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1-4 助けてくれたけど魔王でした。


 長身にダークグレーのスーツ姿からはこんな時なのに気品が滲んでいる。

 一見特別区のオフィスに勤めるビジネスマンのようだけれど、その手には薄く煙の上がる銃がある。

 輝く白金髪の下の顔には鋭い翡翠色の双眸。

 そして、おそろしく整った顔立ちをしていた。


 その人がどこから銃を撃ったのかわからない。でも、動く標的すべての額のど真ん中を撃ちぬくとは相当な射撃の腕だ。



「あの……」

「おまえ、何か持っているだろう」

「え?? 何かって言われても――」

「出せ」



 魔王のような冷えた声にわたしは制服のポケットをあわてて探る。

 ハンカチ、生徒手帳、なけなしの小銭しか入ってないウサギ型のお財布。以上。


「早くしろ!」

 ひえええ!

 苛立った声にあわててしまう。この人、こんなに身なりが良いくせに新手のカツアゲなの?!

 わたし、何も金目の物は持ってない。

 でもこの人、銃を持ったままだ。聖弾ってヒトにも有効なんだっけ? 

 ていうかすごく睨んでる! 威嚇されてる!

 ええい仕方ない!!



「ご、ごめんなさいこれで許して! 500マニーしか入ってないけど……」

 わたしがウサギ型財布をおずおずと差し出すと、魔王の睨みがカッと冴えた。

「ちがう!!」

「えっ、まさか生徒手帳?! それはちょっと無理です!」

「アホかおまえは!! レッドキャップを引きよせた物を渡せって言ってんだよっ!!」

「レッドキャップを引きよせた物??」


 魔物がわたしの持ち物に引き寄せられた?

 なんで??



「えーっとそれは……どんな物ですか?」

「干からびた耳とか鼻とか髪とか、爪ということも有りうる」

「そんな気色悪い物持ってるわけないでしょう?!」

「だがレッドキャップはおまえを狙ったんだ!」



 鋭い声にハッとする。わたしは左手をぎゅっと握りしめた。



 指輪。

 わたしの持ち物で何か変化があったとすれば、さっき拾った指輪だ。



「さっき、指輪を拾いました、けど」

 おそるおそる言うと魔王の眼光が鋭くなった。

「それだ! 早く渡せ!」



 もうわたしの中ではすっかり『魔王』のこの人は喰いついてきそうな勢いで迫ってくる。

 こわい! 

 でも禁断の四号館教科準備室で拾った物をカツアゲされたなんて言ってもたぶん先生たちは信用してくれないだろう。

 そうしたら反省文だけじゃ済まなくなる!



「あ、あなたには渡せません! これは学校で見つけたんです!」

「何?」

「たぶん何かの魔道具です。先生に届けるつもりでした」

「アホかっ、教師に届けても事態は悪化するだけだ!」

「だ、だからって見ず知らずのあなたに渡すことはできません! 助けてくれたことには感謝してます! ありがとうございました! では!」



 わたしは一気にまくしたてると校舎へ向かって猛ダッシュした。

 ふふん、足には自信がある。学年では男子でもわたしと張り合える人は少ない。

 ぜったい追いついてこれないだろう――と思ったらひええええ! 追いついてきてる! 

 嘘でしょ?! なんなのこの魔王!!



「ふざけるな!」

 腕を掴まれた。

 美形魔王はすごい剣幕で迫ってくる。宝石のような翡翠色の双眸には怒りと苛立ちが滲んでいて視線だけで殺されそうで思わずわたしは身をすくめた。



「指輪を出せ!」

「い、いやよ離して! 聖騎士団を呼ぶわよ?!」

「呼びたければ呼べ! とにかく指輪は回収する!!」

「なっ……ちょっと! 変態! チカン! 何するのよっ!!」

「抵抗すんなっ!!」


 なんと美形魔王は私の制服のポケットに手をつっこんでこようとする!

 わたしと魔王はプラタナスの並木道で半分乱闘のもみ合いになった。



「おい君! 何をしているんだ! 生徒から離れなさい!」

 先生たちが数名、走ってくるのが見えた。

 魔王は舌打ちすると素早く走り去った。なんという足の速さだろう。先生たちがわたしの前に来る頃には、すっかり姿が見えなくなっていた。


「な、なんなのあの人……」

 わたしはぜいぜいと息を切らして呆然とする。

 助けてくれたと思ったらカツアゲしようとするし、挙句の果てにはチカン未遂だよ?!


 かと思えば、凄まじい射撃の腕と足の速さ。人間離れした気品と美貌。



 まさに『魔王』――そう呼ぶにふさわしいと思う。


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