3-1 聖騎士団長官の追加依頼
ジョージ・ブライト聖騎士団長官。
若い頃から剣聖と呼ばれ、数々の魔物討伐の功績を上げ、女王陛下に勲章も授与されている。
聖騎士団長官に就任した後も現場で指揮を執り続ける、生きた伝説だ。
「あっはっは、そんなに緊張しなくてもいいよ」
コツコツとブーツを鳴らしてブライト長官が目の前にやって来た。
う、うそーっ!
憧れの人物がこんなに間近に!
しかもすごいダンディ、イケオジだし!!
鼻血噴きそう!!
ぽわん、としているわたしをダンディな髭の顔がのぞきこんできた。
「かわいいねえ、君、いくつ?」
「……へ?」
ブライト長官はすかさずわたしの手を取る。
「うん、健康的なぴちぴちお肌だ! マーリン魔法学園の制服だねえ、何年生?」
「…………七年生です」
ぴちぴちって。ちょっと、いやかなりセクハラ発言では?!
「もしかして君、エクセタル遠征隊所属のローレンス男爵の娘さん?」
「もしかしなくてもそうです。ローレンス男爵に言いつけますよエロジジイ」
エドワードが射殺しそうな目で長官を睨んでいる!
ていうか長官をエロジジイて!!
「まったく、相変わらずエドワードは固いなあ。ほんの挨拶じゃないか。レディの手を取るのは騎士としての嗜みだよ?」
「そんな嗜み聞いたことありません。というか俺はもう聖騎士じゃありません」
「またまたあ~身も心も一度は僕に捧げたくせにぃ~」
イケオジ長官はダンディに笑うが、魔王エドワードは絶対零度の視線でその笑いを抹殺した。
「……で? 何がありました? 俺を資料保管庫に誘導したってことは、聞かれたくない話がしたいんでしょう?」
「あっはっは、やっぱりエドワードは察しがいいねえ」
ブライト長官はひとしきり笑って、ニコニコ顔のまま。
「……守護魔法陣修復のため聖都周辺に展開していた魔法部門の修復部隊がやられた」
まるで世間話みたいに切り出した。
ブライト長官はニコニコ顔のままおっしゃってるけど!
それって、重大事件では?!
エドワードはすうと目を細めた。
「それで? 被害は?」
「うむ。幸い、攻守部隊がすぐに対応したので詠唱者は無事だったがねえ……聖騎士団の主力部隊が聖都から閉め出された」
「すべてですか」
「ほぼすべてだな。つまり今、聖都ロンディニウムは戦力を閉め出してガドゥと愉快な仲間たちを囲っている、というまったくナンセンスな状況になっている」
エドワードはブライト長官の穏やかな顔から何かを読み取ろうとするように、じっと見たまま。
「ロンディニウムの中で動かせる部隊は?」
「小隊が五つといったところだな。もちろん足りない。研修中の聖騎士を投入するしかないねえ」
深い溜息に苛立ちとも後悔ともつかない色がにじむ。
「犯人にしてやられましたね」
「そういうことだねえ」
「で? 追加依頼ですか? 俺を執務室ではなく地下資料保管庫に通したのはそういうことでしょう?」
「ははは、その通り。引き続きガドゥ復活と再封印を目指してもらうと同時に、ロンディニウムの中にいるレッドキャップを殲滅してくえたまえ。題して! レッドキャップ殲滅大作戦! わははは!」
エドワードは呆れたように大きく息を吐いた。
「で? 応戦でなく殲滅となると、聖騎士団から人員を借りたいところですが」
「ごっめーん、それができそうもないんだよぉ」
あまりに気に抜けた返答にエドワードは一瞬固まった。
「は? さっき動かせる小隊五個あるって言いましたよね?」
「それがさあ、ロンディニウム内の巡回に四個使うから」
「一個あまってるじゃないですか! それを貸してください!」
「期間限定、今夜だけなら貸せるよ」
「なんですかその期間限定って! 今夜ももちろん借ります。けど、明日も貸せ!」
「だって明日はさぁ、その貴重な一個の小隊をさあ、クソ貴族……ごほん、さる高貴なお屋敷のパーティー警護にまるっと使わなくちゃいけないんだもん」
「は?! パーティー?! んなもの止めさせろっ、こんな時に人が集まるなんてレッドキャップに襲ってくれと言ってようなもんだろうがっ」
エドワード、怒りのあまり素が出ちゃってるよ。
でもたしかにこんな非常事態にパーティーって……。
「僕もそう思うけどさ、言っても聞かないんだもん。どうしてもそのバースデーパーティーやりたいから警護を出せってそのクソ貴族……ごほん、アルトワ公爵がさ」
アルトワ公爵?!
記憶がフラッシュバックする。
古文書を押し付けられたあのとき、ルシエンヌ様はバースデーパーティーの話をしていた。
アニーに招待状を送ったって言っていた。
ということは、アニーは明日、レッドキャップが徘徊する中、アルトワ公爵邸に行かなきゃならないってこと?!
考えるより先に、口が動いていた。
「わたしも手伝います!」




