19:理解と不可解
蘇芳さんに連れられた場所で見た景色は、俺と東藤にひどい嫌悪感を覚えさせた。
「な、なんだよこれ……」
「見ての通り、死骸の山です。僕がやりました」
そこには、おびただしい数の死体が転がっていた。
「アレが率いていた亜人というわけですか。侵入が成功した場合はこれらで総攻撃でもするきだったのでしょうか」
「にしては、弱すぎますね。僕一人程度で殲滅できたんです。斥候部隊が相手すれば数分ともたへんでしょう」
むせ返るような血の匂い。足がすくんで俺と東藤はその場から一歩も動けなかった。
それに対しヘルトスさんは死体を弄り、観察している。一切の躊躇いがないのは経験なんだろうか。
「ふむ。ではなぜこんなに亜人が群れているのでしょうか、そこまでの知能はないように見えますが」
「小細工でしょう。僕や主力をここへ向かわせるためのスケープゴート。実際僕が向かったことであの怪物の侵入は容易にできたことでしょう。一度目の襲撃で危機感を煽り、物量で攻めてきたと思わせれば嫌でも主力級を宛がわざるを得ない。まんまと乗せられたっちゅうわけです。」
二度も後手に回るわけにはいかないということで、センサーのようなものを定期的に起動していて、それに大量の敵……今は肉塊となった怪物が引っ掛かり蘇芳さん自らすっ飛んできたってとのこと。
「んで、いざついてみりゃこの有様。大体10分くらいですかね、僕が拘束されたのは」
足で死体を指す蘇芳さん。
本当にこの量の命を、ただ単に使い捨てたっていうのか……?
あの軽薄な態度で、そんな惨いことを……。
「柊木クン。これらを命と思わんことです、君の精神がいかれてまう。最初から言うてるように、こいつらは怪物です。我々と同じ尺度では、測れんし、測ったらいかんのです。」
「……」
シビアな世界に身を置く蘇芳さんならいざ知らず、俺はそう簡単に、割り切れそうにない。
「閑話休題。奴の目的の話ですね、正直分かりかねてます。そこらへんは直にやりおうたヘルトスさんや、被害受けた柊木クンが感づいてくれてへんかなあとおもてますが、どうでしょうかね」
手のひらをパンと叩き、話題を無理やり戻した蘇芳さんが聞いてくる。その問いにヘルトスさんが静かにこう告げた。
「そうですね。一つ確かなことはあります。」
「ほぉ。そりゃなんでしょ」
「侵略、進撃が目的ではない。仮にそれが目的であれば、あの時に撤退した意味の説明がつかない」
ヘルトスさんの言葉に、一同がうなずく。
確かに、俺と東藤はあの時戦闘不能、ヘルトスさんにも恐らく勝てる相手がわざわざ援軍を前に撤退を選択する必要がない。
「単純にヘルトスさんの攻撃が効いてて、言葉通りにフラフラだったんじゃねえの?」
「そうであれば、なんと喜ばしいことか。私の能力で仕留めきれなかった時点で、アレの力は私を越していることでしょう。腕をもいだだけで致命傷になったとは思えませんね」と、ヘルトスさんは渋い顔で東藤の問いに答えた。
「ほんじゃあ、わざわざ雑魚共まいて陽動につこて、柊木クンや東藤クンに会いに来ただけやと?」
「はい。その可能性が一番高い。アレはタマキ君を殺そうと思えばできたはずですが、しなかった。であるのならば生け捕り、最低でも接触が目的だったと推察できるでしょう」
成程。俺らを目印としているならば、それを用いた転移の実験や、俺たちの容姿を確認する目的ってわけか。それで、あわよくば誘拐できればラッキーだし、できなくても問題なしと。
「蘇芳さんにも聞きてえんだけどさ、何であいつらも蘇芳さんたちも俺らをそんな重要視してんの?」「確かに、俺達戦力にもならない雑魚だ。あの男にとって何か重要なモノも持ってない」
俺と東藤がほぼ同時に疑問をこぼす。それに対し、蘇芳さんは「あぁそれはね」と答えた。
「数少ない転生者やからやと思いますよ」
「……?」
首をかしげて、蘇芳さんの顔を見る。
転生者が重要なんだとするのなら、俺達だけじゃなくて蘇芳さんもそれこそ俺たちが探してる天城さんだってそうだ。わざわざ敵の本拠地に乗り込んでまで俺たちを選ぶ理由には弱いと思うのだが。
いや、圧倒的に自分が優位だと思っている驕りからくる行動なのか?
「まだこの世界に来てから間もなく、力もつけてへん。未来の不安要素は早々に潰したいってとこちゃいますかね。転生に成功したってことがバレとるのは驚きましたが」
俺の胸中の疑問を察して蘇芳さんが答えた後、セレンさんが付け加えた。
「それこそが彼らの目的なんでしょうね、強大な害悪となりえる不安分子の排除と、敵勢力の視察」
「つまりは、俺達がどんなもんか観察するついでに殺せる奴殺しちゃおっかな~的なノリで来たってことかよ!?」
「付け加えると、それ邪魔されたら嫌やから先手打って水差されんようにしとこ~ってのもありますね」
聞けば聞くほど、理解から遠のく。
分からないことがどんどんと分かってきて、俺はただひたすらに困惑していた。




