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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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46:変人との邂逅

 その後、俺たちは慎重に草むらを進み第一軍が通った道を沿ってギルド跡地に侵入した。


 道中、惨たらしく絶命したであろう死体がごろごろと転がっているのが嫌にでも目に入り、俺はそのたびに息をのんだ。これは……いくら経験しても慣れないし、慣れたくもねえなと心底思う。


 ちなみに捕縛した男はそのまま運んで連れてきている。どす黒いツタのようなものが蘇芳さんの指示に従って形を変えて恰も動物のように蠢き付いてきているのだ。夜中にこれをみたら多分ちびる自信がある。


「静かに。僕の探知に複数引っ掛かりました。」


 ゴクリと生唾をのむ音が隣の俺の耳にも届く。蘇芳さんが展開する探知魔術は、彼自身にしかどの程度の大物が引っ掛かったのかわからない。がしかし、彼の表情がとんでもないものをひっかけてしまったと雄弁に語っていた。


「あら、目敏いのねえ。わーたしの気配にこぉんなにも早く気付くなぁんて」


 木々の隙間から聞こえてきた声。男が無理やり出した猫なで声のような、背筋をぞくぞくとさせる不快感を伴った声の持ち主の影が、ゆらゆらと木陰から姿を見せた。


 当たってほしくない蘇芳さんの予想は、ずばり的中してしまったという事らしい。


「んふ。私の美貌に見惚れたのかしら?言葉も無い様ねえ」


 丸太を思わせる太い四肢、浅黒い肌。頭髪は墨を垂らしたかのように真っ黒で、月明かりを反射しつややに光っていた。


 真っ赤な色の貫頭衣のような服を着たそれは小柄な少年を抱きかかえてこちらに近づいてくる。


「!ジャン!」


 先陣を切っていた人たちが眠っている少年を見て名を叫ぶ。

 

「あら、この子ジャンっていうのね。名前を聞く前に寝ちゃったから知りたかったのよぉう」


 蘇芳さんがしまった、という顔をしたのちに目をかっぴらいて筋骨隆々の男をにらんだ。

 

「彼に何をしたんですか、というよりあなたは何者ですか」


 蘇芳さんが感知する限りこの人はかなりの手練れ、そして出てきた雰囲気で敵だと決めつけていたがそうじゃない場合もあるのか。


「ええ、そうね。互いに初対面なんだから先ずははじめましての自己紹介からよね。坊や、ちょいとごめんね寝かせるわよ」


 風が木々を通り抜ける音と共に姿を消した奴は、瞬く間に俺たちのすぐそばに立っていた。

 ぎょっとして固まっていると、腰をおよそ直角に曲げてお辞儀をしてきた。


 驚愕に次ぐ驚愕。まともに会話できそうかもしれないという期待と、それと同じぐらい感じる不気味さが俺の中で同居していた。


「私はミズチ。またの名をモルガーナ……。気軽にモルって呼んで頂戴ナっ」


 腰を直角に曲げたまま顔をこちらに向けてウインクをして見せたミズチという……男性(仮)。

 

「さぁ、今度は貴方たちの番よ。名前を聞かせて頂戴な」

「えぇそうですね、僕らは元々ここに住んでたモンでして。色々とあって戻ってきた次第なんですがとんでもなく様変わりしてまして、――前々は貴女のような方は見ませんでしたね、最近ここら辺に越してこられたんでっしゃろか?」

「いいええ?私たちはずうっと前からここにも向こうにも住んでいたワ。きっとアンタたちが居た時も居たはずヨ。この辺は私の縄張りってとこかしら。」


 ならばこいつらのリーダーってことか。それならば蘇芳さんが固唾をのむ程の手練れであるのも納得できる。手下どもが軒並みやられたもんでリーダー自ら戦場に降り立ったってわけだろうか。


「きっと見たけど忘れちゃったんでしょうね。ほら、私ってば影が薄いのよ~。仲間同士で飲んでいてもね、すぅぐに存在忘れられるんだから困っちゃうわよ、ホント。」


 片手をこちらに向けて仰ぐように振るミズチ。

 俺の感覚が鈍いだけなのか、彼からは一切敵意が感じ取れない。横に目をやると蘇芳さんも同じようで、顎に手をやり奴を見据えて固まっていた。


「あっはっは、冗談がお上手なようで。僕、こう見えても結構目敏いキャラで通ってましてねえ、正直言うてアナタ……見たこと無いんですわ。」


 徐々に蘇芳さんの声のトーンが低くなっていく。


「あら、そう?」

「迂遠な言葉は避けましょう。アナタ、どっちですか?そこに転がる奴の仲間か、敵か。答えてくれますでしょうか」

 

「……そうねえ。私アナタの事をかわいそうに思うわ」

「何ですって?」


 急に意味不明なことを言い出すミズチ、突飛すぎて俺たち全員の力が少し抜けたように感じた。



「本当の事を、腹の内を語れない境遇だったのね。心労察するに余りあるわ」

「余計なお世話です。それよりも僕ん質問に答えてくれませんかね」

「あら、なら先に私の問いに答えてもらいたいものね」


「問い?」

「ええ。アンタたちの名前を聞いた私の問いに、答えてないわよね?」

「異なことを、先ほど素性は明かしたはずですが」

「ホント、難儀な人ねえ。分からないのなら、もう1回聞くわね。アンタたちの『名前』はなあに?」


 指摘され初めて気づく。確かに蘇芳さんは俺たちの素性こそ明かしたが名前は言っていない。

 その理由は乏しい知識しかない俺にでも分かった。呪術対策だ。


「重ねて言うわよ、いの一番にアンタたちが私に何者かと聞いてきた。そして私はミズチ。そしてモルガーナって答えた。ここにずっと住んでいるってこともね。じゃあ次は、アンタたちの番じゃない?」


 対象の生命やエネルギーを使い術を行使する呪術には、呪いの名に恥じない効果を持った術も多くある。その者の名前知ることができれば対象を呪い、デバフをかけることも容易くできるだろう。


 故にこそ、こいつの問いは先の蘇芳さんの問いに言葉なく答えると同時に、我々に刃を向けてきたという事であるとこの場にいる大抵の人間がそう受け取った。


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