34:待機命令
件の計画とは、恐らく領地奪還の事だろうが、それが数段階前倒しできることと、東藤がハッスルしてぶっ倒れたことにどんな関係があるのだろうか。
疑問をぶつけると、蘇芳さんは笑って答えた。
「少々予想外のことが多く起きてましてね、想定していた順序では進めなくなってしもてたんですが……、今回東藤クンの中にあるマナの総量、有体に言えばメモリ容量が凡そでも把握できたことがかなりの僥倖です」
僥倖……。続く彼の言葉を予測する。
蘇芳さんはマナの枯渇だと診断して、パナケアさんはそれを肯定した。マナの総量を知るということはそのものが実際に動ける最大値、限界を知るということ。つまりは――。
「敵を知り、己を知らば百戦……ってことっすか」
確か、呪術を学ぶときにも似たようなことを言っていた気がする。
己を知るという部分をかなり無理やりなやり方でショートカットできたってことか。
「その通り。本来なら僕がきっちりスケジュール管理してゆっくりと量っていく予定でしたが、ちょいと想定外のことが立て続けに起こってしまいましてね、君らン事ほっぽってしまってました。だからこそこの結果に落ち着いたことは、ホンマに有り難い限りです。」
そういい終えた彼は、少し間を開けて「監督役失格でしょうけどね」と自虐して両手をあげていた。
「まあ、結果論すよ、結果論。何なら俺も、東藤みてえに限界ギリギリまでやったらどうっすか?俺だったら加護の影響で東藤より負荷が軽くいけるかも」
提案を、彼は強く拒絶する。
過去、俺が提案したやり方でとてもひどい目にあっただろうか。何かそういったトラウマがあるように俺には見えた。
「よしんばそれを実行して、失敗する確率は高く見積もって2割ってとこでしょう。医療に精通したそれこそさっきのパナケアサンが傍に居る状態やったらもっと低くなる」
「ならダイジョーブじゃないっすか?凡そ成功するじゃないっすか」
俺の楽観的な言葉に、蘇芳さんは大きく首を振る。
「2割いかへんぐらいの確立で、死ぬかもしれへんって話です。君らが急く気持ちは十分理解してるつもりですが、それを許容してはアカンのです」
元の世界に戻る、そしてそのための自衛力を持つ為の行為だと思い提案したが、蘇芳さんの言葉に気づかされる。最終ゴールは死なないようにするって事なのに、死のリスク少しでも孕んだ計画では意味がないではないか。
「命を軽視してはいけません。死ぬ気でやるのと、死ぬ前提でやるのは全く違います」
「軽視してるってわけじゃ」
「ええ、分かってますよ。ですが柊木クン、君は少しばかし危なっかしい。無知ということもあるから一概に悪いっわけじゃあないんですけど、君は加護や魔法を過信しすぎている節がある。」
一度、キシュアやヘルトスさんにも同じようなことを言われたのを思い出した。
どうにもならない隔たりを、俺らと彼らの間に感じる。
「この辺の感覚は平和な島に居ったからこそのモンです、失ったらあかんモンです。だからこそ僕やこの世界の住民がやるような犠牲前提、リスク前提のやり方はさせません。」
一度、そのやり方を実行してしまえばその選択肢が否応なく視野に入ってしまう。蘇芳さんはそれを危惧しているらしい。
「確かに僕では最善には程遠い……次善にすら及ばん策しか講じられません。ですが僕や君らを含めた人類の安全だけは約束します。これ以上、あの怪物共に蹂躙されやしません。」
「分かりました、なんか、すんません。ゆっくり……けれども確実にって事っすね」
「そのとォ~り。こっちこそすみませんねえ、特訓開始前は速攻やあ~言うてたのに。立て続けに予想外のことが起きてしまいましてえ……」
そういえばンなこと言ってたな。
てっきりあの夜の襲撃の事を指していると思っていたが、それとは別の事件が起きたのだろうか。
「ともかく!以降のアレコレは東藤クンが目を覚ました後僕から詳しく伝えましょう。それまでは手紙で伝えたように待機でお願いします。」
今回の事があったためか流石に自由行動は許されず、待機命令が下される。蘇芳さんもこの事件を重く受け止めているらしく、ごり押しで領地奪還を掲げていた以前とは180度違うスタイルだ。しかしまあ、納得のいく展開だ。是非に問うまでもないだろう。
ぐーすか寝ている奴が目覚めるまでパナケアさんにお礼をしに行こうかしらね。
「ほんなら、僕はこれで失礼します。」
「っす。分かりました。」
「あ、そうや。君らに渡した腕輪ですがね、防犯ブザーみたいな機構もつけてましてネ、何かあったらそこの部分をバチンと叩いてもらったらドデカい音が鳴り響くようになってるんで、なんかあったら遠慮なくかき鳴らしてください。何をおいてもすっ飛んで僕が来ますんで」
腕輪の一部である円形のエンブレムを指さして部屋を転移で出ていった蘇芳さん。
成程、単なるデザインだと思っていたがそんな役割があったのか。つくづくいい趣味してるなあ。
設計者とはいいお酒が飲めそうだ。




