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1.0 託された赤子達

雨が降る夜道に、外套に身を包んだ奴が座り込んでいた。

魔導灯の明かりが、フードからはみ出た長髪を照らしている。

面倒ごとの匂いしかしない。


はあ、ついてねえ。


「おい、ねえさん。こんな時間に物騒だぞ、俺の酒屋に寄るか? この時間なら閑古鳥が鳴いてるし、俺の奥さんが目を光らせているから、外よか安全だぞ」


「じゃあ」


逡巡すら見せずに、うす気味の悪い女は言われるがままに店内に入っていった。

警戒心というものがないのか? 少なくとも正常な判断能力が失われているのは確かだ。


あの女を狙ってたのか、関わり合いになりたくない輩が湧き始めている。

店の近くだってのに面倒な。


「おら、みせもんじゃねえぞシッシ」


スッと路地の闇に消えては次の獲物を待ち、仲間と喰らう。

俺は運が良かったから、ならなかっただけだ。

あの仲間入りをしていてもおかしくはなかったのかもしれない。


店も気になるし、さっさと戻るか。


店内が騒がしい。誰かが暴れているような感じではない。

夢を追う仲間が地元に帰るのを引き止るときのような暗い空気。

ここは酒場だぞっていつも言ってるのにわからないのか。

酒場だってのに辛気臭い空気を出しやがって。


「おいどうすんだよ! まさか、置いていくつもりかい?」


話の流れが読めない。


「おい、あんたからも言ってやってくれよ!」


そうだ。とこちらを見る常連客達。

何だってこんなに客がそろってんだよ、普段はこんなに来ないくせに。


「何言ってんだ? おい、姉さん。体調はどうだ」


見るからに悪そうだ。


「最悪」


雨に濡れていたとばかり思っていたが、どうやら水だけじゃなかったようだ。

赤黒い液体はかなりの量で、普通の人間でもかなり厳しい状態。少なくとも医者も魔導士も役には立たなさそうだ。いや、そもそも生きているのが有り得ない。


床に溜まった血溜りが広がり続けている。

こりゃ助からないな。ハイポーションも意味をなさない、俺はそれを知っている。


「誰にやられた?」


この辺りでこんな傷を負ったとは思えない。


「これで子供達を頼むよ」


差し出された隣国の白金貨。

本物か? 常連が頷いた。

嘘だろ。この女、何者だ? 白金貨なんて庶民がお目にかかれるもんじゃない。

なんなら、金貨だって。

下手をすると、王族関係。白金貨は恩賞に使われるか、王族かそれに近い貴族達が使う様な類のものだ。かなり昔だが、見た事はある。

しかし、こんなもの渡されてもな。


「……滅多なもんを出すな。それがあればうちの店も俺等夫婦も纏めて雇えるだろうよ。それで店内の酒をばらまいたとしても、まだ金貨が山ほど残るぜ?」


「知っている。これは、三人の養育代と手間賃、あとは私の面倒代。この三人を成人まで育ててくれるなら、どう使っても構わない」


そう言い残して、女は倒れた。

息をしていない。


「あんた、なんてもんを招き入れたんだ」


「しかたがねえだろ、雨風を路上で凌ごうとしている警戒心のかけらもねえやつだぞ?」


「それなら、仕方はないかもしれない。でも、どうすんだい?」


「店長、ちゃんと育てろよ。店の中にいる俺等が証人だ。そうだろ?」


常連の一人が呟いた一言に、同意を告げる客達。

他人事だと思って適当言いやがって。


「何を言うかと思えば、俺等は場末の安酒場だぞ? こんなところでまともにガキが育てられるかよ? 丁度いい見本が目の前に居るじゃねえか」


常連を見ながら言ってやる。


「はは、隊長が"ちゃんとしてない"のは確かだ」


「はあ、お前は覚えとけよ。まあそうは言ってもだ "店長"、自分の招いた面倒ごとは自分で蹴りをつけなきゃならねえんだろ? 俺はそういわれて育ったけどな?」


ああ、言った記憶がある。

俺の番ってわけだ。


「やめな二人とも、いい年してみっともない。"店長"が何と言おうと私は育てるよ、知り合いに声かけてくる。まさか、この年になって子供を育てることになるなんてね」


「ほれ、"店長"さん。お袋は覚悟を決めたみたいだぜ?」


「分かった。だが、白金貨の扱いと、この女を教会まで運ぶのを手伝ってくれ。今日の支払いはチャラで良い、」


「お安い御用だ」


だが、三人となるとなかなか大変そうだ。


「おやっさん、なにも気負うことはねえよ、もっと面倒な奴らの面倒見てんだろ?毎日さ?」


「ああ、確かにな。お前等が二倍になるって考えたらマシかもな」


「え〜ひどーい。私、この中なら一番マトモじゃない?」


そりゃぁねえわ! と別の客と言い合いになり始めた。

放っておいて、死んだ女の衣服を漁ってるやつに声をかけることにする。


死体から金目の物を盗むのは流石に推奨できないが、今回は今回だ。

何せ、情報をほとんど持たない女から子供を押し付けられている。

念のためとはいえ、身辺調査はしておきたい。


せめて、この女の住んでいる国、良ければ生活圏。

一番狙っているのは所属が分かるアイテムなどがあるとうれしい。


「どうだ。なにかわかったか?」


「わかんないね、少なくともウチらの連合に居るやつじゃないし、他の連合でもないみたいだ。まあ、フリーかもしれないけど。あとは、兵士とか貴族の類とも思えない。そういうのは身につけてない、一般市民だよ。お手本みたいなね」


なるほど、生活圏にすら触れられそうにもないというのが怪しい。

下手をすると隣国の王位継承に関わった利するかもしれない。


「その女の身元は、あまり深入りしないほうが良さそうだな。」


「そのほうがいいだろうね、私の見立てでは」


「やめろ、そいつは市民だ。そうだろ?」


「そうだね、あ〜あ酒飲むつもりだったのに、明日は奮発してくれよ〜?」


「わかってる。だが、あれはあの子達の金だからな?」


「わーってるって、私もいつか手伝うかもね?」


あまり関わらないでほしいが、まあ悪いやつじゃないのは確かだ。


面倒事が災いを呼び寄せないといいが。

「おい、隊長殿?」


「わかってる。父さん、いや店長?」


「そろそろ夜も更ける。こいつを協会に連れて行くぞ、騎士様がいれば犯罪とは思われんだろうよ」


「その後に、金だな? 商業組合で金貨に崩して、いろんな組合で分散して貯蓄するとかにしとけば? あんだけあるなら、投資という名の借りを貸しまくれるからね。それか店に部屋がないなら家でも買えば?」


「はあ、やることが沢山ある。全く「面倒だ」」

「わかってるって、俺も手伝うから、非番の時は」


「いや、定時後も顔を出しに来い。今回は、お前も仲間だからな?」


「そうだな、こういうのに巻き込まれるのは嫌いじゃない」

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