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5-1 ビビアン、指輪の解呪方法に気付く


 きいぃ。きいぃ。

 太古魔ガドゥがの鋭い爪が、金属の扉を執拗に引っ掻いている。



《小娘ガ……我ノ身体カエセ……我ノ一部……》



 地獄の底から這ってくるようなおぞましい声が、扉の外で呪いの言葉を呟く。



《カエセ……我ノ身体……》



「うっさいわねちょっと黙っててくれる?!」


 わたしは思わず叫んだ。

 扉の外では怒りの咆哮が上がるが無視することにする。


「わたしは、今のわたしにできることを全力でやっているところなの! 邪魔しないでちょうだい!」


 ガドゥが吼えた。

 けどいくら吼えたって怖くありませんから!



 アレクさんによれば、扉には強力な魔法がかかっているからぜったいに開けたり破壊できないとのこと。だからガドゥが叫ぼうが暴れようが大丈夫だもんね。ふっふっふ。

 しかも扉の外にいるガドゥは完全復活体じゃない。神話とか伝承で伝えられているような強大な魔力がない。



 だってその魔力の源泉である指輪は、わたしの左手の薬指にあるんだから。



「こっちはそれどころじゃないのよっ、もう……『魔法全書』の古語訳ってなんでこんなに難解なの?!」


 そう、わたしは指輪を外す方法をさっきから探っている。

 アレクさんと闘ってここを出ることは不可能だと早々に覚ったわたしは、次にここを出られるときのために今できることをやろうと思ったのだ。


 それが、指輪の解呪。


 エドワードは聖ベルナルド塔で「おまえにしかできない。自分で解呪方法を発動しろ」と言った。

 だからしかるべきタイミングで解呪を発動できるよう、解呪方法を理解しておきたい――のだけど。


「ええっとなんだっけ……指輪は腕環、首飾り、耳環と同様、装着者の感情と同化する魔道具である。――ここまではいいのよね」

 聖ベルナルド塔でエドワードがくれた指輪の解呪方法についての訳文。これが言葉が難解すぎる。


 解呪方法に触れている部分の訳は睡魔すら襲ってきそうな言葉の羅列だ。


「……その解呪には装着者の感情的動き及び波動の高低が必須であり特に装着者の特定の人物に対する対人的特殊感情及びその感情に端を発する衝動的感情表現動作が最も効果を発揮する。――ってどういうこと?!」



 落ち着いて。落ち着いてわたし。

 これを解読できたらエドワードが来たときにこちらが有利になるかもしれないんだから。知らんけど。



 とにかくなんでも、できることはやりたい!

 エドワードや、困っている人たちのために。

 そして、アレクさんのためにも。



『もう一人の友を私は今、待っている。――殺すためにね』

 アレクさんはそう言った。


 記録には「行方不明」となっているアレクさん。

 何か事情があって姿を消し、エドワードを殺すために姿を現したのだとしたら。

 わたしには事情はわからないけれど、なんだかとても……切ない。

 だってアレクさんは、エドワードのことを「友」と言っていたから。


 きっとアレクさんは、今回の事件の中心にいる人だ。聖都の守護魔法陣を破壊したのも、ガドゥの封印を解いたのもアレクさんなのだろう。

 それは決して許されない重罪だ。聖都を混乱と恐怖に陥れ、死者も出ている。


 でもわたしは、アレクさんが淹れてくれたミルクティーの味と、あの悲しそうな歌声が忘れられなくて。


 指輪を解呪することが役に立つかわからないけど、とにかく自分にやれることは全部やりたい。


 その一心で、再び訳文の書かれた白い便箋をじっと睨む。


「待ってわたし落ち着いてわたし。順番にいこう。まず『装着者の感情的動き及び波動の高低が必須』。装着者の感情的動き? 喜怒哀楽、ってことかしら。それの波動の高低。喜怒哀楽の強さ、ってこと? それが必須……」


 わたしは次のセンテンスを睨む。『装着者の特定の人物に対する対人的特殊感情』?


「例えば誰かを好きとか嫌いとか、そういったことかしら。『及びその感情に端を発する衝動的感情表現動作』……」


 衝動的感情表現動作。

 つまり、好きとか嫌いとか憎んでいるとか、そういう感情から思わずとってしまう行動ってこと?


 そうやって、続く訳文の難解な言葉をひとつひとつ解きほぐしていくと、『身体的な密着』とか『対人的特殊感情を持つ相手にのみ取る行動』とか、一見チンプンカンプンな言葉が意味を帯びてくる。


「これってまさか……キス、ってこと???」


 そうしてわたしは思い出す。

 エドワードがなぜか顔を赤くして恥じらい、しきりに「おまえにしかできない」「俺は何かを言う立場にない」と言っていたことを。


 つまり――。



「わたしが想い人とキスするってこと?!」


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