47:地獄は継続する
「どうしたのかしら。なぜ、名前を聞かせてくれないの?」
「えぇそうですね。こうして僕ん問いかけにちゃんとこたえてくれたんですから。僕も返さんと男が廃るってもんです。」
ミズチと名乗る男に蘇芳さんがにじり寄る。
展開していた魔法陣を解き、ハンドシグナルでキシュアやほかの指揮官たちに指示を出しているようだ。
「僕の名前は蘇芳周一。元々ここにあったギルド……まあ僕らが作った城みたいなもんです。そこの頭はってたもんですわ」
「へえ?ここに建物なんてあったかしら」
冗談を言っている雰囲気はない彼にはない、本当にここにあった巨大なギルドの事を知らないようすだ。
一体なぜだ、元々ここに住んでいたのであれば、ギルドは急に生えてきた建造物。否が応でも目に入ってしまう異物だ。
「まあともかく……。シュウイチって呼べばいいかしら、それともスオウ?」
「どっちゃでもええですよ。僕ら……いや、僕は名前や呼称について頓着しない性分でね。まあ文化の違いやってことで、アナタの問いに答えるのが遅おなりまして、すみませんでした。」
「あらそうなの、そうとは知らずに答えを催促しちゃって。こちらこそごめんなさいねえ」
「謝りついでになりますが、そこに転がっているお仲間さん達を殺したのは僕らです。僕ら、それらと明確に対立してましてね。この領地を奪還するために必要な殺戮であったと主張します。」
「あら、そうなの」
うやむやになっていた立場を明らかにし、そのうえで此方の正当性を説く蘇芳さん。
そしてそれに対し全くと言っていいほど興味を示さない男。仲間の死に何を思ったのか、或は何も感じなかったのかわからないが、ともかくとして以前彼は臨戦態勢のままだ。
彼の態度を見てから、その場に緊張が走る。俺は相対する男がどれほどの手練れなのか全く理解できないが、尋常ならざる力を持っているのは想像できる。
何故こうも連戦になるのか、この領地は怪物共にとっても重要拠点になりえた?いや、此処は防衛においては重要だが攻めに転ずるであろう怪物側からすればそこまで重視するほどではないと思う。
「兄弟、無茶しようとするな。俺の第六感がエマージェンシー反応をビシビシ送ってきてる。その気になりゃあ奴さん、俺らを瞬殺できると思うぜ」
胸元のスクロールに手をかけて固まっていた俺の肩を叩き、東藤が声をかけてくる。
張り詰めていた緊張の糸が、はらりと解れたように感じた俺は、深呼吸をする。
息を吸い、目を閉じる。
息を吐き、目を開けた。
俯瞰して自分の置かれている状況を分析することに徹する。
「相棒、ありがとう。俺は俺の出来ることをするぜ。」
まとめる。状況を。
1、ここには元から怪物共が住んでいた。しかし怪物はそこに誰が居ようが意に介さず悠然と過ごしていた。
2、そこにある時から……具体的には蘇芳さんがギルドを立ち上げるにあたって防衛拠点をつくりだす頃、各地にギルドを建設した。その中でも一番巨大な建造物をこの場に建てた。
3、数年の間をあけて、奴らはギルドを襲撃しここにいた人間凡そを殺戮、ないしは撃退してみせた。
4、蘇芳さん曰く俺達は怪物共の地雷で、3を実行したのもこうして敵の主力が集まっているのも彼の意見が正しいと示していると捉えられる。殺害対象なのかまた別の目的があるのかははっきりとしないが、結局のところ狙われていることに変わりない。
「さて、そこの坊や。考えは纏まったかしら?」
「なんと、彼が落ち着くまで待ってくれてたんですか。こりゃあ話が通じそうですねえ、どうです?一献」
「あらあら、有難いお誘いだけれど遠慮させてもらうわ。むやみやたらに粉かけてたらまあた怒られちゃうもんね。虎の尾を踏むのは御免だわ」
成程。今の言葉とこれまでの言動で凡そが整理できた。そして俺が取るべき行動も完璧に理解したぞ、これまで後手に回ったが、これ以上好き勝手にさせてたまるものかよ。
「相棒、俺から離れるな。いざとなりゃあ『俺達』だけでも逃げっぞ。」
「--なるほどな兄弟。任せろり、スクロールならあるからよ」
俺達二人はそもそも誰が相手でも勝てない。キシュアらと特訓した数日と今の数十分で嫌と言うほど理解した。俺たちは、現代人は、戦場には立てない。
「とる手は1つだ相棒、まず俺から動く。蘇芳さんには事前に伝えてるだろうな」
「勿論だ、いつでも行けるぜ」
勝てないのなら、逃げるまでだ。突入前に蘇芳さんから渡されていた切り札の1つを今切る、この場にいる全員での転移を、今発動させる。
そのための動力は蘇芳さん。彼は今少し離れた位置にいるがそこで東藤の出番だ、位置入れ替えで彼と東藤を入れ替えた後に発動させてもらう。
ここで退くのは敗北じゃあない、死ななければ、この土地を最後の最後で奪還できれば、真の敗北ではない。逃走に一切の躊躇いはない、この選択は現地の人達には取れないだろう。
恐らく蘇芳さんが地雷と判断したうえで俺達を前線に連れてきた理由はそこにある。
「東藤っ!今だァ!」「応ッ!任せろォ!シェイカーァッ!」
数秒後、俺たちは膝をつく。
「そうよね。それが今の最善手。なら当然、アタシがそれを予見するのを考えるべきだったわね。」
――作戦は、失敗に終わった。




