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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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37/51

35:趣味の時間

 東藤はかなり長いこと眠っており、その間俺はパナケアさんのところへ感謝しに行ったり自分でヘルトスさんからもらった本で座学をしたりして時間を潰していた。


 ここにきてずっと疑問だったこの世界の成り立ちについての本だ。

 いずれは見捨てる世界の事とは言え、気になったことをほったらかしにできない。なんとも困った性分だ。

 文字も分からないので、隣に蘇芳さんお手製の手帳を並べて解読している。


 成程この世界の文字は元の世界で言うローマ字に形は似ているが、意味合いや使い方はてんで違う。そして何より発音。かねてより気になっていたが、何故セレンさんやら個々の人たちに齟齬無く通じるのか。それはここの言語の発音や意味が日本語と酷似しているからだ。何やら転生の特典的なものだと思っていたが、違うらしい。


 つまりは、元の世界……日本出身の奴が大昔に転生してきて、ここの言語の基盤を作った?いや、それだと文字がローマ字基準であることの説明が出来ない。

 

 目を走らせて歴史書を読み解いていく。そこに答えが、或はヒントがあるはずだ。



「……この土地には、ほう……それで……?」


 曰く、はるか昔今と同じように人と怪物の戦いがありその時は人類側の圧勝だったと。

 なんでもこの書物では勇者が現れて、敵をバッタバッタとなぎ倒し人類に勝利をもたらしたんだと。


「眉唾だぜ、こんなもん……歴史書っつうから借りてきたってのに。」


 都合よくそんな王道RPGの主人公みたいなやつが現れて?敵を倒してハッピーエンドってか。そいつはいい、この書物を記した奴かその勇者ってやつに直接会ってなぜ今そいつみたいなやつが現れないのか是非聞いてみたいね。


「かなりの脚色はあれども、おそらく史実に即した物語なんだろうが……。」


 今のところ、俺の知りたいこの世界のルーツは書かれていない。しまったな、借りてくる書物を間違えたか。英雄譚より古事記のようなものを期待したのだが……。いや、諦めるに早いか。神話や古い英雄物語はそこの文化に深くかかわりを持つ、ならそこから紐解ける何某かがあるはずだ。


 そう思いなおし、俺はさらに読み解いていった。



 ***


 

「ふぅぅ~~~~。参った、単純に面白くて見入ってしまった」

「それは何より、古くから伝わる読み物ですからね。」

「のぁわっ!?なにやつぁ?!」

「おやおや、驚かせてしまいましたか。これは失礼」


 後ろからぬるりと現れたのはヘルトスさん。よれよれの白衣と目の下のクマがここ数日の過酷さを物語っていた。


「大丈夫ですか?」

「おや。これは何とも、存外に君は敏い。私もまだまだですね」


 頭をかいて服のしわや寝ぐせを正すヘルトスさん。彼はどこからか持ってきた水筒を俺に差し出してきた。


 中に入っているのはおいしそうなスープ。蓋がコップになるタイプの水筒を開けてそこにそそぐ。

 湯気がたっている亜麻色のそれは、俺の鼻腔をくすぐってきた。そのせいで腹の虫が大声を出しやがった。


 くそう、解読に木を取られていて気付かなかった。もう昼時か。


「なんと、食事をとっていなかったのですか?それはいけない。これでも食べてください」


 白衣の内ポケットから出してきた個包装されたスナック菓子のようなものを差し出してきたヘルトスさん。いぶかしげに見ていると、ヘルトスさんは「何も毒は入れてませんよ」と笑った。


「これは私とシュウイチ君で作り上げた保存食でね、長期間保存がきくうえに栄養も十分。一つ欠点をあげるとすれば食すときには水分が必須条件という所でしょうか……」


 成程、今はこのスープがあるからこれを差し出してきたってわけか。

 まてよ、なぜ彼はこれを持ってるんだ?俺にやろうってわけじゃあないから、つまり……そういうことか……成程どうして……。

 

「するってえとヘルトスさんアンタ、ここ最近これしか食べてないんじゃ?」

「ほう……これは君への評価を改めなければいけませんね。良くそこまで想像できましたね」

「保存食とそれをスムースに食えるよう水筒を常備してるってなったら誰でも思い至るって」


 現状はなんとも想像以上に度し難い状況らしい。

 いかんせん俺や東藤ではそういった統治関係に関しては邪魔しかできないからもどかしい。


 「君たちのような若人が気にしなくてよろしい。心配なのは分かりますが最後には必ず君たちの望む場所へ私たちが導きますので」

「今度暇があったらその読心術教えてくれません?ガチで怖いンすけど」

「おや、怖がらせてしまいまいたか。謝罪を」

「あぁいや、別に謝ってほしーとかじゃなくてさ、ヘルトスさんみたいに心読めたら動きやすいなあって単純に羨ましがっただけでさ」


 そう俺が言うと、保存食を食べ終えた彼はスープをぐいっと呷り、立ち上がった。

 

「これは私の趣味から派生した特技のようなものです。ただ単に人を良く観察しているというだけですよ。何ら特別なことではない、君も必ずできるようになるはずですが……」


 両の手を広げてこちらを向くヘルトスさん。

 俺でも習得できるのはいいが、「はず」とはどういう意図なのだろうか。


「いえ、止めておきましょう。」


 もったいぶった挙句答えはお預けときたもんだ。俺はブーと唇を尖らせる。


「人には得手不得手がある。君の趣味と私の趣味が違うように、得るべき能力も違うのです。君が手にする力は、君の好きなことの先にあるのですよ。」


 そういって彼は俺に読書を進めるように促した。


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