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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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16/51

16:異なる授業

「ふむ、そろそろ頃合いでしょうか。」


 自分が突き破った天井から空を見上げ、つぶやく男。

 青白い顔が、薄闇に嫌に目立つ。

 

「貴方方が何もしてこないのであれば、ワタクシ興が冷める。そんなもったいないことはしたくないので、ぜひとも――」


 目をほぼ真一文字になるまで細め、口角を不気味に吊り上げて笑うと男は、こちらにぐんぐんと近づいてくる。


「殺し合いましょう」

「お断りします」


 それにすかさずヘルトスさんが反応する。

 手のひらから光線を放出し、相対する男の足元を打ち抜いた。


「危ないですねえ。己自慢のおろしたての靴がおしゃかになるところでした」

「それは残念、次はしっかりと狙います」


 矢継ぎ早に先ほどの光線を繰り出す。

 キィンという高音が部屋中に何度も響いて、そこら中に穴をあけていく。


 しかし、男にはかすりもしない。体格に対して動きが機敏すぎる、何か仕掛けがあるのだろうか。


「――ほぉ?」

「うわっあ?!」

「アキラ君!」


 急に男の顔面が目の前に現れて、俺は驚きこけてしまった。

 予備動作も一切見せずに、まるで瞬間移動だ。


「あらあら、腰を抜かしてお可愛い。どうなされた、私に聞きたいことが山ほどあるのでは?」

「兄弟から離れやがれッ!」

「あいたっ」


 東藤が、傍にあった小石を投げつけて攻撃する。

 さっきまでヘルトスさんの光線を軽々とよけていたアイツは、呆気なくそれにあたって声を漏らした。

 あれだけ化け物じみた動きをしておきながら、視覚外からの攻撃には対応できないっていう生物らしさもあるのか……?


「ンン、いけない。俺と彼の蜜月を邪魔しようだなんて、これはいけませんねェ」

「東藤っ!」


 長身をぐにゃりとひねらせて、後ろの東藤に手のひらをかざした男。


「貴方にも興味はありますがァ……ワタクシ、そこまで早食いではありません故、少々お待ちくだされ」


 大きな体に見合った男の大きな手が、黄緑色に光る。

 ヘルトスさんのような光線を出す気か?!危ない、あれの速度は東藤や俺の反応速度を優に越している、躱せない!


「収束せよ。」

「――がぁあっ?!」


 放たれたは光線ではなく、どす黒い色をしたなにか。ぐちょぐちょと蠢いているなにかは、現れたとたんに東藤の体を拘束し、縛り上げた。


 光線でなかったことに安堵して数秒固まったが、すぐさま今度は俺が東藤を助ける番だと駆け出して、全力を込めて男の顔めがけて殴り掛かった。


 男は今度も視覚外からの俺の攻撃に一切の反応を見せない。いける、殴れる。

 俺の今の拳には、加護の力が乗っかっている。クリーンヒットすればただでは済まない。

 バクバクと早鐘を打つ心臓を何とか抑え、俺は突進する。

 いける、

 いける、

 殴れる、いける――っ!!

 


「愚鈍。」

「んがっ……!」

 

 ひらりと宙返りをし、俺の拳をよけた男。

 その勢いのまま俺を拘束した。

 

「殺意が、害意が、敵意が、全てが足りぬわ愚か者」


 俺の握りこぶしをがっしりと掴み、腕ごと後ろに回してそのまま地面に押し付ける。

 砂と小石がこすりつけられて、体中に痛みが走る。


「いいですか、少年。殴るのであれば、敵と認識し害を与えるのであれば、決して躊躇ってはいけない。貴方の拳には、いささか不純物が多すぎる。」


 優しく諭すかのように言いながら、ぎりぎりと俺の拳を握る力を強めていく。

 ミシミシと骨のきしむ音が耳に届くと同時に、痛みに俺は顔をゆがめた。


「んふ、好い表情です。いいですねェ」

「アキラ君から離れてください」

 

 恍惚とした声を漏らす男に、今度はヘルトスさんが攻撃を仕掛けたようだ。

 


「邪魔をしないでいただきたい、折角の授業ですよ?有意義なものにしなくては」

「おやおやそれは失礼。ですが、その子たちは私の生徒だ。貴方のような怪物の徒ではないので、即刻その汚らわしい手を放してください」


 声だけで伝わる相当の怒気。蘇芳さんだけじゃない、あのギルドにいた全員が恨み骨髄に徹して復讐と打倒を誓っているのだ。その怒りは俺や東藤に推し量れるものではないだろう。


「んふふふ。いやはや嫌われたものだ」

「当り前でしょう。もとより分かり合えぬ存在です」

「そうでもありませぬぞ?ほれ、その証拠にこうして言葉を交わしている。なればいずれは分かり合える未来もありましょうや――?」

「それは素晴らしい、是非そんな未来を見たいものです」


 ヘルトスさんと会話をしている間も、俺と東藤の拘束を一切緩めない男。

 やつの言動の端々に俺たちと会話をする気が、一切ないのが感じ取れる。


「ふぅむ。ここまで邪険にされてはワタクシ傷ついてしまいます。」

「ほう、傷つく心があったのですね、それは興味深い。」

 

 俺とコイツが密着しているせいで、ヘルトスさんもなかなか手が出せない様子だ。

 こんなとき、漫画よろしく俺にかまわずやってくれ……なんていえたらいいけど、俺にそんな度胸はないし、巻き添えなんてまっぴらごめんだ。何とかして解決策を考えないと……!

 

 

「ふはぁ。素晴らしい表情ですなァ。では皆様に見本を見せ今日の授業は終わりとしましょう。殺意とは、害意とは、こう表すのですよ。」


 瞬間激痛が俺の肩に走った。数秒の間のあとに腕を引っ張られたのだと理解して、俺は悲鳴を上げる。


「アキラ君っ!」

「――ぁぁあぁっ!!!」


 右肩から先の感覚がなくなり、腕が取れたかのように錯覚する。

 何とか痛みを逃そうともがくが、俺を拘束している男がそれを許さない。

 

「えぇ、そうでしょう、痛いでしょうとも!それが害。それこそが相手を、敵を傷つける害!ご理解していただきましたでしょうかっ?」


 

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