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4-11 アレクセイ・スミルノフ



 上下から襲い来る魔物の眉間を瞬時連続で撃ちぬき、左右から迫る凶刃を防御魔法シールドで弾く。


「邪魔だ!」


 加速魔法ヘイストでさらに神業と化した反射速度で次々とトリガーを引き、前方向から集まってきた群れを全滅させる。

 猛襲するレッドキャップを速やかに黒砂へ変え、エドワードはやっとアルトワ邸の周辺から中庭へ戻ってきた。


 屋敷の中へはほとんど侵入させなかったから、ビビアンの剣の腕なら一人でもなんとかなっただろうとアテを付けて。


「ビビアン。 周辺のレッドキャップは殲滅した。屋敷の中はどうだ」


 色とりどりの風船で飾られた悪趣味な中庭には使用人の一人すらも残っていない。

 面した大きなテラスから大広間に入る。

 中は惨憺たる有様になってはいたが倒れている者もなく、人影もない。移動地点ワープゲートにした巨大なマントルピースが緑色に淡く光っているだけだ。


「ビビアン、客は全員、避難を終えたのか」


 やはり返事がない。戦闘中か?

 

「ビビアン聞こえてるか! 返事をしろ!」 

『――ビビアン、というんだね。この愛らしい女性は』



 鼓膜に触れた柔らかい声に、エドワードは一瞬で総毛立った。



「まさか」

 ずっと探していた、この声の主を。



「アレクセイ・スミルノフ……」

『ふふ、気付いてくれてうれしいね。心配してたんだ。こんなに愛らしい女性を見つけた君は私のことなど忘れてしまったのでは、とね。ああ、せっかく趣向を凝らしていろいろと演出した労力が無駄にならなくてよかった』


 喉の奥でくつくつと笑う声。姿は見えないが、足元からぞわぞわと嫌な予感が這い上ってくる。


「アレク、何を考えている」

『君から大事なものを奪ったらきっと楽しいだろうってね』

「ビビアンに何をした」

『何も。あまりに愛らしいから、お持ち帰りして私の花嫁になってもらおうかと思っているけどね』

「ふざけるな! ビビアンはどこにいる!」

『ここだよ』



 さあっ、と目の前の景色が切り取られるように色を変えたかと思うと、その場に浮かび上がるように人型が現れた。

 

不可視魔法インビジブルか……!」

 それはアルビオンに存在する上級詠唱者テイマーでもほんの一握りの者にしか操れない特殊魔法。自分や自分が干渉する物を不可視にする、神の領域とも言える魔法だ。


 しかも今、アレクの周囲に立ち込める薄いカーテンのような幕は不可視魔法の防御壁。これには銃はもとより、物理的な攻撃が効かない。

「久しぶり。相変わらず神に愛されし美々しさだね、エドワード」


 美しい邪神のように微笑むかつての親友の腕で、黒い戦闘服の可憐な姿がぐったりしていた。



「ビビアン!」

 黒衣の中のビビアンはぴくりとも動かない。

「心配無用だ。ちょっと眠ってもらっているだけ。起こす? やっぱり眠り姫は優しいキスで起こしてあげなくちゃね?」


 アレクの長い指がビビアンの銀色の髪をかき上げ、桃色の唇をなぞる。


「キスだと……やめろーっ!!」


 エドワードが動揺すると、アレクはにやりと口の端を上げた。


「妬ける? それとも怒る? この子とはキスもまだだったりして?」

「そ、そういうことじゃない!」


 エドワードの脳裏に、聖ベルナルド塔で閲覧した指輪解呪方法がよぎる。

(いや、俺の読み違いでなけれはあの記述は『被解呪者の感情の揺れ』が深く関与すると言っていた。ならば大丈夫なはず……はずだが万が一ということもある!)


 エドワードの苦悶の表情に、アレクはくつくつと邪悪に微笑んだ。


「そんなに大事? やっぱり、この子は私が花嫁にしよう」

「だっ、だからそうじゃなくてっ……ていうか花嫁っておまえは何がしたいんだ! 五年も姿をくらましていたのは花嫁探しのためなのか!」


 アレクは心底楽しそうな笑い声を上げた。


「まさか。花嫁探しで姿を隠したわけじゃない。私はガドゥの欠片を集めていたんだよ」

「何?」

「大変だったよ。バラバラになっていた欠片を集めるのは。でも私はやり遂げた。君たちがあのとき、満身創痍で私を制してガドゥを封印したのもすべて水の泡だったってことさ」


 エドワードは唇をかむ。

 国民に熱狂的な歓声を上げられる中、誰一人として笑顔になれなかった凱旋が脳裏をよぎる。

 誰も知らない『奇跡の封印』作戦の真相は。

 

――あの時、《《アレクは仲間たちを皆殺しにしようとした》》。




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