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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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45:嘲笑う道化

「けひっ、くふふ、んふふふ……」


 不気味に肩を震わせる大男。それの呼応するかのように周りの木々が風に揺られて騒ぎ出す。加護のせいで周りの音が嫌に耳に響く。これまで感覚が鋭敏になることは初めてだ、戦場に身を置いていることも影響しているのだろうか。


「……」


 キシュアの通話はまだ終わりそうにない。かれこれ五分は経とうとしているが、未だ終わる気配を見せずにずっと目を瞑ったままだ。結構な量の報告があるのだろうか、或はそもそも電波が弱いみたいな状況でうまく通信できてないのかも。


 キシュアが通信している間、声を殺して肩を震わせている怪物。本当に薄気味悪い奴だ。


「静かに。自分の立場を弁えてください」

「ふは、無理を言う!これが哂わずにいられようか、こうもまあ見事に踊ってくれるとは」


 踊る。どこまでもこいつは自分の手のひらの上だと宣うか。

 こうして手足を拘束されているのすらも勘定に入れたうえで笑っているのなら、心の底から軽蔑するぜ。その精神は異常だ。


「っスぅー……。今、念話が終わった。第一隊に続いた第二小隊からだ」


 重々しく口と目を開いたキシュアが語り始める。


「第一小隊は隊長のブルースを残しおよそ壊滅、第二小隊もそこそこの人的ダメージを受けたそうだ。」


 語られた真実はその場を凍らせた。

 見通しが甘かった、いくら粒ぞろいの精鋭部隊とはいえ数の暴力には太刀打ちできなかったのか。


「城の中にはとんでもない奴がいたそうだ、お前はそいつの事をよぉく知っているよな……!」


 怒髪冠を衝くとはまさにこのこと。魔力がオーラのようにキシュアの体を覆い短い髪を逆立てる。


「ふふ。えぇ、ええ、勿論。私の為に私が仕組み私が演じ、私が哂う為に私が弄んだ。全て、須らく私の計画通りなれば」

「こうして無様につかまっているのもか?」

「ええ、えぇ、勿論。過程に少々予想外な点はあれど、着地点は儂の思い描いたとおりである。実に愉快。こうしておぬし等の憤怒にゆがんだ顔を下から覗けるとは、いやはややはり極上の肴よなあ。酒を飲みたいわい」

「待て、何を仕組んだというんですか。ケインクン、一体何が居った言うんですか」


 蘇芳さんがしびれを切らしてキシュアに問う。そしてその問いに重々しく答えるキシュア。


「コイツと瓜二つ……分身のようなものがいたそうだ。そしてそいつを撃破したと思ったら、貧相な男がそいつの死骸から現れたとさ」

「ええ、実に貧弱な男だった。故に、それを素材にした式神もたいそう弱くなってしまいましてな。しかし、存外楽しんでいただけたようでなによりですなあ」


 細い目で思い出すかのように語る男の言葉を無視して、キシュアは報告を続ける。


「コイツの分身を倒すのに先ず分隊長が『カミカゼ』を実行。その後現れた男を捕縛し此方へ向かう途中爆散し周り一帯を消し炭にしたそうだ。」


 カミカゼと聞かされ、俺は分隊長さんが行った作戦を察した。

 そしてそれの立案者も。


「じゃ、じゃあみんな死んだって事かよ!?噓だろ?!」


 東藤がいきり立ち叫ぶ。

 

「俺もとてもじゃないが信じられんさ、大将の元についてからずっと一緒だったんだ。簡単にやられるタマじゃあないのは誰よりも知っている。」


 一言ずつ、まるで血反吐を吐くかのように紡ぐキシュア。肩を震わせるのは、誰に対しての怒りなのだろうか。


「そして、俺達に対して決して嘘はつかんことも知っている。」



 キシュアの言葉を最後に、周りは水を打ったように静まり返る。


「けひっ、そうか。そうなったか、いやはや、泥人形の扱いには注意するように云っただろうに……いや……もしや儂のことだから云わぬまま消えたか?いずれにせよ面白うなったのぅ」

「ケインクン、並びに二人共。僕の失策です、今すぐコイツ黙らせますんで待っとってください」


 蘇芳さんの決断は正しいだろう。これ以上こいつの言葉に耳を貸していればこの場にいる誰も正気を保っていられない。蘇芳さんの指の動きに従い地面から黒い蔦が追加で現れ男を束縛していく。


 名前ぐらいは聞き出したかったが……まあ、しょうがない。これは俺の予想だがこのつかまっている奴も式神とかいう分身体だろうから、いくら尋問や拷問をしても情報は得られまい。


「あと数分で第二部隊の生き残りが保護したブルースが戻る。大将、切り替えろ。どうする、俺ならば十全に動ける。もしこの道化風の男の分身がまた現れても対処して見せるが」


 キシュアの言葉には嘘が紛れている。

 確かに体力や負傷具合は全く持ってもんだいないだろうが、メンタル面、精神状態が正常ではない。この戦場についてからも常に笑っていた顔から一切の表情が消えている。

 それを見抜けない蘇芳さんではないだろうが、このまま進むにしても限界がある。


 どのように指示を出すのだろうか。そしてそれをみんなはどのように受け取るのか。



「有難うございます。ホンマに不甲斐ない指揮官で申し訳ない、君らに甘えっぱなしですね」

「ならば」

「ええ。もう少しだけ付きおうて下さい。」


 腰を折り丁寧に依頼をする蘇芳さん。それに対し第四部隊とキシュア達は拍手で答えた。

 全軍を引っ張るようなカリスマではないが、人の上に立つ素質は間違いなくあるんだなと思えるやり取りだった。



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