4-2 わたしがドレスに着替えたら
「これが、わたし……?」
わたしは思わず鏡の中をまじまじと見つめた。
そこには、淡い紫色のふんわりとしたシフォンドレスを身にまとったわたしがいる。
ドレスは肩から上半身へかけて見事な白銀糸の花模様刺繍とシフォンの薔薇飾りが広がり、控えめな華やかさを演出している。
細いウエストは太めの光沢あるリボンでくくられ、そこからふんわり流れるようにスカート部分が広がる。
アシンメトリーなレイヤーが幾重にも施されたスカートはほどよくふくらんだシルエットを作り、わたしの姿は全方向から美しく見えた。
「す、すごい……これがドレスマジック……」
自分の姿を見て綺麗だと思ったのは初めてだ。
「やっぱりあたしが思った通り。ビビアンはぜったいこのドレスが似合うってね」
満足そうにわたしの髪を編み込みの夜会巻に仕上げ、エマさんがにっこりする。
「で、仕上げはこれね」
エマさんがそっと、わたしの首にネックレスを付けてくれた。
「えっ?! ま、まさかこれ、本物の宝石でわ?!」
首元でブリリアントに光るのは、真ん中に大きなダイヤがあしらわれた草花モチーフのネックレス。
「ええもちろん本物よ。でも安心してね。クライン商会で保険に入っている品だから」
「で、でも!」
「それにコスチュームチェンジしたら自動的に魔法で回収されるから心配しなくて大丈夫よ」
「あ……」
そうだ。
何事もなくパーティーが終わればいいけどそんなことはきっとなくて、レッドキャップ殲滅作戦の続きが待っている可能性大なのだ。
「戦闘用の服はクライン商会仕様の物にしてあるわ。エドワードのコスチュームとお揃いよ」
「えっ、エドワードもコスチュームチェンジするんですか?!」
なんか、ずっとスーツで戦ってるイメージが。
「あはは、そうね。本格的な戦闘になるときはさすがにね。エドワードのスーツにはどれも早替え魔法が仕込んであるから」
そうだったんだ!
「コスチュームチェンジしたいときは、ウエストのリボンをほどいてちょうだいね。それで魔法が発動するから。武器一式も戦闘用コスチュームにセッティングしてあるから御心配なく」
「あ! エマさんにお願いが」
わたしはさっき、収納魔法から出しておいた愛剣をエマさんに渡す。
「これ、武器に加えてもらうことできますか?」
「ええ、もちろん。預かるわね。そろそろエドワードを呼びましょうか。――エドワード! エドワードもういいわよ!」
部屋の扉をノックする音がすぐに聞こえたのでぎょっとした。
反応早っ。もしかして、待たされてお怒りなのでは……!
「……そんなに大声で呼ばなくても隣にいるのだから充分聞こえる」
地獄の底からやってきたばかりのような不機嫌げなエドワードは、黒いタキシードをびしっと着こなして、いつも以上に魔王じみた美貌が冴えている。
こんなレベル違いに美しい人のパートナー役とか本当に何かの罰ゲームかなと今さら思ってしまう。
「ほらほらエドワードも楽しみにしてたんでしょう? 見てあげてよビビアンの綺麗な姿を!」
「今から一日中仕事に同行なんだから見るも何も――」
鏡の前にいたわたしと目が合ったエドワードの言葉が止まった。
その翡翠色の双眸に何かの感情が広がってるのはわかるけど、無表情すぎて何を思っているのかぜんぜんわからない!
「あ、あの……?」
何か言ってほしいんですけど。
これでいいの? ねえいいの??
と聞こうとしたときエドワードがサッと踵を返した。
ええっ?! ノーコメント?!
「支度が完了したら車に来い」
「え?! ちょ、ちょっと待ってよ!」
さっさと行ってしまったエドワードに、わたしはもうちょっと何か言ってよーと思いつつ……ちょっとホッとする。
「ダメ出しなかったってことはこれで合格ってことですよね……って、エマさん?!」
振り向くとエマさんがお腹を抱えていた。
「エマさん?! 大丈夫ですか?! どこか具合が――」
「――あっはっはっは! もうっ、わかりやすすぎ!!」
エマさんは涙目になっている。
具合が悪いんじゃなくて、笑いをこらえていたらしい。
どうして???
「あのエマさん? エドワード的に、わたしの準備はこれで合格ってことですよね……?」
エマさんは涙をぬぐいながら何度も頷く。
「ええ、ええ、合格も合格、ドストライクよ。やっぱり、あたしの思った通り!」
何が思った通りなのか、エマさんはまだ笑いの残る身体を鏡の前のわたしに寄せた。
「うん、ほんっとうに最高に綺麗よビビアン! このエマ様の自信作なんだから、胸張ってパーティーに行ってらっしゃい!」
「は、はあ」
そうね。エドワードにはひとまず合格もらったし、エマさんはこう言ってくれるし、いつまでも気にしててもしょうがないわ!
わたしはパーティーの主役じゃなくて会場に溶けこめばいいんだから、エドワードからクレームが付かないなら問題無しってことで!
「あとはレッドキャップが現れたら、アニーや会場の人たちが危険にならないよう全力で戦うだけです!」
拳を握ったわたしの腕に、エマさんはシルクのロンググローブをかけてくれる。
「くれぐれも気を付けてね。なんだか……嫌な予感がするの」
「え?」
「グレゴリーから、ビビアンは剣術に長けているって聞いているわ。でも、無理しないでね」
「ありがとうございます」
「それから、エドワードのことを信じてあげて。キツイところもある子だけど、とても優しいし、仲間のことはぜったいに見捨てない子だから」
そう言ったエマさんの顔が、初めて見る真剣みを帯びていたから。
「はい、わかりました。エドワードのこと、信じます」
わたしはエマさんの手をしっかりと握り返した。




