15:圧倒的
「先ずは散るぞ」
「おう」
20秒たつ前に、できるだけヘルトスさんから離れ、少しでも時間を稼ぐために分かれて行動する。
幾らか勝ちのパターンを想定しているが、一番勝率が高いやり方だ。
むき出しの地面で足場もそこまでよくないうえに、木に隠れることもできる。
しかも東藤も超短距離転移のスクロールを1枚ほど所持していたはずだし、俺は加護でのバフがのっかった機動力でほんろうできる。
さらに、ヘルトスさんに対しての妨害行為を禁止されていないのでこっちはやりたい放題ってもんだ。
「17、18、19、20」
開始。そして、敗北。
俺はその場に立ち尽くした。
「案外、呆気なかったですね」
*
刹那の出来事。20というヘルトスさんの声が聞こえたかと思った瞬間、俺と東藤は薄暗い箱の中にいた。
本気で走って離れたのに、一遍につかまらないようにわざわざ別々で行動をしたのに。
俺たちの作戦は、ヘルトスさんの圧倒的な力量によって赤子の手をひねるが如く真っ向から叩き潰された。
「ずりぃ!勝てっこねえじゃねえっすか!」
東藤が文句を垂れる。
それににっこりと笑って答えたヘルトスさん。
「えぇ。そうでしょうとも、逆になぜ勝てると思ったのですか?」
「もう少しこう……手心とかさぁ……」
「ふぅむ。ではあなたを殺そうと襲い掛かる怪物や亜人はその手心とやらをくわえてくれるんでしょうかね」
ぐうの音も出ない正論に、俺たちは押し黙る。
そうだ、未だゲーム感覚というか実感がわいていないが、この世界は元の世界と違うかなりシビアな状態、生死の境が常に隣り合っているのだ。危機感を、忘れてはいけない。
「貴方方のその感覚はとても素晴らしいものだ、捨てることはないでしょう。ですが、それと同時にこの世界における常識も持ちなさい、厳しいことを言っていることは自覚しています。が、先ほど言ったように敵はあなた方の常識など通用しない。無常に、無作為に命を屠る。」
重くのしかかるヘルトスさんの言葉。俺の脳裏には、数日前のあの瓦礫の山が浮かんだ。
あの一撃をためらいなく打てる奴がいるとしたら、それは紛れもない怪物。そんな奴が俺たちの状況などを察して見逃すはずもない。俺たちは、力をつけないと生き残れないし、元の世界に帰ることもできないということを改めて理解した。
「故にこそ敢えて圧倒的に勝ちました。悪いとは、思っていますよ。」
「いや、いやいやいや。十分に理解したさ。」
「素晴しい。では今日は少し早いですが、終わりにしましょう。」
そう言って、ヘルトスさんは俺たちを囲っていた半透明の結界を解く。
とたん。
「……!」
鳴り響く轟音。
音が鳴ってから一瞬の間を開けて、衝撃。
「な、なんだ!?」「地震?!」
「方位陣固定!」
ただひたすらに困惑する俺たちをヘルトスさんがまた結界で囲う。
「タマキ君、君の持つスクロールを補助に使い、転移を発動させなさい。君の能力ならば少し離れた部屋にならいけるはずだ」
「え、あっお、おう!」
東藤は慌てながらも懐から小さなスクロールを取り出し、力を籠めて握る。
「アキラ君はできる限りタマキ君のサポートを行いなさい、私の結界の中でもう一重、彼に結界を張るのです。」
「あ、えあ、分かった!」
ヘルトスさんの指示に何とかすぐに反応する。
一体何が起こっているんだ、また怪物が襲撃してきたのかと俺たちが困惑してると、にゅぅっとヘルトスさんの結界の一部がゆがんでいく。
「な、なんと……!そのような術は初めて見ましたね……!」
ぎりぎりと音を立てて揺れる結界。これはヤバい、ここで邪魔されたら東藤の技量では転移を発動できない。そう俺は思い、俺と東藤をさらに結界で覆った。
二重で結界を張ったのは今回が初めてだが、上手くいって何よりだ。
「素晴しい、アキラ君。そのまま維持できますか」
「む、無理っす!もう、持ちそうに……ない……!」
「んン……!ここで、衝撃の登場――ッ!」
聞きなれない声が響いた瞬間、目がくらむほどの光が部屋中に広がった。
「はぁい皆様。ご機嫌麗しゅう。今宵は良い夜になりそうで、ワタクシ居ても立っても居られずに、こうして娑婆に出てきてしまいまして!」
閃光の中から現れたのは、かなり大柄の男。
真っ黒いコートのような服に身を包み、けたけたと笑いながら体を揺らしている。
雰囲気からして、明らかに異質。敵……ギルドを破壊した奴の可能性か……?!
「私の結界をこうも容易く……!」
「はて、結界。そのようなものありましたか、申し訳ない。僕ァ少々ドジっ子でして、意図せずとしてモノをよく壊してしまうのです。悪意しかないので、どうか穏便に」
ゴクリ、とその場の全員が息をのんだ。
俺たちに圧倒的な力を見せたヘルトスさんの結界すらも、意図せずとして壊せる輩。
つまりは、
「さらに圧倒的……!」
「ヒヒ。そんなぁ、本当のことを言われましても、何も出ませんよう?ほらこんなにきれいなバラぐらいしか!」
変わらず高笑いしながら、手品のように何もないところから真っ赤な薔薇の花を出した男。
一体何がしたいのだ、こいつは。
「べぇつに何がしたいもござぁせん、単なるワタクシの気紛れですよ。」
気紛れで此方を潰せると、言外に伝えてくる男。
黒の外套に青白い顔だけが嫌に目立ち、不気味さを加速させている。




