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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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38:嫌悪を抱く

 出たとこ勝負。追い詰められた状況で何とか見出した活路……といったところか。もし俺が天城さんなら、嫌いな相手からそんなことされた瞬間お冠だろうが、そこは彼女の善性を信じるしかないか。

 たらればの話はいくらでも浮かんでくるが、状況が状況。あのミミズが馬車を攻撃していたら、馬が間違いなく致命傷を負い俺たちは足を失うことになる。そうなれば今回の作戦はご破算だ、軍勢を率いていなければ、戦争になるはずもないからな。


「さて。そろそろ蚯蚓にやられた土地から抜けます。そうなれば……」

「隊長ッ!敵襲ですッ!進行方向右、数凡そ10!四足歩行型多数!」

「応!中央、左翼陣はそのまま進め!右翼は一部残り接敵に備えよ!迅速に殲滅しろ!」

 

 蘇芳さんが口を開いたと思ったら、先陣の方向からの報告が届く。対応の早さや蘇芳さんの口ぶりからして、順調に計画通りに進んでいるのだろう。


 

「よく見ておいてください。あれらが、人類を脅かす怪物どもの尖兵です。」


 正面の右側から砂煙をあげて突進してくる大型の犬のような怪物。どどめ色の毛並みのそれは土を蹴り次々に襲い掛かってくる。対して軍の人はツーマンセルで動いている。盾や鎧で奴らの牙を防いでから二人目が確実に仕留めている様子だ。素人目にも分かる、実に訓練された無駄のない動きだ。


「……俺には、あんな奴らに脅かされるような人には見えないケドな。アンタは」

「っはは。そりゃあね。あれらに負ける実力では人類救済なんて吹けませんよ」


 救済といった瞬間、彼の目が泳いだように思えた。どうしたのだろうか、彼の目標は救済というに相応しいと思うが何か彼の中では違うのか。或いは、俺達を巻き込んでいる現状に対しての後ろめたい気持ちがある……いや、それはない。確かに謝意は持っているだろうが、後悔や悔恨の類は一切抱いていない質の人だ。


「隊長ォ!撃破です!」

「よくやった!各陣、体制を迅速に整えろ!此処は敵陣だという事を忘れるなァ!」


 思案を巡らせていると、前方から報告が届く。あの群れを数分でやったのか。

 精鋭部隊の名前に偽りなしだな。


「さてさてさてさて。さえぎられてしまいましたが、先ほど言おうとしたんは之から先ほどのような獣が何度も襲ってくるはずです。」

「あれらは何なんです?」

「呪詛によって歪められた動物だ、怪物共の操り人形として野良の狼や猪に外法呪術を埋め込み狂暴化させてるんだ。元々は穏やかな獣だったというのに……許すまじッ!怪物共ッ!」


 俺の質問にはキシュアが怒声と共に答えてくれた。確かにキシュアは俺達が呪術を学んでいるときもいい顔はしていなかったから、何かあるのかと思っていたがこういう事か。

 成程その事実を知っていれば、とてもじゃないが穏やかではいられまい。


「予想ですが、ここにもう普通の生物はいない。あのミミズや先ほどの狼も呪詛で歪められた結果です。足止めや実験、色々目的はあるでしょうが……外道行為なのは変わりません。」

「胸糞悪いことこの上ないな」


 生命を自分の都合で作り変える極悪非道の極みのような所業。倫理のかけらもない事を奴らは平然とやってのけると彼は言う。


 苦しそうに蠢く狼の死骸を馬車の窓から見て、俺は顔をしかめた。


「申し訳ないですが、この手の畜生は量産された雑兵です。慣れてください」

「それができないのなら、出来る限り目を背けておくことだ。お前たちはきっとそうした方がいい」



 俺達を慮り、二人が優しい声色で言ってくれる。東藤は知らないが普通の動物の死体さえほぼ見たことの無い俺にとっては、惨たらしく作り変えられた狼の死体というものはかなりショッキングであり、覚悟を決めたつもりでいた俺の心を容易く砕く。

 何時ぞや同族をスケープゴートにしてギルドに侵入してきた時に血も涙もない化け物を相手取ると頭では理解していたつもりだが、俺の想定を優に超える悪辣さ。


 この感情は何なのか。

 恨み……違う。俺が直接受けた痛み等ほぼ皆無に等しい。恨みと呼ぶには関係が浅すぎる。

 正義感……これもまた違うように思う。小心者の俺にコミックヒーローのような高潔な精神はないだろう。


 思考を巡らせ、俺の脳裏に一つの言葉が思い浮かぶ。


「嫌悪」



「無理もありません。誰であろうと、このような所業に嫌悪感を抱くことは何ら不思議じゃない」

「そうじゃ、無いっス。なんだろう。うまく言語化出来ねえんですけど……」




 高尚とはかけ離れた下品な感情。きわめて稚拙な唾棄すべき悪感情。

 何故、俺は化け物共にそのような感情を抱く?


 蘇芳さんの言うように悪辣な行為を目の当たりにしたから?


 どうにも腑に落ちない、何か、何かその答えのキーになるものを見落としている気がする。


 

 早鐘を打つ心臓を抑えるべく深呼吸を繰り返し、俺は蘇芳さんに手を差し伸べた。


「元の世界に帰るって目標は変わんねえですけど、俺出来る限りの力を尽くしますよ。俺の感情どうこうじゃなくて許せねえっス。これは」

 

 取りあえずはこれでいい。俺自身の好き嫌いの話じゃあない。

 人類の生存をかけた大勝負なのだ、俺は今、正しいことの中にいる。

 それで納得しろ。


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