モノローグ➂
グレゴリーに一切の取り次ぎをしないようにと指示し、俺はクライン商会の扉を固く閉じた。
無性に、熱い紅茶が飲みたかった。
事務所に付属した小さなキッチンへ入り、水道から勢いよく水を汲み、ケトルを火にかける。
その間、棚に並ぶ缶から茶葉を選ぶ。少し迷ってルフナの缶を取った。今はしっかりとした渋みが欲しかった。
ポットに茶葉を入れ、沸いた熱湯を注ぎ、砂時計を立てる。
「最後に会った場所、か」
わかっている。
ガドゥ封印の地だ。
忘れもしない、後に民衆から『奇跡の封印』と称賛された、あの呪いのような出来事のあった場所。
「願ってもない。俺はブライトからガドゥを再封印する依頼を受けている」
言い聞かせるように声を出しても、足元から這い上がってくるような不安がぬぐえない。
なぜだ?
なぜアレクは、あの忌まわしい場所を指定した?
ガドゥ復活が目的じゃない。それは口実で、奴の狙いは他にある。
それがわからないから俺は不安なのだろう。
あれからずっと、俺はアレクセイ・スミルノフを捜していた。
予想通りあの最凶の太古魔の封印を解いたのはあの男だった。
ガドゥを再封印するとき、《《あの男はきっと、再び俺の前に立つ》》。そう思っていたし、その通りになった。
だが――なぜアレクはガドゥの封印を解いた?
ガドゥを復活させるため?
違う。奴は禁忌魔術である死霊魔術を使っていた。
ガドゥに身体の欠片を集めさせたのは太古魔の復活を祈ってじゃない。操れる程度に本体を維持するという邪悪で身勝手な目的のためだ。
――《《あのとき》》。
アレクは、俺以外の全員をガドゥと共に殺そうとした。
封印が成功し、隊員が身も心も安心しきった頃合いを見計らっての行動だった。
『なぜだい、エドワード?』
緋色の瞳は深い悲しみを湛えていた。
『おまえこそなぜだっ、なぜこんなことをっ……』
俺が咄嗟に防御魔法を展開しなかったら全員、アレクの葬送魔法で死んでいただろう。
『私は君だけがいればよかったのに――』
その言葉と共に、アレクは突然、姿を消した。
残ったのは、自分の愚かさと傲慢さへの絶望。
アレクは唯一の友だった。異邦人と蔑まれ陰口をたたかれ、己の才覚だけで聖騎士団の中で地位を築いていったアレクを尊敬もしていた。
その友が抱えていた闇を、俺はわかっていたつもりになっていただけだったのだ。
砂時計の砂が落ちきった。
カップに注いだ深い赤茶色の紅茶に口を付け、その渋みは正統かつ最高のものだが、思わず顔はしかめてしまう。
ふと、ころころとよく表情の変わる顔が脳裏をよぎった。
ビビアンにこのルフナを飲ませてやりたい――強烈にそう思う。
その瞬間、視界がさあっと明るくなった。
アレクの目的がなんであれ、ビビアンを救出しなくてはいけない。
彼女を巻きこんではいけない。いや、もう巻きこんでしまったのかもしれないが――元の世界に戻してやらなくてはならない。
その思いを刻むように紅茶の渋みが口いっぱいに広がる。
俺は最後までミルクを入れず、熱いルフナを飲み干した。




