25:予想外
ぐらん、と視界がゆがむような感覚のあと、蘇芳さんのうめき声が聞こえた。
なんだ、一体東藤は何をしたのだ?
「こ、これは……っ!うぶっ……!」
口を押えて蹲る蘇芳さん。それ見て東藤は、「あれぇ???」と首をかしげている。その場にいる全員が困惑した。
何やら失敗した様子だが、結果として蘇芳さんは今動けないでいる、ならば!
「突撃ィ~!」
「ちょぉっ?!」
結界を解いて地面を蹴る。膝をついている蘇芳さんは急接近した俺に反応できず、もろに俺の突進を食らった。そのまま両手でがっしりとホールドしてチェックメイト。計算通りとはいかなかったが、鼻を明かすことには成功した。
「おぉ!Nice機転だアキラ!」
「痛ったぁ……。はいはいしゅーりょー。おぅえぇ……なんやこれ吐きそう……」
これは、俺と東藤の勝ちってことで、いいだろう。
「んっんっ……まあ、文句なしの合格です。僕の予想をはるかに上回る出来栄え。君らの努力に感嘆しますよ、ホンマ」
土埃を払いながら立ち上がり、両手をあげた蘇芳さん。
その言葉に俺と東藤はにっこりと笑いあった。なんか、数年ぶりの青春って感じがして、得も言われぬ感情を抱く。東藤もうれしそうだし、良かった良かった。
「東藤クン、さっきのは」
「ん、あぁ。シェイカーって名付けた技なんだけど、大失敗。アレが決まってれば、蘇芳さんを結界に閉じ込めれたんだけどなぁ~」
さっきの技は、シェイカーと名付けたらしい。どんな仕組みなのだろうか。シェイカーってことは揺らす、震わせるって意味だよな。あぁ、過去形のShookのスラングからとって衝撃を与えるみたいな技なのかも。でも結界に閉じ込められたって事の説明がつかんな……。
「それ、どうゆー技なんでしょ」
「えぇーっと、簡単に言えば俺が指定した相手どうしの位置を入れ替える技で、さっきは兄弟と蘇芳さんの位置を入れ替えて捕まえようとしたんだ」
俺が頭をひねっている間に、答え合わせが済んだ。
しかし腑に落ちない。それなら揺らすじゃなくて、自分でも言っている様に入れ替えだろうが。
「成程……。戦闘中、柊木クンが奇襲成功を間違えてましたケド、君ら言葉の使い方テキト~ですねえ……」
ぐ、俺も東藤をツッコむ立場でいる気だったが、それを言われると何も言えなくなる。
「でも失敗、イメージは完璧だったんだけどなぁ~。俺の中でパーフェクトに成功図を描けたのにうまく行かんかった、煙幕はぶっつけ本番で出来たのにな」
東藤は加護によって、自分がイメージできる魔法は数回練習すればモノにできるらしく、昨日もそれを知ったキシュアが舌を巻いていた。ただ、それも万能ではないらしい、ご都合主義の塊である加護さんもさすがに過労でそこまではケアできなかったのか。
「誰かに教えられたとか、そんな本を読んだとかじゃあないですよね?」
「んー。教えられたっつうか、なんていうか……」
蘇芳さんの問いに口ごもる東藤。
質問の意図も謎だが、それに対しすぱりと答えない東藤にも首をかしげる。
「俺の名前と、転移ができるって事知ってぜったいやろうって思ってただけで……マァ平たく言えばパクリっすわ。誰かから教わったわけじゃない、だからこそ失敗したんだし」
「名前……パクリ……あぁそーゆうことか」
合点がいった。そりゃあ日本に住む健全な男がファンタジックな力を持てば、そういう漫画の類の模倣に走るのは自明の理ってもんだ。
まあ自分の新技って言って披露した技だもんな、パクリと明言するのは躊躇われるもんだろうさ。だからと言ってパクリ以外で形容しようもないので、認めざるを得ないと。いやはや是非もなし。
「その生暖かい目ェ止めろよ兄弟……」
「?」
蘇芳さんはいまいちわかっていない様子だ。
蘇芳さんがいつこっちに来たのかはわからないが、恐らく存在を知らないんだろうなぁ。これがジェネギャってやつか。
「なんとなぁっく察しましたが、つまりはかめはめ波みたいなもんですね?」
「ずばりそれですよ」
「なぁもういいだろぉ!?」
顔を真っ赤にして喚く東藤。いやはや、これは良い弄りネタを手に入れたなぁ。
「お前らマジでいい性格してんな……」
「あっはっは。そんな褒められるとてれますわぁ」
ひとしきり東藤を弄って昼飯を食い終わり、俺たちは訓練を再開した。
「さぁて、僕の目ぇをもってして合格と言わしめた君らには、次のステージへ進んでもらいます。先ずはおめでとう」
ゆったりとした速度で拍手をして俺たちの勝利を称賛する蘇芳さん。後ろでキシュアも拍手しているが、体全体を使って拍手をしているのでかなり喧しい。
「次のステージってなんなのさ」
「はい。そうですね、魔法とは違うまた別の力……昨日までの特訓は東藤クンの得意分野でしたが、今度は柊木クンにぐんばいがあがるかもしれません。今度も僕ン期待をかるぅく越してくれることを信じてますよ?」
魔法とは違うという言葉に、俺は目を輝かせた。
結界とも魔法とも違う戦闘能力を学べれば、俺も東藤のアシストだけではなくもっと派手に活躍できる。そしてなにより、俺は今加護がなければ自力で何もできないということが今回の試験でこれでもかというほどわかったので、そこを克服できる。俺は期待を胸に、蘇芳さんにどんな訓練なのかを問うた。




