2-8 解呪方法に照れるってどういうことですか?!
「い、いや、そのっ」
わたしはあわててそのファイルを棚にツッコむ。
コツ、コツとエドワードの靴が鳴る。魔王顔で近付いてくる。こ、怖い!!
バレた? 見たのバレちゃった??
エドワードは翡翠色の双眸でわたしを睥睨した。
「安心しろ、おまえがおとなしく言うことを聞くとは思ってない。盗み見の一つや二つや三つはすると予想はしていた」
「なっ、失礼な! そんなにたくさん見てませんよっ、一つだけです!」
「やっぱり見たんだな」
「う」
しまったハメられた!
「まったく……」
エドワードは眉間に皺を寄せる。
「しょうがない奴だ。何を見たか知らないが、ぜったいに口外するなよ」
「は、はい……」
よかった! 何を見たかは見られてない!
「それより早く来い。解呪方法が見つかった」
エドワードの背中について行きつつ、でもちょっとがっかりする。
封印作戦の詳細をエドワードの口から聞きたかった。
あの素晴らしい剣技を実際に披露して! って頼みたかった。
まあ見せてはくれないだろうけど……。
それに。
行方不明になったという詠唱者のことも、聞いてみたかった。
閲覧席に戻ったエドワードは、『魔法全書』のとある頁を開いたままにしていた。
「この本はおまえも見ていい。ま、古語が読めないんじゃ猫に小判だが」
開いてある『魔法全書』第九巻には、何やら魔法陣とその説明がびっしり書かれているのだが、すべて古語なためチンプンカンプンだ。
猫に小判……その通り、その通りだけれども!
「はいはい古語が読めなくて悪かったですねっ。じゃあなんで見せるんですかっ」
「説明のためだ」
エドワードはさらりと言った。
「ここには、古より伝わる装飾魔道具の解呪方法が書かれている。指輪については……ここだ」
長い指が一塊の文字群を指す。絡まる蔦のようなそれらは、もちろん何が書いてあるかわたしにはチンプンカンプンだ。
「いいか、読むから聞いとけ。……指輪は腕環、首飾り、耳環と同様、装着者の感情と同化する魔道具である。その解呪には装着者の感情的動き波動の高低が必須であり特に装着者の特定の人物に対する対人的特殊感情及びその感情に端を発する衝動的感情表現動作が最も効果を発揮するのであって、」
「ちょーっと! 待ってください!」
「なんだ」
「まったく意味不明です! つまりどういうことなんですか?」
「……自分で考えろ」
「は?! あ、まさかエドワードもわからないとか……?」
「アホと一緒にするなっ、俺はわかっている!」
「じゃあ簡単に説明してくださいよ」
「俺の口から言うことははばかられる」
エドワードはためらうように視線を逸らした。
あれ? なんだか顔が赤い?
なんで??
「この解呪方法は最速最強の効果を発揮するが、呪われている本人の意志が大いに関係する」
「はあ? はあ……」
「だからおまえが自分で理解し、自分で解呪を発動しろ」
「ええ?! そんな、わたしが発動できるの?!」
「むしろおまえにしかできない。呪われている本人の意志が解呪に大きく関与する方法だからな。そしてその状況をどう設定するかだが、それについて俺は意見できる立場にない」
「?」
まったくわからない。どういうこと???
「いいか、おまえにしかできないんだ」
「そ、そんなこと言われても方法がわからなければどうにもできませんよ!」
「本の内容を書き写すから自分で考えろ。至急、解呪が発動する状況をどこかで作れ!」
そんな無茶ブリな。
しかしエドワードは頑なに説明を拒否し、軽く手を振る。羽ペンが浮遊して、紙にさらさらと書きつけていく。速記魔法だ。
エドワードは速記の終わった紙をひらりとわたしに差し出した。
「解呪方法の訳だ。一刻も早く解呪の方法と手段を決め、解呪発動の状況を作れ」
「だからどんな無茶ブリですか?! 簡単に教えてくれたっていいじゃないですか!」
「だから! 俺の口からは言えん!」
気のせいじゃない。
エドワードはやっぱり顔を赤くしてわたしから視線を逸らしている。
これってもしかして……照れてる表情?
解呪方法が恥ずかしくなるような内容、ってこと?!
どんな解呪方法なのよ!!
裸踊りとか……?
まさか!
「と、とりあえず解呪方法がわかったから良しとする。……どうやら、来たようだからな」
「へ? 来たって……」
エドワードの視線の先を見ると、そこにはいつの間にか人影があった。
立っていたのは白髪交じりの髪をきれいに後ろへなでつけた初老の男性だった。
「いやー、待たせてすまなかったねえ、エドワード。それと、ビビアン・ローレンス嬢」
年齢を感じさせないがっちりとした体躯は、黒と赤の聖騎士衣、そして緋色のマントを纏っている。
緋色のマントが許されているのは、聖騎士ではただ一人のみ。
「ジョージ・ブライト聖騎士団長官!」




