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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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17/51

17:撃退とその後

 痛い。痛い。痛い。痛い。

 何やら男が俺の体の上で宣っているが、何1つ耳に入ってこない。痛みだけが、俺の中で渦巻いていた。


「ではつぎに……おっとォ?」

「それ以上、私の弟子に触れることは許しません。」


 俺の体にぼとぼとと何かの液体がかかる。

 なにが、なにがおこっているのだろうか、痛みをこらえて頭を動かすと俺の上の男が血塗れになっていた。


「……私の刃はあなたに届くようで、何よりです。」

「なんと、腕が。この子を拘束する我が左腕を引きちぎりましたねェ。すごぉい。感覚からして結界術ですが、そんな荒業見たことがない!どのようになさったのです?そしてそれができるのであれば、何故ェ……最初からしなかったのです?」

「自分の手の内を相手に晒す愚かさが、私に残っていると思いますか」

 

「なんとも。それではこれにて幕引きィ……ですかねェ。実に、つまらない幕引きとなりましたこと、お詫び申し上げます。また次の夜には、格別の演劇をご覧にして見せましょう。では皆様、名残惜しいですが僕かえりますね。血が足りなくなってきたのでふらふらです」


 ため息とともにそう呟いて、爆発音とともに男は消えた。

 解放された俺は、必死に呼吸をして痛みを逃そうともがく。


「アキラ君っ!大丈夫ですか、あまり動いてはいけません。脱臼している、おそらく骨も折れているはずでしょう、下手に動いては骨片がささるかもしれない」

「へ、ヘルトスさん……、でもマジにやばい……、痛いっす――」


 理屈はわかる、だけど痛すぎる。こんな痛み経験したことがない。涙も、鼻水もボロボロと出てきて止まらない。どうしようもない痛みが支配していた。



「東藤クン!柊木クン!無事ですかっ!?」

「シュウイチ君、急ぎセレン女史を。彼女の医療知識ならば応急処置ができるはずです」

「んなっ、何があった言うんですか。こりゃあ!」


 痛みに呻いていると、蘇芳さんが息を切らして部屋に入ってきた。

 漫画やアニメだとこんな場面だと痛みのあまり意識が飛んだりするのだが、なんだって俺の意識はこんなにもはっきりしているのだ。いっそのこと気絶できれば楽になれるのに――。


「蘇芳さ、ん。またバケモンがきたっす……」


 「そんようやな……おどれ……一度ならずに度までも!」と俺の言葉と現状をみて感情をあらわにする蘇芳さんと、「悔恨は後でゆっくりと、今は彼らのケアを優先すべきです」と極めて冷静なヘルトスさん。


 ふと気づく、謎の黒い物体に拘束されていた東藤はどうしたのだろう。痛みのあまり思考の外に放り出してしまっていた。


「東藤は、あいつはどうなって、無事ですか……!」


 少し痛みが引いてきたのか、麻痺してきたのかは分からないが、体が自由に動くようになってきた俺は蘇芳さんとヘルトスさんに縋りつく。


「おう、俺ぁ無事だぞ兄弟。お前の方がよっぽど重傷だ。早く治療してもらいな」

「東藤!良かった。すまん助けられなくて」


 相変わらず右肩から先の感覚はないが、そこ以外は自由に動かせるようになった。

 痛みはあるが、我慢できる範囲に収まっている。そこまで酷い怪我ではなかったのか?


「お待たせしましたっ、転移のスクロールを使うのに手間取りまして」

「いえ、素晴らしいタイミングです。早速ですが、二人を診てあげてください」


 セレンさんが急にその場に現れて、驚いた俺は少しよろめいた。

 いつでも動けるようにスクロールを携帯しているらしい、周到なことだ。


「俺はいいから、先に兄弟……アキラを頼む。骨やってると思う」

「っ。じゃあアキラさん。じっとしていてくださいね」


 状況をかいつまんで聞いた彼女は、俺の腕の様子を触診し始めた。

 確かに触られると声が漏れるほど痛いが、男にやられた時の激痛は完全に消えている。


 アイツ、このようにやるのですってどや顔で言っていたが、実はすばしっこいだけで大したことないのか?何やらヘルトスさんに致命傷与えられてたっぽいし。


「詳しくはわかりませんが、脱臼しているのは確実。その影響で肩回りの小さい骨や鎖骨が砕けていると思うのですけど……アキラさん、痛い?」

「まあ痛いっちゃ痛いけど、我慢できるっつーか。かなりましになったっつーか」

 

「やっぱり」とつぶやいたセレンさんは、何やら機械をバッグから取り出して俺の患部にあてがった。


「じっとしててね」

 

 言われたとおりにジッと固まっていると、俺の肩にある機会が青白く発光しだす。

 少し怖いが、彼女のことだから何も危険はないだろうと思い、俺はそのまま目を瞑った。


「はい、終わり。もう目、開けていいですよ」

「はいさ」

「セレン女史、いかがでしたか」

「驚きました、骨が修復しかけています。」


 セレンさんの言葉に、一同は首をもたげた。

 

 「しゅうふく、ってえと修復、つまり治りかけってこと?」と阿保のような疑問を投げかけたのは東藤。その東藤の問いに対し、「その通りです」とセレンさんは答えた。

 

「確かに一度、ぱっきりと捻転された跡があるのですが、治癒がすすんでいるんです。治癒能力が高い人はいるけど、いくらなんでも桁外れすぎる。」

 

 セレンさんのその言葉の後、皆が俺を見つめていた。なんだそれ、すごいな。

 おれ、今度から不死鳥を名乗ろうかな。


「恐らくは、彼の加護の影響でしょう。彼は擦り傷などの治りも早かった」

「あぁ、成程。そりゃ納得ですわ」


 合点がいった。もう日暮れだから加護の力でこんな回復力を見せているのか。しかし、治癒するのが早くなるとは言え痛いものは痛いのだから何とも言えないな。

 

「ど~せなら痛みを遮断したり、痛みも無効にするみたいな能力が良かったっすよ……」

 という俺のぼやきに、触診を続けていたセレンさんが俺の額を小突きながら突っ込みを入れる。


「痛みは生命がある証拠、それがなかったら自分の体が窮地に陥っていることにさえ気づけないんだから。」

「ぐふぅ、まさに正論……」


 

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