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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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39:序盤の決戦

 蘇芳さんの言う通り、あれからひっきりなしに狼やら熊やら大型の動物が襲い掛かってきて、そのたびにキシュアが指揮を執り撃退している。


 いくら雑兵とはいえ、こうも数が多いと此方の消耗は避けられない。聞いた情報からするとあとすこしで目的地にたどり着くわけだが、ここまでノンストップで来たため、準備を整えたいところだな。結界を張って一度足を止めるか?その程度なら俺でもできるだろう。


「全員に通達ッ!目標地点を目視!」


 先陣を切っていた部隊からの報告で、場の空気が変わる。


「んで、どうする」

「凡そは予定通り。僕の予想では奴さん油断しているはず。先ずは尖兵として第一部隊のみ突入、その後様子を見て第二部隊を投入。我々第三は援護に回ります。第四部隊は後ろで待機。場合によってデコイ、陽動に出てもらいます」


 明確に指示を出す蘇芳さん。俺たちがいる第三隊は様子見つつ援護とのことだ、お荷物を抱えているのでそうなるのは当然だろう。透視や感知系の魔法を使って内部の情報を探りたいが、それでは不意打ちの意味がなくなってしまうためできないとのこと。もどかしい。


「気張っていこうな、兄弟」

「おう、互いにな。無事に帰る為なんだから無茶はできねえけど、頑張ろうぜ」

「んふふ、血気盛んなのはいいことですが、君らはお留守番です。僕ら大人の影でおとなしゅうしとってください。」


 指を鳴らしてやる気を滾らしていると、蘇芳さんに窘められる。前線に連れてこられたからには暴れる気でいたのだが、俺たちの役割を思い出し冷静さを取り戻す。


「そうだぞ。お前たちは俺が守ると決めた保護対象であり敵共の地雷、指一本触れさせるものか」

「頼もしい限りだぜ」


 課されたオーダーはただ一つ、生き残れということのみ。

 生死の境が曖昧になるこの戦地において、しっかりと自我を保ち五体満足で生きて帰るという目標。


「全員、気張っていきましょう。此処が最初、序盤の正念場です!」


 蘇芳さんが指を鳴らし、それを合図に前線がギルド跡地に突入する。

 カムフラージュの魔法をかけている為下手を打ってボロを出すか、侵入してきたレベルの怪物がいない限り大丈夫だろう。


「これ、フラグかな」

「おいやめておけよ、旗を掲げるのは勝鬨をあげるときだけでいい」


「ふふ、その通りですが変に気を使いすぎるのもまたよくない。大丈夫、僕が……いえ、僕と仲間たちが成功させて見せますよ」


 *



 五分。


 計画されていた時間がたつまで、俺たちは息を殺して第二陣が突入するのを待った。


 第一陣からの報告はまだない。計画通りに進んでいるか、報告すらままならぬまま討たれたか。いずれにせよ中の状況は不確定のままだ。


「後二分、全域に僕の感知術を張り巡らさせます。それと同時に第四部隊は後ろの森に身を隠してください。馬の手綱を決して離さないこと。よろしくお願いします」



 

 たった二分、されど二分。カップラーメンすらできない短い時間がここまで長く感じることは初めてだ。額に汗がにじむ。



 風が木々を通り抜け葉を揺らす。

 先ほどまで闊歩していた獣はどこにもいない。静かな草原に俺たちは腰を下ろして草に身を隠していた。


 カウンターで相手が感知系の呪術や魔法を使った気配はないらしい。


 心臓がバクバクとなる音と、皆の呼吸の音が変わりばんこに耳へ届く。緊張のせいで、小さな音が耳の中でこだまする程大きく聞こえる。



「いいですね、ケインクン」


「任せろ大将、ひと暴れしてしてやるさ」


 蘇芳さんの呼びかけに応え、両手に握る刀を見せるキシュア。

 日本刀のようなビジュアルのそれは、美しく光っていた。


「頼もしい。では二人は僕の傍を離れないように付いてきてください。」



 片手を掲げ指折りでカウントダウンをしだした蘇芳さん。


 五本の指が次第におられていき、握りこぶしが出来上がったと同時に怒号が響く。



「第二陣!突入!」

「ッ!四陣ッ!前進ッ!馬は捨て置けェ!!!」


 計画通りに跡地へ突入したと思えば、ゾワリと悪寒が全身を撫でる。



 この感覚、いやでも思い出す。あの時、骨を折られたあの時と同じ――!


「ふぅむ、これほど毛並みが良い馬を捨て置けとは勿体ない。どうれ、儂がつこうてやろうかえ?」

「ずぇあいっ!」


 俺が振り向くよりも早くキシュアが声のする方へ駆け出していた。


「た、大将っ!件の化け物ですッ!」

「どうしたら!」


 緻密に練られた計画にもなかった一手。

 ここで挟撃にあうとは、誰一人思っていなかった。


 何故こちらの場所が暴かれた、何故こんなに接敵されるまで気配がなかった。通常の転移や呪術ならば蘇芳さんが感知を使うまでもなく勘づいているはず。それがないという事は即ち転移ではない。


 つまりは、ポータルとして俺達がまた使われたってことじゃあないか。


「その敵意、その害意、それがあなたの本質だ。我らの本質だ。努々……忘れるではないぞ」

「くっ!大将ォ!頼む!」


 かなり離れた四陣の人たちがいた場所から瞬く間に俺達第三陣の最後尾付近まで移動した痩身の男。接近していたキシュアは急旋回が間に合わず、膝をつく。


 またあの時と一緒だ、こいつの手のひらで踊らされているかのような感覚。全てが後手に回ってしまっているよう。


「ヘルトスさんらとおどれの対策はしとるんです、馬鹿にしやんといてください」


 蘇芳さんが腕を回し円を描く。道中話していたアンチ化け物の魔法だろう。仕組みは詳しく理解できていないが、発動さえできれば確実にあの化け物を拘束できると聞いている。ならば俺のすることは、出来ることは!

 

「なんと。なんとなんとなんと!儂が、この儂が髪の毛一本すら動かせぬとは、なんという胆力!これほどまでにワタクシを想っていているとはぁ……!」



 有難いことにあいつの口は前回同様良く回っている。その間にイメージを固めよりこうかをたかめろ。相手は俺が東藤と二人がかりで手も足も出なかったヘルトスさんを軽くあしらった化け物だ、俺の出せる全力を出してもまだ足りない。


 全力を超えた全力で相手を囲え。助力をしろ、助けろ。やれ、やれる、俺なら――出来るッ!


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