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04:呼ばれて飛び出て

内側から腐った人類。


 なんとなく想像できる。

 なんかのアニメで、追い詰められた人類同士で殺しあう……なんていう題材は見たことがあった。




「これを見てください」




 渡されたのは地図。見てみると、成程元の世界とうり2つだ。


 大きな大陸が2つ、そこそこの大きさの大陸が4つほど。あとは小さな島が点在している。地理の苦手な人間が必死に思い出して描いためちゃくちゃな世界地図って感じだな。




 大きな大陸には、数か所赤いインクでバツ印がつけてある。






「印のあるところ、僕らが来る前の人類……いわば旧体制の防衛戦線。人類と怪物共を隔てる境界線やったんです。その内側で人類は暮らしていた。」




 大陸を縦断するように置かれたバツ印はそういうことだったのか。


 成程、いわば異世界版万里の長城。外敵から自国民ならず全人類を守る城壁ってわけだ。



「実際問題、この大陸は結構広さがあるし気候的な問題も少ないし、食料も申し分ないしなんやったら遠征して獣を狩って持って帰ってくるぐらいやったら何とかできたはず」



 両手をあげて首を振りながら言う蘇芳さんの表情は悲しげだ。

 実際にその腐った人類というに値する人類のあり様を目の当たりにしたのだろう。



「少しずつでも、ポイントポイントで攻めていけば土地は取り返せた。僕が作ったみたいなギルドでも何でもいい、防衛に使っていた力を集約してどこか一点でも落とせれば、状況を打破できる可能性は十分にあった。それでも、お偉いさん方は攻めることを良しとしなかった。防衛以外に金を使うことを極端に嫌ったんやとさ」



 金銭が発生しないのでそもそも人が集まらず、少数集まったとしてもモチベーションが一定に保てず直ぐに戦線が崩壊する。よしんば戦いを継続できたとして、それを維持できるほどの胆力も兵糧もない。


 故に反撃はできない。防戦一方というのもうなずける。



 しかし……それだけでは滅亡の理由には不足していると感じる。防戦一方でも肥よくな土地があれば生き延びること自体は難しくないはずだが。



「滅亡した……いやしかけたんは、そんときのアホの為政者のせいや。勝ち目のない戦いを勝手に初めて、負けて、土地を奪われ、人の命をいたずらに奪い、自分はおめおめと内陸側に帰ってくる。そんなアホが、何人も……何人もおったんですよ……!せやから僕を救うてくれた町は滅びた……!」




 贅沢ができない状況に嫌気がさしたのか、各地の領主は全く統率の取れていない出来損ないの軍ともいえぬ群れで怪物が占領している土地に攻め入り、何度も負けて帰ってきたそうだ。




 この戦いがもたらしたのは無駄な戦死者だけではないという。


 当り前の話だ。いくら怪物といえ何人もの人と殺し合い無傷とはいくまい。双方に一定以上のダメージはあったはず。そしてそれは報復という形で人類に返ってくる。




 最前線で戦い、負けた土地でそれに対抗する力など残っているはずもなく、領主が攻め入りを決行した土地は十中八九奪われる結果となったらしい。






 転生直後、蘇芳さんを保護してくれたという土地もその報復の戦火に巻き込まれ甚大な被害を受けたとのことだ。命からがら戦線から遠い内陸に逃れることのできた蘇芳さんはさっき言ったような事情を知り、滅亡を悟りギルドを作りに至ったとのことだ。




「どの権力にも属しない、どこにも肩入れしない。なすことはただ一つ人類の存続。それだけを至上の目的とし活動する団体。それが僕の作ったこのギルドです。」




 このギルドの成立に伴い、力のあるものはそこへ所属するようになり、効率的に戦線を維持ができるようになったという。


 加えて、力をギルドが一括して管理していることによって領主などの暴走も未然に防ぐことができていると。




「そうなると旧体制、貴族やら領主屋良からの反発はすごそうだけどな」




 まっとうな意見を東藤がこぼす。




「もちろんそりゃあすんごい糾弾にあいましたよォ。ただ、疲弊した貴族共に僕を殺せるだけの余力はない。殺されなけりゃあ僕ァ止まりませんから」




 目を細めて笑う蘇芳さんの表情はとても恐ろしく、なんとしても自分の目的を果たすという覚悟を感じた。




「ただ、それでもマイナスをゼロに持っていけるだけ。プラスにはできない。そしてそのゼロというのも相手側……つまり怪物どもが我々のやっている戦法を真似ないという希望的憶測による前提のもと。」


「今の状況は薄氷の上ってことっすね」


「そゆこと」




 怪物という呼称に、知性のないウルトラ怪獣みたいなやつを想像していたが、確かにそいつらが結託し攻めてこられては一気に形勢は向こう側に傾くだろう。この世界が詰みの状況に追い込まれているという言葉を、ようやく理解できた気がする。






「で。状況は何となくわかったところでもう1回聞くけど、戻れるのか?俺は、俺たちは」


「あります。それは確実に。」




 端的に告げられた答えに、緊迫していた雰囲気が一気にほどけていくの感じる。

 自然と東藤も体に入っていた力が抜けて、深くソファに腰かけた。



「帰る方陣は準備が必要ですが発動できます。そして、そのうえでお願いがあります」



 薄々予想していた言葉が続く。


 何故蘇芳さんはあんな人気のないところに居たのか、なぜ自分の陣地の中枢ともいえる場所に連れてきたのか、なぜ長々とこの世界の状況を説明したのか。




「力になれって事っすよね」


「その通り」




 俺の言葉にゆっくりと首を縦に振る蘇芳さんは、眉をひそめてつづけた。




「虫がいい話なのは重々承知してるつもりです。ですが、この世界、詰みの世界を救うにはこの世界のリソースでは足りん、君らが必要だったんです」


「俺らが必要って、そんな特別な力もってないぜ。良くも悪くも一般人だ、なあ兄弟」


「まあそうだな」


「こいつなんて、ちょこっと歩いただけで息切らすほど貧弱なんだぜ?」




 うるさいなと東藤を小突いて、俺は蘇芳さんに向き直る。




「君らには世界を跨いだ時に加護が与えられているはずです、僕と同じならね。」


「ほぉ!加護!ラノベあるあるの金字塔だな!!」



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