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2.1 杯を乾かす

「「で、連れてきたと」


薬に困っていたお兄さんを、私に薬剤錬金の依頼をしてきた婆さんのところに連れてきた。

私の作った低品質低価格の丸薬があるというのも一つの理由だ。


「そうそう。実際、餅は餅屋じゃない?」


「もち? 戯言は良いとして。坊主、本題に入ろう。妹さんの症状はどんなもんなんだ?」


「単純に熱がひどくて、辛そうなんだ」


医療的な知識はほぼ無いから、慣れてる人に任せたかった。

どの薬草がどの効能に聞いて、どの年齢、体重身長の場合にはどれくらいの調合が適切だというのを、ほぼ勘。という名の経験則からはじき出している。


一朝一夜で身に付くような事ではない。

何せ、その教師データに当たる患者なんてものが、そこらに転がっている訳でもない。

でもこの時代というのもあって、文字通り掃いて捨てるようにいる。

それら全てを自分で診る時間を仮に作れて、仮に欲しい病状の患者を診続けても……


人命は助けられても、民間でそれをしようとした場合。

国が推奨どころか、何もしていないに等しい。お金の無い民間人の事をよく見てられないからね。

仮にそれをしようとしたら、おばばの様な人生を歩むことになる。


この世界ではイレギュラー(異常者)だ。


「ああ、流行ってる風邪かね。それならシャンディので十分だろうよ。少なくとも、動ける程度にはなるはずだ。それでだめなら、医者にでも行きな。死ぬより良いだろ? 困ったらまた来な」


異常者の言葉には、飲んだくれているおっさんどもよりは、正しい意見に聴こえたはずだ。

彼の表情も強張っていた状態から、緩んだ様に見える。


「ありがと、薬屋の婆さん! シャンディちゃんもありがとな」


「お礼を言うなら、今度は酒場でなんか食べてね!」


依頼料も発生しないけれど、常連の幅を増やすには日々の努力が必要なのだ。

恩は売るに越したことがない。


へへ。ただより安い物は無いのだ。

異世界の連中に、金の亡者の力を見せつけるときが来たのかもしれない。


まあ戯言は置いておいて。


「ということで、じゃあ今朝の依頼でもやってこうかな!」


保存棚から薬草を取り出して、状態を確認。

薬草を保存している木製の棚を置いているこの部屋は、湿度温度が適度になる様に調整されているから、

滅多な事じゃあカビたり腐ったりなんてことは無い。


だけど、始まったらすぐに棚をひっくり返して洗浄する必要がある。それだけ、奴らの広がりは早い。

最早、薄く展開して時が来たら電撃戦に移行する様な手際の良さだ。


「ああ、頼むよ。にしても、在庫が掃けるのが速すぎる。どうなってんだかね」


「熊が出てるって聞いたよ、あと今の依頼人なんかも。風邪が流行っているんでしょ?」


だから、カビなどは早期発見をして、しっかり、撃滅殲滅戦が大事になってくる。


市街地戦と一緒だね。


「それじゃあ説明がつかないんだよ。風邪はアンタが作ってる下位薬剤で対応しているが、熊狩りは騎士団の管轄だろ。ウチに来るのは冒険者だよ?」


あとは市民とか。そういや、旅人にも常連が居るらしく、半年毎にお茶をする仲らしい。

噂ではかなりの美女らしい。なんでこんな田舎の薬師の婆にそんな縁が生まれるのかは謎だが、婆さんからすると孫か娘みたいなもんらしい。


「じゃあ、冒険者達が裏でやってんじゃない? 熊狩り」


さて、薬草を錬金釜に放り込む。


錬金釜の面白いところは、本来であれば乾燥薬草をすり潰して、丸めて丸薬にする。という工程が省かれるという点。

また、入れた薬草の量からはあり得ない位に、かさ増しされた丸薬が生成できる。


これは、錬金釜を使っている錬金術師の魔力が薬草の回復成分に変換されるから。

だから、この変換元になる魔力そのものの質が錬金術師の適性になる。

そして魔力変換の巧さが錬金術師の格になる。


「そんなんなら、私も困らないんだけどね。お? 良いじゃないか、出来が良くなってる」


婆さんが手のひらの上で転がしている丸薬が、さらさらと解けて肌に染み込んでいった。


「何点?」


「困ったことに60点だ」


「そりゃあ大変だね。ちゃんとした商品になるってことだもんね?」


「まあ、適当に半分にして小麦でも混ぜるさ」


「え〜私の自信作なのに!」


「まあ、こうなる日が来るとは思っていたけどね。劣化丸薬の作成はクビだよ」


明日から来なくていい、と言われて店から出された。

技量が上がると仕事からクビになる事があるという事?

労働基準法の何らかに抵触している気がする。


まあ異世界だから、そんなのないんだけどね。

トボトボと酒場に戻ると、何やら入口に人だかりができていた。


面倒事の気配がする。

うへえ。


とはいえ、酒場の娘としてはこの程度日常茶飯事。


裏口から入れば問題が無いのだけど、面倒事が面白い事であれば、見学した方が楽しいというのもある。


はいはい、失礼しますよ~と人垣を割って店内の様子を伺うと、会いたくないやつがそこにいた。


「だから、シャンディ姉は居ないって!」


応対しているのは、カシスと父さんだ。


「知ってる~だから、待つって言ってるじゃない?」


「店の迷惑です。出禁のあなたが居座るなら、騎士団呼びますよ?」


「いいよ~どうせ後で会うつもりだったし、呼んでくれるなら手間が省けるわ」


糠に釘打ち、暖簾に手押し。

あの女に常識は通じない。


「それに、かなり近くに来ているみたいだしね? ねえ、シャンディ?」


目と目が合った。

こっそりと覗いていただけなのに、なんでわかるんだろう。

怖いって。


「先日はごめんね、怖かったでしょ。今日は貴女に良い話を持ってきたのよ」



私に近づいてきた女を阻む様に、常連のうちの一人が私と女の間に入ってきた。


「おい、ねえちゃん。傍から聞いていりゃあ随分好き勝手してくれるじゃねえか。ここがどこだか知ってんのか?」


「酒場でしょ? それくらい、私にだってわかるよ。話を進めたいから邪魔しないでくれる?」


騒がしかった筈のホールが一瞬で静寂に包まれた。

この女が何かをしたのだろう。それは分かるが、常連の背で見えない。


「お前、ナニモンだ?」


「? 私の一瞥に耐えれるなんて、なかなかいい戦士ね。そこらの騎士よりは強いでしょ? その歳なのに、心は戦士のまま。なるほどね、ここはまるで現世のヴァルハラみたいなものだわ。あの子もヘマをしたと思ったけど、むしろ想像以上の正解を見せてくれるなんてね。本当に惜しいことをしたわ」


「何をごちゃごちゃ言っていやがる。おい、シャンディ今のうちだ逃げろ」


「それはだめ。だって私、生みの親としてシャンディの嫁入りを阻止しに来たのだし」


「え?」


「「「「はあ????」」」」


産みの親?

まって、私はこの酒場で生まれて。


「え? 分からない? 私には及ばないけど、私に似て美しいでしょ?」


妹達も居て。優しい両親もいる。

だから、そんなわけない!


「嘘だ!」


「? あら、知らなかったの? 貴女達三人ともここの子では無いわよ? 育ての親としては彼等だから、本物の親は貴方達の思うご両親だけどもね、時間がないから、店主夫妻。さっさと答えてくれる?」


「ああ、確かに俺等の産んだ子ではない。だが、本物の娘のように育ててきたつもりだ。なのに、アンタはなぜ今ごろになってこんな事をしに来たんだ!?」


すると、店の入り口を割って入ってくる見慣れた老婆が現れた。

てか、薬屋の婆さんじゃん。どうしたんだろ。


というより、ここまで人が多いと、人を割って店内に入ろうとしているのが結構目立ってびっくりした。


「邪魔するよ、坊主。その御方相手にそれは無駄だから、矛を収めな。シャンディ、アンタはこっちに来な。一番問題なのがあんただからね」


「ああ、本物の錬金術師。久しいな、私はてっきりお前のところにいるものと思っていたのだが」


「お久しぶりです。お忙しいとは聞いていますが、連絡くらいよこしていただきたいものですね」


「それはすまない。なにせ鳥籠の中でさえずる小鳥のような生活をしていてな。手紙など出せぬのだよ」


「あなたなら、鳥籠なんて壊せそうですが。それで、本日のご要件は?」


「シャンディの結婚を阻止しに来たんだよ」


そういや、嫁入りがどうとかほざいてたなこの女。

絶対にヤダ! 私は女しか愛せないってのに!


「ああそれで、熊が増えてるわけか方角的に連峰の氷龍か?それとも、火山か? 海か? 天か? 闇か?」


「全部だよ、こんなところにいたら大変なことになるじゃん? だから、早く連れ帰りたかったのに。抵抗されちゃうし、出禁にされるしさ?」


「待ってよ! さっきから何なの? 結婚? 竜? 私、人間なのに龍なんかと結婚させられちゃうの?」


「だから、それを断るのが目的なの! 今日誕生日じゃない? あれ? 人間はそういうのやらないんだっけ?」


周囲を見渡して、そういうお祝いの準備がされていないことに気がついたのだろうか、ここは酒場だし、年中お祝い事をしている人とたちがいるから間違ってはないかもしれない。

誕生日ならもう少しは盛大にやらせてもらってるし。


「やるけど、日にち違うよ?」


「我等のとは違うから、仕方ないね。それより、人が多いし、やっちゃうかな。皆の衆! 我は隣国ヒョウライの番外王妃こと、竜姫のアメジストと申す。 ソナタらを我からの言葉を受けた証人とする。我が娘シャンディに求婚をする龍が現在10頭いる。 このままでは、この街は跡形もなく地図から消し去られるだろう。

そのため、我らの国へ学生として招待するつもりである。現に熊が増えているであろう? あれはこの子を求める竜たちの気配に狂っている状態だ。他の動物たちもいずれ狂っていくだろう。


さて、皆さんはこの子がここに居続けることに賛成するのか?

問題が収まれば、この街に返すことを約束しよう。

さあ、異論のあるものは手を挙げよ


ハイ! と大きな声を上げ、手を伸ばしているのは私の妹のファジーだった。

「姉さん一人になんてさせられない! 私も行きたい! カシスもそうでしょ!?」


「うん、私もそう思ってた。」


やったーと抱き着いてくる姉妹にやや混乱する。

耳元で、逃がさないよ。と言ったのはどちらだろうか、二人共だったりする?


「同行か、それは良いゆるそう」


「まて、行くのが前提になっているが、その話の根拠は?」


兄さん! その女の嘘を暴いてくれ。


「根拠はそろそろ来る。他には?」


「娘達は生きて帰ってくるんだよな?」


父さん……


「もちろん、それは保証する。といいたいところだけど、死ぬときは簡単に死ぬ。私には約束はできないね。それ以外は私ってお姫様だし? お金で解決するよ? 渡しているよね養育費? あの程度なら出せるから」


「娘達を頼みます」


まあ、あの金を見せつけられたら信じちゃうのはわかるけどさあ。


「はー? おいおい! 俺等は看板娘の3人を見るために来てるってのにいなくなるってんなら、ここに来る理由がなくなっちまうな?」


いっけ常連の爺さん達! 


「その程度のつながりなのか? 娘3人が色良くなったときに給仕する場所が無いなんて、君らは残念なことをするんだね?」


「よし!行ってこい! 行って成長した姿を見せてくれ! なんならサービスしてくれ!」


負けんな、粘れ! あとそんなサービスはうちにはない。


「元気だね、あとはなさそうかな? お、来た来た」


「いや、私から一つ。この街の領主の息子である。私は大いにシャンディを気に入っている。私のものにならないか? そしたら、竜なんてどうとでもしてあげるけど?」


貴族のバカ息子は相手にしたくない。


「むりだよ、だって私一人でここの待ち程度なら簡単に壊せるから、竜姫と王子の話を知らない?」


「もちろん知ってる。竜姫の恐ろしさもな」


「その竜姫な、私だったらどうする?」


「は? あの御方は隣国のヒョウライに住む番外王妃だぞ、白髪で、美しい顔。は似てるけど、その紋章に描かれた龍と王様の家紋は……まさか、ご本人でしたか。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」


「良い良い、いまは無礼講だ。さもなければ、この街の半数は首チョンせねばならないからな。面倒でかなわん、せめて丸焼きなら一瞬なものを、いっそ凍らせるなら次の瞬間には! だな。あはは」


普通に街を襲う宣言をしだすのかと思ってキモが冷えた。

最後に、”は!”なんて大声を上げないで欲しい。普通に剣等の武器になりそうなものに手を伸ばしてしまった。修行が足りなかったな。みんなはしっかりと構えまでできていたのに。


「……今のは、小粋な龍姫のジョークだから気にせぬように」


「か、寛大なご配慮、痛み入る」


「よいよい、手間が省けたからな。では、娘三人の留学を祝い乾杯じゃ! 皆のもの、杯は持ったか!? 持たぬものは拳を挙げよ! さあ、彼女等の無事と成功を祈って? かんぱーい!」


嵐のような人だった。

というか、嵐だ。今夜のお代は我が払うとか言ったせいで、店内は普段以上に賑わっている。

最早、戦争だ。


「シャンディ姉さん。大丈夫?」


「無理無理、さっきから運んではドリンク貰ったり、おかし貰ったりでお腹いっぱい動きたくない」


「姉さんたち、なんか知らない人たちがお給仕しているんだけど、大丈夫かな」


確かに、知らない場に合わない正装をした男女が6人いる。

いずれも慣れた手つきで、ドリンクを運び、注文を取っており、その道の物であるのは間違いない。


「あれが気になる? あの人たちはね、パーティとかでお給仕をする経験のある使用人なんだよ、私ってほら招待されることも多いから、こちらから招待もしないとならないらしくてね。」


王族というのは面倒なようだ。


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情景描写も入れて欲しいが説明文が無さ過ぎる。画の無い漫画。
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