32:邂逅四番
「やったか?!」
東藤の特大フラグが建設させられたところで、眩い青紫色の光が収まる。見ると、その場にあった大量の紙の塔が消えているではないか。すごいなコイツ、ここ数日で転移をモノにしてみせた。
転生した者はそもそも魔法とかを扱うことが苦手であると聞いていたが、なんだ。そんなことないじゃあないか。これも加護の力なのか、天性のものなのか。
「すげえな!加護の力があるとはいえ、天性の才ってやつかあ?!ええ相棒!」
バンと東藤の背を叩き、感嘆の意を述べる。嫉妬心があるにはある。しかしここはちゃんと奴の努力と才能を認め、称賛すべきだ。
「東藤……?」
「――かはっ」
ばたりと、東藤が倒れこむ。鮮やかな赤色が床に見えた。
困惑。動揺。数秒の間を開けて俺は思い出したかのように口を開いた。
「は――、と、え?」
荒い呼吸で苦しそうに顔を歪める東藤。
俺は訳も分からず、あたふたとしていた。
「ど、どうした東藤!あ、体ゆすらねえほうがいいんだっけ?!」
安否確認で肩をゆすろうとして、止まる。脳に何かしらあった場合揺らしてしまうと危ないと聞きかじったことがある。くそう、そんな知識など真面目に学んでこなかったんだ、急に求められても困る!
「そ、そうだ。セレンさんっ、いや誰でもいい、誰か!」
わなわなと震え力が入らない体を叩き、俺は部屋の外へ出た。
どうにかして東藤を助けなければならないが、俺にはそれはできない。
東藤のような万能の加護があれば治療魔法的なことができるのだろうが、出来るイメージが一切浮かばない。即ち試すだけ無駄だ。頭の中で出来ないことを今の俺で実現できるはずがない。
部屋を出てあたりを見渡し来た道を引き返す。何でったってこんな時に人っ子一人いないのだ……!
「これこれ、若いの。廊下をそんなに急いで走るでないのよさ」
薄い黒髪が目に留まる。他の人が来ていたのと同じ白衣を身にまとい、バタバタと走り回る俺に声をかけてきた。
「よかった!人いた!」
背丈は俺よりもかなり小さい。
140……と、いったところだろうか。小さな女性が立っていた。
「のわ、なにさ。そりゃあギルドだもの、人ぐらいいるわよさ」
廊下を駆け回りもうすぐで食堂にたどり着くかという所で、俺はようやく救いの船を見つけた。
呼吸を整えるのも後回しにして状況を説明し、一緒に来てもらうようにお願いする。この人が医療知識を持っているかどうかはこの際どうでもいい、連絡手段さえ持っていてくれればどうとでもなる。
「ってわけで俺じゃなんも出来ねえし、人を探してたんだ頼んます!」
「なんと。了承したわよさ、早く案内しなさいな」
「ありがてえ!こっちだ、また走っちゃうけど許してくださいっす!」
「火急の用、仕方あるまいさ!」
許してくれたはいいが、走りながら道案内というのも面倒だな。場所の名前なぞしらないから適宜曲がるタイミングで言わなければならない。
ならば、
「負ぶっていいっスか!?」
「んのっ、むむぅ。ええい是非もないさね……ちゃんと抱えろ若いの!」
小学生ぐらいの背丈の為、俺でも抱えられる。そして廊下には障害物がほぼ無い。なら昨日から考えていた強化魔法で足を強化すればかなりの速度を出せるはず。それが最適解だろう。
「よぅし……行くっすよォ!バーストォォッ!」
「のわぁっ?!飛ばしすぎだわさぁ!」
驚かしてしまったが後で謝るとしよう、今はなんとしても東藤を助けなければならない。他は二の次だ。
*
「東藤ォ!助けを呼んできた!無事かぁ?!」
「のわわわ……っは!」
俺の腕の中で目を回していた女性は加速の負荷がなくなった事にハッと気づき、頭をぶんぶんとふりながら俺から飛び降りた。
「トウドウ君とやらはどこ?取りあえずは応急処置をするわよさ」
俺は息も絶え絶えになりながらも部屋に入り、東藤の倒れるところを指さした。予想以上に強化の魔法に体力を持っていかれてしまったが……是非もない。
「彼ね、待ってなさいな。診てあげるわさ」
床に伏す東藤は、先ほどよりも苦しそうに呻いている。
何か持病でもあったのだろうか?一体何が原因なのだろう。
「あの!東藤、大丈夫っすか……!?転移的な魔法使ったとたんぶっ倒れやがったんす!」
「転移……?!そんな離れ業を……!」
ゆっくりと、慣れた手つきで触診をしていく女性。幸運にもそう言った知識のある人を連れてこれたようだ。
「あたしが偶然これてこの子はツイてるだわさ、キミももう安心して大丈夫だわよ」
俺の荒い呼吸を聞いて、心情を察したのだろうか優しい声色で女性が俺の頭をぽんぽんと二回叩いてきた。うら若い女の子にこうもガキ扱いされるとなんだかな……もやもやとした気持ちになるぜ。
「ちょっと服破くわよ、後でちゃんと縫ってあげるからねっと……」
東藤の服をびりびりと破いて胸元を晒した女性。
そのまま空中を指でなぞり、何かを描く。蘇芳さんがやっていたような魔法陣を空中に展開したのだろうか。ってことは治療や医療系も魔法でできるってことだ、すごいな……!異世界ファンタジーの神髄って感じがする。
円を描き終えた女性は片目を閉じて東藤の触診を続けていく。なんだろう、透視で患部を直接見えてたりして。
「喝!」
「うぉっ」
一通り東藤の上半身を見終えたのだろう女性が、手のひらを心臓にあたる部分に当て声をあげた。




