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4-12 攫われたビビアン


 アレクはくつくつと愉快そうに笑う。


「あのとき、《《私の提案を聞かずに聖騎士団の任務を全うした》》君の苦労も骨折り損だったわけだ。君はあのとき私と一緒に来るべきだったんだよ、エドワード」

「――聖都を、この国を滅ぼす、なんて絵空事まともに聞くわけないだろうが」

「できたはずだ。私と、君なら。でも君は拒んだ。聖都を守ると言った。聖都は弱者の巣窟なのに。強者にすべてを押し付け、富と安寧を貪る弱者のね」

「俺はあのとき聖騎士だった。聖都を守るのが聖騎士の職務だろうが」


 低く呟いた言葉に、黒衣の美青年は微笑む。


「やっぱり、日の当たる場所で生きてきた君にはわからないんだね」

 刹那、その薄い唇の上に湧いた無数の擦過音にエドワードはハッとした。

「しまった! 詠唱を」


 エドワードは防御壁を崩そうとわずかな望みをかけて聖弾を再装填リロード、しかし、アレクが詠唱を紡ぐ方が早かった。


『我がしもべよ』


 その呼びかけに応えるように地を這うような咆哮が中庭の隅から上がる。


「僕だと?! まさか――」

 アレクはガドゥの欠片を集めた、と言っていた。

 封印された魔物からは魂が抜けている。欠片を集めたとしてもただ死体を修復するだけにすぎない。

 それなのに、自在に操っているということは。


「まさか死霊魔術ネクロマンシーを使ったのか!!」

「そうだよ。だって私が操れるようにしなくちゃ意味ないだろ。聖騎士団を裏切った私にアルビオンの掟など無関係だからね」


 緋色の双眸の美青年の横に、襤褸をまとった歪な巨躯が立つ。

 土気色の肌は無数の赤黒い掻き傷に覆われ、巌のような手のひらが前へ伸びてゆらゆらと彷徨う。

 まるで何かを探し求めているように。

 それは見るのもおぞましい、死せる者によって作り出される不死人ゾンビだ。



「この愛くるしい女性がガドゥの最後の欠片……指輪を持っているんだろう?」

 無言のエドワードを見てアレクはうれしそうに緋色の瞳を和ませる。

「やっぱりね。君はYesのとき、特に表情が消えるから」

「おまえの思い違いだろ」

「そうかな? まあいずれにしてもガドゥが現れたのに指輪は反応しない」


 アレクは腕の中のビビアンを見る。


「ってことは指輪には呪いがかかっていて解呪方法があるはずだ。それを君は既に知っている。だろ?」

「教えてやってもいいがビビアンを解放するのが先だ」

「なるほど」


 にやり、と赤い唇が上がり、囁き声のような詠唱が紡がれた。


「我が僕よ。目の前の敵を殺せ」

『我ノ身体カエセェエエ!!』


 巨大な不死人が大きく跳躍した。

 エドワードが立っていた地面にガドゥが拳を叩きつけたときには、エドワードは既に離れた地面に着地。

 しかしすかさず狡猾な巨躯はエドワードの動きを遮るように剛腕を振り上げる。


「我が僕よ、彼を足止めしておくれ。戦闘術では私は彼には及ばないのでね。時間を稼いでほしい」

『グオォオオオオ!』

 ガドゥの猛攻にエドワードは遠ざかるアレクの背中を追えない。

「くそっ……ビビアンを返せ! そいつは無関係だ! 巻きこむな!!」



 トリガーが加速魔法ヘイストの速さで連続操作される。

 不可視魔法に物理攻撃が効かないのは重々承知、だがそれでもわずかな望みをかける。おそろしいまでの精度で標的を狙った聖弾がガドゥの後頭部、アレクの両腕両足の位置に撃ち込まれた――刹那。



 黒衣の袖が大きく上がった。



「!」

 銀色の弾光が跳ね返され、エドワードが咄嗟に防御魔法シールドを展開したのと風が起こったのは同時。

 突風が散乱するパーティーの残骸を巻き上げて大広間に吹き荒れる。


『宝物を返してほしければ、一人であの場所へおいで。君と私が最後に会った場所へね』

「待て! アレク!」



 哄笑が風と共に大広間を去った。



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