2-2 教室での珍事
「どういうことですのビビアン!!」
7年A組の教室には今日もルシエンヌ様の金切声が響く。
わたしは机に鞄に置いて息を吐いた。
「何がでしょうか」
「貴女って人は、魔物を聖都に引き入れたのね?!」
……そうきたか。
昨日の図書館前での一件、わたしのことが大嫌いなルシエンヌ様の脳内を通過するとそういうお話になるんだわ。
「ちがいます」
「ではどうして聖都に魔物が? 一緒にいたアニーは魔物に襲われたのでしょう?! だからアニーはお休みなのですわ!」
確かにアニーの姿がない。
一瞬ドキリとする。アニー、あの時ケガをしてしまったの?!
しかし、すぐにそうじゃないとわたしは思った。
アニーだけじゃない。教室には空いた席があちこちにある。
この時間に登校していないということは欠席だ。ザッと見て、クラスの半分は来ていない。
「落ち着いてくださいルシエンヌ様。何かあったのではないでしょうか。欠席はアニーだけではないようです」
「まああ! 自分の悪事をごまかそうとするなんていつも通りの姑息さですわねっ!」
何がなんでもわたしを悪者に仕立てたいルシエンヌ様にはクラス内の状況が見えてないようだ。自分の取り巻きが今日は少ないことにも気付いていないらしい。
ルシエンヌ様がチワワみたいにキャンキャン吼えるに任せていると、教室内がざわ、となった。
なんだろうと顔を上げると、そこにはムダに高級そうなスーツを着こなした白金髪の長身美形――エドワードが立っていた!
「な、何してるんですかこんなところで! ていうか学園は関係者以外立ち入り禁止ですよ?!」
「おまえに言われるまでもなく許可は取っている。すぐに荷物を持て。行くぞ」
「は?! 行くってどこに――うわわ?!」
「あのっ、新しく赴任された先生ですかっ?」
ルシエンヌ様がわたしをどーんと押しのけてエドワードにすり寄った。
床にしりもちをつく瞬間「美しい……すべてが美しいですわ! あたくしの御相手にピッタリですわ!」という小さい歓喜の呟きが聞こえた。
ルシエンヌ様はうっとりと長身を舐めるように見上げている。
獲物を狙う肉食獣の目だわ……こわっ。
「あたくしがクラス委員長のルシエンヌ・アルトワですわ。その方はクラスの問題児ですので、あまり御相手なさらない方がよろしいですわ、センセ♡」
顔を赤らめてルシエンヌ様はエドワードの手を取ろうとしたが、エドワードは素早く手を振り払い、その手で床から立ち上がろうとしていたわたしの腕を引っぱり上げた。
「おかまいなく。俺は彼女を迎えにきたのだ」
「む、迎えですって? ビビアン・ローレンスは早くも先生の授業で再試に??」
「授業? 再試? 話がまったくわからん。俺は教師じゃない。俺はビビアン・ローレンスの――婚約者だ」
教室がしん、となった。わたしも息が止まった。
「なっ……」
何言ってんの?! というわたしの叫びはルシエンヌ様の悲鳴でかき消された。
「有り得ませんわっ!! 貧乏男爵令嬢ビビアン・ローレンスに貴方のようなイケメン婚約者がいるなんてっ!!」
「ビビアン。早く鞄を持て。行くぞ」
エドワードはもうルシエンヌ様の話を聞いてなかった。わたわたと鞄を持ったわたしの手をがっちりつかむ。
ひやかしや悲鳴が響く中、わたしは教室から引きずり出された。
「ちょっと!! なんてこと言ってくれてんですか!! いつわたしが貴方の婚約者に?! 有り得ないでしょう!!」
「こちらのセリフだ。そんなことあってたまるか」
エドワードがわたしを睨む。
「聖都におまえの親族がいないことは学校側も知っている。今朝おまえから預かったフクロウ便を証拠品にするには婚約者で通すしかなかったんだよ!」




