」
「ああ」
「やっぱり、約束の場所に持っていくわけ?」
「まあな。急な頼みですまなかった」
「エドワードに急に何かを言い付けられるのは慣れてます」
エマは軽く息を吐いて若き所長を観察する。
今は落ち着いている様子だが、つい先刻、エドワードは帰宅したときは見たことがないくらい血相を変えていた。
そのまましばらく事務所のキッチンにこもっていたと思ったら、「骨董品の在庫から聖獣とキャリーが一緒になった置物、それから食用のリンゴを用意してほしい」と指示されたのだ。
エドワードは珍しく戦闘服のままだった。
(ビビアンのことが心配なのね)
エマは微笑んでエドワードの肩を軽く叩いた。
「ビビアンはきっと無事よ」
「……べつに心配はしていない」
「あら、そうなの? 顔に心配だって書いてあるけど」
エドワードはあわててふい、と視線を逸らす。
「そ、そんなことはない。図太い奴だから問題ないと思ってる。指輪を持っているからすぐに殺されることもない。おそらくアレクも指輪の解呪方法は知らないだろうからな」
「そうだといいけれど」
エマは事の一部始終を聞いていた。
アレクセイ・スミルノフとの過去の因縁も知っているので、これからエドワードが向かう場所に大きな危険が伴うことも重々わかっている。
「絶対無事に帰ってきてちょうだい。セイロン島へ紅茶の買い付けとか、途中になっている仕事が山積みでしょ。あたし一人じゃ捌けませんからね」
「はいはい」
苦笑するエドワードに、エマは小さなバスケットを手渡す。
「それから、ビビアンをぜったい連れて帰ってきてね。あの子はダイヤモンドの原石よ。いろんな意味でね。失くしたらクライン商会は大損失よ」
「あいつは、クライン商会には関係ない。巻きこんだことは悪いと思ってはいるから責任を持って救出はするが――いてっ」
エマのふっくらとした手がばしん、とエドワードの肩を叩いた。
「なに言ってんの! 関係大ありよ! エドワードだって本当はわかってるんでしょ? あたしもあの子が大好きで気に入ってるし、グレゴリーだって同じ気持ちよ。そしてクライン商会には人手が足りない」
「あいつは学生だ」
「あらいいじゃない。アルバイト大歓迎だわ」
「…………」
エマが手渡したバスケットには真っ赤に熟れたリンゴが溢れるくらいに入っていて、甘酸っぱい香りを放っている。
「季節外れだから、手に入れるのが大変だったわ。ビビアンの好物なの?」
「知らん。あいつの好物は関係ない」
拗ねたようにふい、とエマから視線を外し、エドワードはリンゴを一つ取ってかじる。
「――うん、美味い。よく熟れて、芳香を放っている。これだけの物をこの短時間で仕入れるとは、さすがはエマだな」
「持ち上げても何もでませんよ。で? 何に使うのよ?」
エドワードはしゃくしゃくとリンゴをかじり、一個を食べきって満足そうに頷いた。
「このリンゴなら上手くいくだろう。精霊というのは高低関係なくリンゴが好物だからな。下級の魔物もそうだ」
「はあ……ビビアンじゃなくて、なんでまた精霊や魔物の好物を?」
「かつてアルビオン一と言われた上級詠唱者が相手なんだ。ハンデをもらわないとな」
エドワードは不敵な笑みを浮かべた。




