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02:邂逅一番。

東藤が家に突撃してから体感数分間壁沿いに歩いているが、一向に成果は見られない。人影は全くなく、ひたすらにレンガでできた道が続いているだけだ。


 人工物はあるというのに、ここまで人の気配がないのはどういうことだ……?

 廃村なのだろうか。


「また考え込んでる顔だな、アキラ君よ~」


「そうだ悪いか、考えなしのお前とでちょうどいいじゃねえかよ」


「ははっ、ちげえねえや。だけどな、熟考も過ぎれば短慮よりも愚かを招くって聞いたことあるか?」


 いきなり声のトーンを下げて忠告してくる東藤に少し驚きつつ俺は言葉を返す。



「それは熟考が過ぎて行動できないことについてだと俺は解釈している。だから、行動しながら考えてる今の俺には当てはまんねえの。お分かり?」

「うへぇ、弁が立つんだか言い逃れがうまいだけなのか」

「うっせいやい」


 両手をあげて恰もお手上げだといわんばかりにため息をこぼす東藤を軽く小突いて、俺たちはまた歩き出す。


 しかしまた数分もしないうちに、立ち止まることになってしまった。



「おい、どうした。そんなに歩いてねえぞ?」




 心配した東藤が項垂れる俺の顔を覗き込む。滴る汗をぬぐい、俺は何とか大丈夫だと答えて息を整えた。


 どうにも体力のなくなる速度が異様に早い気がする。



「成人病か?」

「ふぅ……ひ、否定したいがね……」




 荒い息を何とか整えようとしながら答える。

 確かにこれといって運動はしてはいなかったが、ここまでキているとは思わなんだ。


 これじゃあ軽いハイキングにだって行けやしないぞ。

 ジムに行くなりなんなり、運動はすべきだったな。




 自分の怠惰な生活に後悔を覚えつつ、俺は燦燦と輝く太陽をにらんだ。いや、ここがどこかそもそも地球なのかすらわかっていない時点で、空で輝くあの物体が太陽である確証はないのだが。




「ふぅ、もう大丈夫だ。息も整ったしさっさと行こう」


「って言っても、どこに向かうわけでもねえんだけどよ」


「だからといって立ち止まっている場合じゃあねえのは理解してんだろ?」






「行く当てがないんやったら、僕ンとこ、来ません?お二方」




 ぶつくさ言っている俺たちに投げかけられる言葉。

 急なことに二人とも反応できなかった。




「お初にお目にかかります、僕、蘇芳っちゅうもんです。よしなに」




 長い髪をゴムでまとめた細い目の男、蘇芳を名乗る男が俺に手を差し伸べてくる。

 俺が行動をできずに差し伸べられた手をただ見つめていると、その手を横から半分奪うような勢いで東藤がとった。




「俺は東藤環。あんた、その名前にその訛り」


「東藤クン。僕と君ら、たぶん同郷。具体的な地名はさておいてね。」


「ってことは!!!」




 俺は蘇芳さんの言葉を待ちきれず身を乗り出してしまった。

 そんな俺の額を人差し指で軽く押して俺を制止させた蘇芳さんは、少しだけ間を開けて告げた。




「この世界について、熟知してる人間や。」




 行幸。なんという幸運。


 行き会ったりばったりでどうしようもなかった状況に差し伸べられたまさに蜘蛛の糸。

 同じ状況で、さらになにやらこの世界については俺たちよりも情報を持ってそうな人と出会えるとは。想定していた中でもかなり幸運なパターンだ。


「その反応やと、僕と来てくれるって判断して……ええんかな?」


「あぁ勿論!お察しの通り行く当てもなんもなかったところなんだ!」


 東藤が答える。


「そらなにより」


 蘇芳さんが手をパンっと叩く。

 そういえばこの人、いくつなんだろうか。


 俺たちと同年代とも見えるし、長い髪と不精髭のせいかオジサンっぽくも見える。


 そうか、髭。こっちの世界ではまともにシェーバーなんかがあるとは限らない。となるとこの髭や髪の毛などの手入れもなかなかに面倒ごとなのではないのだろうか。



 そんなことを考えていると、蘇芳さんは屈み、地面に何やら描いている。


 クレヨンか……?



「よし、準備完了。ほな東藤クンと……えぇーっと……」

「あ、柊木です。ヒイラギアキラ。」

「さよか、んなら柊木クン。二人ともちょっと狭いけどこの円ン中入ってくれる?」

「これでいいんスか?」

「うん、大丈夫。ちょォ~っと揺れる感覚するけど、我慢してな……!」


 蘇芳さんが手を組むと、地面に書かれた模様が光りだす。


「うわっ!光った!?」


「なんだこれ!やばいやつ!?」


「ごめんちょォ~と静かにしてなァ……僕、彼女とちごてこの術使うの苦手やねん……集中せな、アカンから……!」



 険しい蘇芳さんの表情に気圧され、俺と東藤は押し黙る。

 数滴の汗が額から流れ落ちるのを感じたその数秒後、俺はこちらに来た時と同様の感覚を覚えた。




「ぐぁっ……?!」

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