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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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49:驚愕と落胆と戦利品

「ありえへん。なんや、なんで……ここに居った死体がぜえんぶ消えてもうた……」


 まるで、キツネにつままれたような感覚。一瞬にしてここにあったすべての敵が消え去った。木々にこびりついていた血痕や、奴らが使っていた武器なども含め全て、なにもかもが。


 魔法によって焦げた草木は元の緑を取り戻し、まるで時間をきっかし一時間ほど戻したかのように元通りだ。十中八九あいつが最後に放った煙のせいだとは思うのだが、どのようにしてこれを実現させたのか理解不能だ。


 本当に時間を戻したのか、それとも物体を治す能力……いやそれだと死体が消えたことの説明ができない。時間を戻すとしても、では何故俺達にそれが適用されていないのか、そもそも時間と言う曖昧な概念に対して作用する魔法なんてものが実現できるのか。


「総員、僕含む探知側が得意な人員はこの場の捜査と探査を。戦闘員はキシュアの指示に従い第一陣が消息を絶った地点へ向かってください。」

「よし、大将がこの場をスキャンし終えたらすぐ向かう。奴が姿を消したとはいえ、近くに隠れているだけかもしれん。」


 黄緑色の巨大な魔法陣が地上に展開され、その中心にいる蘇芳さんが淡く光っていく。突入の時はゆっくりと広がっていた魔法陣だが、今回は瞬時に展開され目測5メーター程の円が地面に描かれた。


「各々油断するな、武器が無いものはトムに出してもらえ、医療班っ!負傷者の確認と簡易的な治療を!」


 先ほどミズチを穿った槍を持った兵隊さんを叩いて指示を出していくキシュア。

 

「えぇ~!僕槍以外出すの苦手なんですけど先輩方もできるんだからやって下さいよぉ~」

「文句垂れてんじゃあないぞトム。戦いは終わっていない……!」

「そうだぞ、なんてったってツタで拘束していたあのクソやろうもぱったり消えてしまっているんだからな……!」


 キシュアの一言で、一度は緩んでいた緊張の糸が張り詰める。


「隊長、負傷兵の確認完了しました!負傷はごく軽微、先ほど気絶させられたタマキ君ももう目覚めるかと」

「早いな!なによりだ!では少し離れていろ、いつでも戦線から離脱できるように」


 良かった、ミズチにやられていた東藤も特に異常なしとのことだ。奴らは俺達を地雷と感じているらしいし命をとられるとは考えていなかったが、何か今後に影響が残るような怪我とかもなかったようで何よりだ。


「成程……。みずち、そしてモルガーナと言う他称。それならば納得は出来ますが……、あまりにも無法すぎる。空間転移や時間遡行とは訳が違う、何をどないしたらそんなことが可能になるんですか……!」

「何だ大将!何が判った!」

「一人で納得してんじゃあない!俺らバカにも分かるように説明してくれ!」


「結論言うと全員、臨戦態勢は解除して大丈夫です。全く……殿要らずの撤退術。完全に逃げられました、奴さんとんだ戦巧者ですわ」


 安堵。ここに来た時からずっとあった、心臓を何かにつかまれているような感覚が和らいでいくのを感じる。

 結果として、これは俺にとっては大勝利だ。元々奴から逃げるつもりで動いていたのだし、首級をあげられなかったのは確かに残念ではあるが、命あっての物種だしそもそもの目的は達成しているのだからモーマンタイだろう。


 

「やはりか」

「では我々はそのまま行きます。何かあれば伝令のスクロールを使いますので」

「あぁ、お願いします。すみませんね、辛いことを押し付けて」


 キシュアは気配でこの場にやつらが居ないことを察していたのか、蘇芳さんの言葉を聞くや否やどすんとその場に腰を下ろした。それを見た兵隊さん達も武装を解除していき、張り詰めていた緊張の糸がほぐれていく。それとほぼ同時にキシュアから指示を受けていた人たちはギルド跡地に第一陣の人たちを迎えに走っていく。殺された隊長さんや爆発に巻き込まれた人たちの死体が散らばっているはずだから、それの回収役も兼ねているのだろう。



「すまない、俺が一番傍にいたのにあの怪物を逃してしまった。」

「いえ、ありゃあ初見殺しです。どないに警戒しとっても対応するんは無理です、気負わずに」


「初見殺しって、一体何が起こったってんだよ、総大将!いい加減教えてくれよぉ!」

「そうだそうだ!アンタ一人合点がいったってなあぁ、俺らバカにゃあとんとわかねえーンだからよ!」



 兵隊さん達に催促される形で、蘇芳さんは自分で解析した情報を語りだす。


「これは、柊木クンや東藤クンの方がようわかる話かもしれませんが」と前置きをして、彼は歩きながら語りだす。そのあとをついていきつつ、俺たちは聞き耳を立てた。


「彼の名はミズチ。そしてモルガーナと自称した。柊木クン、ファタモルガーナと言う言葉に聞き覚えは?」


 急な問いに、目をぱちくりとさせながら思考を巡らせる。

 モルガーナと言う言葉自体には耳憶えがある。なんかのゲームキャラか必殺技の名前だったと覚えているが、その真意、元ネタに関しては全くの無知だ。俺は蘇芳さんに向けて首を横に振った。


「さよですか、では説明しましょう。ファタモルガーナとは所謂蜃気楼の別名で、確かヨーロッパの方でそう呼称されていたはずです。かの土地で蜃気楼が見られた時、妖精の悪戯って思われたんでしょうね。」


 へえ、蜃気楼って欧州では妖精とつなげられているんだと脳内で柏手を打った。


「いや待て待て待ってくれよ蘇芳さん、蜃気楼と今の話何の関連がある?あいつの能力が蜃気楼だっていうのか?ちゃんちゃらおかしい話だぜ」


 なぜなら蜃気楼ってのは単純に光の屈折現象だからだ。奴の能力が蜃気楼を自分の思うままに発生させる能力だとして、せいぜいあの浅黒い肌がゆがんで見えたり、身長が七センチ程アップして見えて自信が持てるぐらいが関の山だろう。

 


「君の疑問はもっともです。奴の能力はおそらく改竄。幻影を見せる、或は特定範囲を出来事を無かったことにする」


 蘇芳さんの言葉に俺は眉をひそめた。蜃気楼からえらい飛躍したなと、そう思わざるを得ない。幻影を見せるまではいい。だが改竄とは元の蜃気楼とは全く違う効果ではないか。


「そんな無法、出来るはずないと思いたかったんですがねえ。しかし呪術や魔法とは本来あり得へんモンを実現化する力。僕の想像力を奴らが軽く凌駕したっちゅうことですね。恐らく何か相当のコストを払う必要があるモノでしょう。まぁ、ここで何言うても逃げられたことに変わりなし、一先ずは終わったことを喜びましょかね」


 ひどく落胆した様子の蘇芳さんは、もぬけの殻となった戦利品であるギルド跡地を眺めていた。

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