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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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14/51

14:実技の時間

「これで、今日の教室を終わります。各自しっかりと体を休ませてください。」


 ヘルトスさんの合図で、俺たちは動きを止める。

 今日で四日目となるヘルトスさんの自衛術教室だが、かなりのスパルタ具合であり運動不足の一般成人男性からするととんでもなくハードで、毎日へとへとになるまで体力を削られる。


 先ずは基礎体力と運動能力の向上から始まり、そのあと魔術知識の座学を小一時間休憩がてらにはさみ、そのあとは結界術や魔術の基礎練習。どちらかというと、前半部分の重きを置いている感じだな。ヘルトスさんの言う通り、魔術を扱うのはかなり難しく一朝一夕で話せるものではないと嫌でも理解できた。


 しかし結界術はそうでもなく、かなり上達した。

 俺は結界術に向いているらしく、東藤に比べかかなり上達の速度が速い。

 結界というものはかなり拡張性があり、拘束から防御の一般的な使い方以外にもいろいろあるのだとか。

 まぁ、俺は基礎を覚えるので手一杯なんだが。


「あぁ~~~……べらぼうに疲れたァ!お疲れー兄弟~」


 力なくその場に倒れる東藤。

 こいつもコイツで俺以上に能力が高い分、結界術以外にもあれやこれやと詰め込まれているので、精神的にも参ってきている様子だ。


「ほい、栄養飲料。味はリンゴだったな」

「たすかりんご~」


 俺たちはセレンさんが用意してくれていた飲料をがばがばと飲み干す。いつの間にかこの部屋まで持ってきてくれていたのだ。容姿端麗で気が利くって、すごいなあの人。


 

 ひょうたんのような入れ物にはいったそれはさわやかな味で、元の世界のスポーツドリンクのような効力を有しているらしい。なんでも、魔力を込めて水を加工することでそれを実現しているのだそうだが、何でもありかこの世界は。

 それができるのであれば、元の世界の知識があればおおよそのものは際限ができてしまうのではないのだろうか。さすがに娯楽は難しいが、食に関してはかなり融通が利くのかもしれない。


「さ、俺らも戻ろうぜ。今日も今日とてくたびれた」


 そういって東藤はその場に座り、手を合わせ術を発動するための準備をする。

 俺もそれに習い、同じことをした。

 ヘルトスさんからの課題の1つで、この実技室と自分の部屋を転移で移動しろと言うものだ。


 最初は全くできなかったが、ようやく何とか術式の展開まではできるようになった。今日も俺たちの体の下には青白い魔法陣が現れる。が、そこまで。転移を実行することはいまだ叶っていない。

 曰く、できないのは当たり前の話で、術式を展開するという感覚をつかむための訓練らしい。


「……!」

「テレポー……テーションッ!!」


 少しの間を開けて、青白い陣がパリンという音を立てて崩れていく。

 俺は少しでも成功の感覚をつかむため、技名っぽく叫んでみるが全く意味はなかった。

 静かにやった東藤も成果はなかったようで、両手をあげて「やれやれ」とため息をついていた。


「ま、急がば回れだ。しっかり休んでまた明日、しっかり経験を積んでいこうぜ」

「だなぁ」


 *

 

 ここ数日で、俺達に与えられた加護の解析も少し進んできた。

 東藤の能力はわかりやすいもので、かつ天城さんっていう前例が直近であったためそれにあった育成がしやすいとヘルトスさんが言っていた。


 対して俺はなぁ~んも前例がないものらしく、かなり難航している。


「言うなれば……宵の加護……とでも呼称すべきなのでしょうかね。このような加護は初めて見ますよ」


 ある程度分かった情報をまとめると、能力自体は東藤と同じく簡潔なものだった。

 先ずはフィジカルの強化。身体能力を高めるというものだが、元が低いのでそこまで恩恵を受けられているという感覚は、今のところない。ここはあえて将来有望と言っておこうか。

 次に、回復能力の向上。2、3度訓練中にけがをしたのだがあっという間に血が止まったのだ。なんとも、なんともまあ、異世界感のまるでない能力だこと。


 そして何より、そこまでの恩恵がないのにもかかわらず、俺のこの加護には制約がある。

 時間による制限。日が落ち始めるころに能力が発動していき、夜に最高点を出す。

 ……悪役みたいな能力だと思うが、何よりかはましだと納得することにした。

 


「発動に時間制限があるとは……しかし、それはあくまで憶測。また何か別のトリガー――条件が……」


 訓練中の俺を眺め、ぶつぶつと解析を続けているヘルトスさん。

 少し集中が乱されるのでやめてほしいのだが、自分のためにやってくれているので言いにくい。

 いやはや、まいったもんだ。



「では、そろそろ本腰を入れて力量測るとしましょうか」


 そういってヘルトスさんは俺たちを自分のもとに集め、これからやることの説明をしだした。


「私が力を込めて君達を拘束します。全力で逃げてください」

「逃げる?」


「ええ、流石に君達に私を倒せというのは酷でしょう。」


 えらく自信満々の様子。

 もうすぐたそがれ時になるって時間だってのに、余裕しゃくしゃくじゃあないか。確かに俺たちは教えを乞う身だが、そこはそれ。鼻を明かしてやろうじゃあ~ないの。



「やる気があるようで大変よろしい。では始めましょう。20秒待ちますので、存分に離れてください。範囲はこの部屋全域、時間は2分間です」


 これはまた大きく出たものだ。この建物は大きさから言って一般的な体育館の何倍もあろうかという大きさであり、かなり逃げる側が有利に思える。


「1、2、3、4……」



 開始という言葉はなく、静かにカウントをし始めたヘルトスさん。

 少々舐められているように思うが、まあいい。余裕で逃げ切ってやるとしよう。俺の加護も東藤の能力もまだ未知数だってことを思い知らしてやる。


「行くぜ兄弟」

「おう、まずは散るぞ」


 20秒後、俺たちは成すすべもなく捕まった。

 

 

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