20:選択と覚悟
「アキラ君先ほど言った様にあれらに秩序や理論を求めてはいけない」
困惑する俺を見かねて、ヘルトスさんが肩を撫でてきた。
「さて、ここで見てほしいモンは全部見てもらいました。口であーだこーだ言うより、実際に見てもろた方が手っ取り早いと思いましてね。」
確かに、この死体の山は実際に見てみないと口頭で伝えられただけではここまでの嫌悪感を抱くことはないだろう。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。
「これらは後で解剖やらなんやらして有効活用するとして、僕らは部屋ん戻りましょ。」
「そうですね、ここにいては鼻をやられそうです。」
そうして、俺たちはギルドに戻った。
*
「さてさてさてさて」
深くため息を吐いて、蘇芳さんは俺たちに頭を下げた。
「改めて。僕の身勝手でこの戦地に巻き込んだこと、謝らせてください」
「さっきの話の続き、ですね?」
俺の問いに重たく首を縦に振る。
まぁ、俺も言いたいことはある。だが、それを逐一ぎゃあぎゃあいうほど子供ってわけでもない。納得はできないが、理解できるので俺は黙って蘇芳さんの言葉を待った。 東藤も同じようで、腕を組んでジッとしている。
「これまでの作戦では、あと数週間ほどヘルトスさんとみっちり特訓してもろて十分に自衛能力を高めた後、天城クンの勧誘に向こうてもらう予定でしたが、それは根底から崩されました」
敵が攻めてきている情勢で、こちらは受け身ではいられない。そのためリソースを集約する必要があり、計画を一から立て直すことになったとのこと。
蘇芳さんは今までのやり方を一変させ、俺たちを完全に庇護下におくつもりなのだろうか。
「いえ、その逆ですよ。アキラ君」「せやからヘルトスさん、あんさんのその心読むやつ怖いんで止めたって下さい言うてるでしょ」
二人のやり取りに若干苦笑いしながら、俺は話の続きを促した。それに対して「んんっ」と咳払いをして蘇芳さんが答える。
「えぇっと。柊木クンは僕が君らを保護して、完全防御に回る思てるでしょ?」
「そっすね」
「まぁそれが定石、けれどそんな安パイやったらこの窮地をめくられへん。せやから、これから切る手札は全部攻めの札や」
攻め。攻撃に対してのカウンター。
口で言うのは易いが、一体どのようなプランがあるのだろうか。
「先ず掲げるのは、領地奪還」
「領地っていうと、」
「ええ。僕が君ら招待したギルド本拠地です。正直言うて、あの土地奪われたのは大きすぎる痛手ですからね」
人類の要と自称していただけあって、あそこは重要な場所だったようだ。
確かに、スクロールを作るための書物とか、ヘルトスさんの部屋にあった加護を研究しているでっかい機械とかがあったけども、それはもう灰か鉄くずになってしまっている今、そこまで価値があるものなのだろうか。
そして、それが攻めの一手になるのか?
周りのみんなはそのことを疑問に思わないのか、話は進んでいく。
「平行して自陣固め。あそこで失った指揮官も多いんでねえ急ごしらえでも十分の力を出せるようにしてやらんといかんでしょう」
「あ、あの質問いいっスか」
「ええどうぞ」
俺はたまらず話を止めて先ほどの疑問を蘇芳さんにぶつけた。
「成程。アキラ君の意見も一理ありますね。良い着眼点ですが、知識が不足しています。これをみてください」
質問を聞いていたヘルトスさんがつぶやいて、俺に地図を見せてきた。
「いい?本拠地だったところはここ。進軍を阻止するうえでとても有利なところなの」
セレンさんが拠点のあったところを指さして答えの続きを話す。
指さされた土地は、大陸の端。人類が生存できるエリアの西の端に位置しているという蘇芳さんの説明を思い出し、俺は先ほどの作戦の重要性に気づいた。
何も考えずに城壁を立てたのではなく、防衛という観点から有用な土地を選んで建設したのだろう。そこを奪えれば防衛力の回復に加え、様々な作戦が立てやすくなるってわけだ。
「その様子ですと、セレン女史の説明だけで理解したのですね。素晴らしい」
「齟齬が無い様改めて言いますと、周りが平野と海で囲われとるあの土地と、奪われたことにより狭められた土地を奪えれば次の目的である、天城クンの捜索にも有効な一手になる」
「ってことは、あそこの周辺、或いは奪われた土地に天城さんがいるかもって事すか?」
俺の予想を超えたことを言ってくる蘇芳さんの言葉に、東藤が食いついた。
「まだ不確定で、希望が多分に含まれた情報ですがねぇ。でも、火のないとこにはって言うでしょ?何の手掛かりもなしに探すよりかええでしょうし、もし会えたらかなり有益。カノジョもカノジョで僕を嫌っとるだけで、亜人共を敵と認識してんのは一緒ですから。この状況を知れば、力ァ貸してくれる確率は上がるかもしれません」
俺達が帰るだけではなく、逆転の一手となりえる強力なカード。成程攻めとはこういうことか。
「ご納得いただけたようで何よりです。ほんなら選んでもらいましょうか」
そういうと、蘇芳さんは立ち上がってセレンさんやヘルトスさんから少し離れたところまで歩いて、俺と東藤に向けて手を差し出してきた。
「選ぶ?」
「はい。さっき外でも言うたように君らは敵の道しるべ、故に巻き込んでまうんは既定路線です。そこに対しては謝罪のしようもありませんが、そこはそれ。これから先のことを選んだって下さい」
差し伸べられた手は二つ。
蘇芳さんの手と、セレンさんの手。
「僕ン手ェ取って前線でバリバリに戦っていくか」
「私の手を取って支援をしつつ守りの要になるか」
俺と東藤は交互に顔を見やり、覚悟を決めた。
ここでの選択が互いに違っても、恨みっこなしだ。




