08:Nice to meet you加護
今俺たちが向かっている加護を鑑定してくれる場所……東藤は便宜上鑑定所と呼んでいたが、そこと俺たちの部屋とは少し離れており、数分歩くことになった。思えば、その施設の名前や正確な特徴を聞いてなかった。セレンさんから渡された案内の紙だけでたどり着けるのだろうか。
「結構離れてんだな」
「あれじゃね、乗っ取りとかの対策なんじゃね?テレビ会社もなんかそーゆーのあるらしいじゃん」
適当に会話を交わし、数分間。先ほどの俺の心配は杞憂に終わった。でかでかとひらがなで「かごけんさしつ」と書かれた木の板がつるしてある部屋を発見する。
「あれ、あの人のセンスなのかな」
「だろうな、バリバリの日本語だし」
ひらひらと、蘇芳さんから受け取ったチケットを見せながら問いかけてくる東藤。
少し苦笑いを浮かべながら、俺たちは部屋に入った。
かなり無骨な扉を開けると、そこには何やら大きな機械とそのそばに男性が何やら筆を動かしてい た。
「おや、君たちは?」
「蘇芳さんの紹介できました」
「あぁ、彼が言っていたのは君たちのことだったか。私の名前はヘルトス・メアトリス。」
こちらに向き直り、自己紹介を済ませて本題に移る。
俺達よりだいぶ年上……見た目だと60台半ばと言ったところか。柔和な雰囲気を携えた紳士みたいだ。刺さる人には刺さるダンディ紳士。東藤も結構イケメンだと思うが、あいつとはまた違ったタイプの顔立ちだ。ここにいると顔面偏差値を俺が引き下げているように思えてしまうな。
「俺たちのこと、知ってたんですか」
「ええ、シュウイチ君から転生が成功したことは聞いていたのでね。ヒイラギ・アキラ君と……トウドウ・タマキ君ですね。」
シュウイチというのは、文脈からして蘇芳さんの下の名前なのだろう。
蘇芳さんは事前にこのギルドの数名に、俺たちの召喚について説明していたらしい。俺たちがこの世界に来てからそこまで時間は立ってないと思ったのだが、情報が早いな。
「無事に召喚が成功したようで何よりだ」
「でも力にはなれねえんス、申し訳ないっスけど。」
これ以上この会話を続けると互いに傷ついてしまう。自衛のためにも切り上げることにした。
「……そうですか。えぇ、そうでしょうね、彼のようにすべてを投げ捨てられるものは少ない。恥じることも悔恨に悩むこともないでしょう。」
ヘルトスさんはおもむろに立ち上がり、上着を脱いだ。
「では、本題に移りましょうか。加護を見定めに来たのでしょう?」
「いいですか、なんか作業してたんじゃ」
「いいえ、私は暇人でしてね。」
聞くところによると加護はこの世界の住民でも持っている人は持っているらしく、それを見極めるためにこの施設を蘇芳さんが作ったのだとか。
しかし、そんなにぽこじゃか加護が付与されている人が現れるわけもなく、ヘルトスさんは一日の半分ほどを単純な事務処理をすることで費やすらしい。ヘルトスさんの見た目年齢では、線上に立つことも難しいだろうし、別におかしな話ではないか。
「では、どちらから先にしましょうか」
「東藤、ここにお前が引っ張ってくれたんだ、ここはお前が先に行ってくれ」
別に順番などどうでもいいが、なんとなく通すべき筋のようなものを感じ、俺は東藤が先にやるように後ろに一歩引いた。
「そうか、じゃあお言葉に甘えて。」
「ではタマキ君。この椅子に座って、目を閉じていてくれ」
「へーい」
部屋の中央に置かれた椅子を指さして座るように指示を出すヘルトスさん。東藤はその指示にしたがい深く腰掛けた。とたん、その椅子の下が怪しげに光りだした。
「何かに閉じ込められたかのような圧迫感が、今から君を襲うでしょうが……数分のことです。我慢してください」
そうヘルトスさんが言うと、薄い膜のような半透明な物質が東藤を覆った。
なんだこれは、ガラスのような見た目だが……。
「加護の力が暴走しないように結界を張ってます。では、始めますよ」
ヘルトスさんの言葉の数秒後、東藤をかこっていたガラスが黒く濁っていく。大丈夫なのだろうか、なんだかかなりおどろおどろしい見た目に変容していっているのだが。
「タマキ君。ゆっくり閉じて、深呼吸をしてください。」
低く、落ち着いた声で東藤に指示を出していく。
「そのまま、深く呼吸を続けて。息を吐いて、そのまま。ゆっくり吸って、吐いて……」
2,3度深呼吸を繰り返すように指示を出した後、指をパチンと鳴らした。