40:城の中で
突入の合図で、十数人の歩兵が城門を叩く。
赤褐色の肌を持つ怪物と呼ばれる生物が中に点々と座っていた。
「斬れ!進め!俺達の進む道が後続の安全となる!」
先兵の指揮を蘇芳より任された筋肉質の大柄な男、名をブルース。彼は若くして力に恵まれ前線の指揮を執るにまで至った。
彼の指揮の元槍や弓などの中、遠距離の攻撃を多用し怪物に反撃の隙を与えずに命を奪う。流れる血は人と同じ赤い色。クリアリングを繰り返し、着実に安全圏を広げていく。
城の正面側は先の爆発で崩れたままだが、侵入してきた後門側はすこし修復されている。
敵側も知性を持つことの証左であると、ブルースは理解した。
「付近の生命反応なし、どうしますか」
傍にいる長髪の男、ギルが魔法陣を展開しながらブルースに指示を仰ぐ。
「そうだな、一人を残し俺たちは進軍する、残った一人は連絡係として大将のところへ戻れ。状況を伝えるんだ」
「了解、ではジャン。一人で行けますね」
「まっかせてくれぃ!逃げ足の早さには自信があるんで!」
あどけない青年が歯を見せて笑う。大人というにはいささか小柄が過ぎる青年は、ブルースよりメモを受け取り走っていく。元より彼は青年がこの作戦へ参加することに反対していたので、早々に離脱させることができたのは僥倖だと思っていた。
「奇襲はおよそ成功といえる。奴らめ、呑気に月を肴に飲んでいやがった」
「罠かもしれませんよ」
「もとより承知の上だ、罠ならばせいぜいうまくはまって見せるさ」
彼は、蘇芳から一番槍を言い渡された時より覚悟を決めていた。恐らくここで自分は死ぬ、死ぬがそれがこの作戦の肝となる。
故に、可能な限り人類に有益な死を、出来得る限り的に損益を与える死を。
「貴方も度し難いですね」
「そんな俺についてくるお前もだろう、ギル」
傍らで笑う男を小突き、改めて槍を握りなおす。
「隠密の効果がそろそろ切れる、各々掛けなおせ。自分で出来ないものはギルのもとに来い、傷があるものは治療薬を使っても構わん、無茶をするな。まだ序盤だ、ここから長いのだから」
気配を消す魔術をかけ直してそのまま進む。
後門から入り、城壁をつたって敵を殺して進んできた彼らはまだその歩みを止めない。そしてそのまま上に進む階段へとたどり着く。
構造的に敵の大将がいるとすれば天守にあたる上層にいるであろうというのが蘇芳の予想。それを信じブルースは一つの可能性を見出した。
恐らくこの襲撃はもう向こうにばれている。そのうえで敢えて放置されているのだ、一階にいた者たちを見殺しにして確実に侵入者を屠るための準備を整えているところだろう。
「この付近にはやけに数が少ないですね」
「恐らく誘っているのだろうな、上等だ。馬をよこせ」
ギルの言葉を肯定し、後続の方より馬を連れてこさせる。慣れた手つきで馬の鎧を付けて跨る。
「ようし、いい子だ。安心しろいざとなればすぐに逃がしてやる。お前は死なせないサ。」
「クサントスだけでなく貴方も死なないでください。」
「ふは、ならば俺の傍を離れるな。俺がこいつを死なせないように、お前も俺を死なせなければいい」
二人とも同じ未来を見て互いに笑いあう。
「さぁ怪物共!軽弓や短刀ではこのブルースの命はくれてやらんぞ!」
「我らの命ほしくば正々堂々姿を晒せ!臆病者共!」
馬のいななきと共にギルが魔法陣を展開し二階へ突入する。ギルの魔法に反応し、地面に設置されていた地雷のような魔術が一斉に起動する。予想通りと言わんばかりに彼らは笑って硝煙の中へ身を投じる。
「駆けクサントスッ!うぉぉぁ――ッ!」
「貴様らのつたない知性ごとき、見通せぬ我らではないわ!」
槍をふるい矢継ぎ早に飛び込んでくる雑兵を薙ぎ倒し、遠距離から狙ってくる敵をギルが魔術で対処する。完璧ともいえるコンビネーションで敵勢力は見る見るうちに減っていった。
「ブルースッ!止まって!」
「応っ!」
ギルの呼びかけでピタリとその歩みを止めたブルース。彼が索敵用に発動させていた魔法陣を何者かが破壊したのだ。
「すでに展開された魔法陣を壊すのは、容易ではない。自慢じゃアないが俺の魔法陣がここまで壊されたのは初めてだ」
蘇芳率いる軍の中でも指折りの魔術使いのギルが用いる魔法陣を恰もガラス細工を砕くように壊して見せた相手。待ち構える敵の技量を測り、二人は武者震いを止められずにいた。
「ギル、帰るなら今だぜ」
「その言葉、のしを付けて返しますよ」
震える体と馬に鞭を打ち、そのまま進んでいく。
待ち構える部屋で笑う男は。
「ふふふふ、よくぞ此処まで来られましたなあァ。同胞共の歓迎はどうでしたかな?」
同時刻、外で捕らえられている男と同じ顔でブルースたちを嘲笑っていた。




