2-7 『奇跡の封印』作戦報告書
わたしは周囲をきょろきょろと見る。
誰もいるはずない。エドワードがいる閲覧机は数列離れている。
いくら魔王でもここまで見渡せないわよね?
そこまで確認すると、一気にわたしの知りたがり好奇心がムクムクと頭をもたげる。
「ちょっとだけなら、いいよね」
ここで見たことを誰にも言わなければ大丈夫なのでは?
だって、これがわたしの夢の原点。
国中が熱狂した『奇跡の封印』の詳細、知りたい!
国を救ったすごい功績なんだから、こんなところでひっそり保管せずに、見たい人に見てもらったほうがいいわよね、うん。
「ちょっとだけ……失礼しまーす」
わたしは誰に言うともなくささやき、ファイルをそっと開く。
「わわ!」
まばゆい閃光がファイルから漏れてわたしは思わず目を覆う。
無断閲覧を防止する魔法がかけられているんだ!
「……って、あれ?」
ファイルが光ったのは一瞬で、ページも指で繰れる。
見れば、左手の指輪が怪しい模様を描いて虹色に光っていた。
「あ、そうか!」
この指輪は、伝説によれば無尽蔵に魔力が湧くのだという。
わたしの生活魔法レベルは中の下、と言ったところで、鍵とか閲覧防止などの解除魔法はまだあやふやレベルだけど、この指輪のおかげでできるようになったんだ!
「ちょっとはいいことあるじゃん!」
わたしはウキウキでページをめくったのだが――。
『ガドゥ封印作戦報告』と書かれたその表紙を見て、どくん、と心臓が大きく跳ね上がった。
なぜだろう。
すごく心臓がばくばくする。
開けてはいけない禁断の扉を開けたときのように、じっとりと手に汗がにじむ。
気のせいかな?
エドワードに「ぜったい見るな」って言われたのに見てしまっている罪悪感?
それでも「見たい」という気持ちは止めれられない。わたしはそっとページをめくり続けた。
『……実行隊七名。隊長エリオット・カーシス。副隊長ユリア・レンメル。以下隊員、マックス・アビー、ジュリア・ハイランド、ケント・ピアーズ、アレクセイ・スミルノフ、エドワード・クライン――エドワードだ』
作戦メンバーだったのは本当だったんだ。
わたしはページをめくる手ももどかしく、先に目を通す。
資料には詳細にわたって報告されている。
作戦の概要はもちろん、実行日時、天気、周辺状況など。通常の戦闘記録と同じ形式なのかはわからないけれど、かなり事細かな記録だ。
『作戦時のフォーメーションは前衛騎士エリオット、ジュリア、エドワード、後衛騎士マックス、ケント、詠唱者ユリア、アレクセイ。ただし緊急時及び隊長が判断したときはエドワードとアレクセイを遊撃とし、他隊員は二人の後方支援に回ること……ってエドワード、めちゃくちゃ中心戦力じゃない?』
隊長や副隊長もエドワードとアレクセイの後方支援って。
それはエドワードとアレクセイがこの隊の中心戦力ってことじゃないだろうか。
記録は戦闘の仔細を語り、最終的にエドワードとアレクセイとのコンビがガドゥの封印を成功へ導いた、とある。
壮絶な死闘の詳細を要約すると――エドワードの数種類の魔法剣技でガドゥを分解し、その再生をアレクセイが高度な詠唱で押さえることを繰り返し、ガドゥの再生が遅れ始めたところでアレクセイがガドゥの魂を詠唱で捕縛、魔法陣に封印した。その間、他の隊員は蟻のように群がってくるレッドキャップを二人に近付かせないように死守した――とある。
ていうかエドワード、すごい騎士じゃん!
尊敬と羨望で身体が熱くなる。手が震える。
同じ騎士として、エドワードの剣技のすごさが記録からだけでも伝わってくる。
「こんなに剣が使えるのに、なぜ今は銃しか使わないの……?」
聖騎士でなくても職業によっては帯剣が許される。銃が許されているなら、剣だって許可が降りるはず。
ていうかエドワードにぜひ剣を持ってほしい。
だってこんなにすごい剣技、間近で見たい!
できれば手合わせ願いたい!
わたしは興奮で身体も頭も熱くなっていたが、一番最後の部分を読んだ瞬間、その熱がすっと冷めた。
『尚、アレクセイ・スミルノフは当作戦の後、行方がわからなくなっている。生死は不明』
「行方がわからない? 生死不明?」
そんなはずない。『奇跡の封印』を成し遂げた精鋭部隊は全員生還したと報じられていた。
どうして――。
「何をしている?」
ハッと顔を上げると、通路の向こうにエドワードが怖い顔をして立っていた。




