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06:邂逅二番および三番

蘇芳さんの言葉に従い、俺たちは階段を降りて一階の受付スペースのような場所についた。


「おっ!居やがった居やがった!遅かったなあ!」


 どうしたもんかと周りを見回していると、後ろから大きな声で呼びかけられる。


「いよっ!新入り!」


 俺たちの肩をバンっと叩き笑いかけてきた青年は、頭以外を軽そうな鎧で覆っている。蘇芳さんが言っていた傭兵ってやつなのだろう。


 というより、新入りとはなんだ?


「新入り?」

「おう、新しくここに来たやつなんだ、新入り以外になんて呼ぶよ。……ってわけで!俺がここの先輩、キシュアだ。なんかわかんねえことがあったら言ってくれ。力になるぜ!」


 屈託のない笑顔で手を差し出してくるキシュアと名乗る青年。

 仲良くなれそうな雰囲気はあるのだが、おそらく何か誤解があるようだ。彼は俺たちがここに新しく配属された傭兵だと思っているのではないのだろうか。


「よしなさいキシュア君。困ってるじゃない」

「いてっ」


 差し出された彼の手を受け取れずに手をこまねいていると、後ろから現れた女性が彼を小突く。


「なあにすんでぃ!セレン!いきなりぃ!」

「彼らはあなたの部下じゃあないの。よく見てみなさいよ腕輪を」


「んぅ?!げっ!ほんとだ!」


 セレンと呼ばれた女性の言葉で、彼はようやく誤解に気づいたらしい。

 助かった、なし崩し的に傭兵入りさせられるかと思った。


「すまんすまん、俺はてっきりちぃっとも姿を見せない新入りかと思ったんだがまさかお客人とは!これは失礼!」


 潔く頭を下げて謝ってくる。


「別に気にしてないっすよ、俺は」

「俺も気にしねえって」

「そうか!なら俺も気にしねえ!互いに遠慮なしで行こうぜ」


 今度は東藤が手を差し出し、それを力強く握り返すキシュア。明朗なやつなのだろうか、見ていて気持ちがいい。


「少しは反省しなさい。」

「いてっ」


 恰も夫婦漫才のようなやり取りを繰り広げた二人。仲いいんだなあ。


 というより、いきなりのことで思考が後回しになっていたが、普通に会話できていることに今更気づいた。

 つまり、この世界は文字や文化まではわからないが、言語は完全に日本語をベースにしているか、日本語そのものなのだろう。

 何故だ。何故元の世界におけるかなりマイナーな言語が使われているのだ。

 世界を創った存在がいるとして、ソレが現代日本からインスピレーションでも受けたのか。或いは俺たちや蘇芳さんよりもーっと前に転生した日本人がいて、そこから文明が発展していったとか……。


「それそうと、件の新入りはどうしたんだ?いつになっても来やしねえ」


 疑問に頭を悩ませていると、キシュアがセレンさんに問いかける。その問いにセレンさんは少し間をおいて、言い淀みながらも答えた。


「それは……死んだから」

「し、……!?」

「……!」


 言葉にもならない悲鳴を上げ、驚き固まっている俺たちとは違い、キシュアはいたって冷静だった。


「そうか、なら仕方ねえなあ」


 仕方ない。そうあっけなく言えるのは、これが、人の死というのが日常茶飯事であるためなのか、あるいはキシュアが冷酷非情であるからなのか……。


「変なこと、聞かせちまったなお客人。まあ別にどうってことねえさ」

「どうってことっつったって……人が……」


 先ほど蘇芳さんからこの世界の状況について知らされていた……このシビアな世界において見ず知らずの他人事ではあるが、成程どうして、心に楔を打たれたかのような感覚だ。


「アンタ、いい人だな」

「は?」

「赤の他人のために、憤りを覚えた顔だ。俺らにゃできねえ」


 そんな褒められたり、立派なものではない。

 ただ知らないだけなんだ。

 だから逐一反応できてしまうだけなのだ。


「まあなんだ、こんな世の中そう思えるってだけでもすげえと俺は思うね。」

「俺もそう思う。その思いは間違ってねえよ」


 変に持ち上げられて、少し複雑な気持ちになった。素直には、喜べないな。


「おほん。暗い話題はこのくらいにして、お部屋に行きましょう。案内します」

「おうおう。そうしてやんなぁ。俺はさっきのこと隊のみんなに伝えねえと。」


 そう言い残しこの場を去っていったキシュア。

 残された俺たちとセレンさんは、蘇芳さんが用意してくれたという部屋に向かった。


 その道中で、軽く自己紹介をすましたところキシュアとセレンさんは俺と同い年だということが分かった。東藤も反応を見るに、同年代といえる範囲なんだろう。


「貴方たち、スオウさんに助けを求められたのでしょ?」

「ん……まあそんなとこだ」


 東藤が少し間を開けて答えた。別に、隠すことでもないしな。


「変に気負わないでね。あなたにはあなたの世界がある、当たり前の話なんだから」

「俺の……世界」

「そう、人ひとりにみんな世界がある。でもあの人、欲張りだからそれ以上を守ろうとしてるの。ただそれだけなんだから」

「なんか、カッコいいな。それ」

「えぇ、そう?私は別に格好いいとは思わないなあ」


 動機、経緯がどうであれ、すべてを賭して行動できるというのはとても憧れる。

 故にこそ、俺にはそんな行動は理解できないのだろう。


「ついたよ。こことここの二部屋があなた達の部屋。スオウさんからも話し合ったと思うけど、何かあったら私でもキシュアでも、誰にでも言ってね」



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