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点滴穿石ー異世界における生存競争ー  作者: 鯱眼シーデン
巻き込まれ異世界

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13/51

13:楽しい楽しい魔術教室

 蘇芳さんと今後の事を話し合った翌日。

 俺達はとある一室に呼び出されていた。


 むき出しの地面に、ところどころ木々が生えているので、部屋というよりは空き地に壁と屋根を付けたような建物と呼ぶべきなのだろうか。


 そんな建物中で、俺達は体育座りをしてヘルトスさんを見上げる。

 

「お久しぶりですね。今日から数日間、貴方たちの師として魔術や生き残るための技術をみっちり叩き込むように言われています」


 にっこりと微笑むヘルトスさんに若干の恐怖を覚えたが、それ以上に魔術というファンタジー要素しかないようなことを学べるということに俺の少年心は興奮を抑えきれない。


 隣の東藤も同じようで、そわそわとせわしない様子だ。


「改めて自己紹介を。私はヘルトス。しがない退役した老骨ですが、知識だけは人一倍あるので君たちの指導役に抜擢されました。手本を見せることはできませんので、悪しからず。」


 成程、以前自分を暇人と言ったのは、前線に立つことができないからだったらしい。


「では本題に移りますが、ここでの目的は理解していますね?」

「おぉ。勿論!俺たちが帰るための座学と実践の経験を積む、そんで……だれだっけ?」

「天城さんな、蘇芳さんと犬猿の仲っていう転生者」


 蘇芳さんから聞いたキーパーソン、天城結衣さん。

 どういう経緯で離別することになったのかは聞かされていないが、元々蘇芳さんとともにギルドを作り上げた立役者という人。


 その人をどうにかこうにか見つけ出したうえで、俺らが連れ戻しに行く。

 そしてそれを実現にするための強化期間。それが今のこの教室だ。


「素晴らしい」


 ゆっくりとしたスピードで拍手をするヘルトスさん。


「先ずは、君たちに魔術の何たるかをお伝えしましょうか――――」


 *


 語られた事実は、俺に冷酷な現実を突きつけた。


「故に、君達には魔術を扱うのは少々難しいと思われます。」


 曰く、魔術を扱うために必要なエネルギー……蘇芳さんたちはマナとそれを呼称しているらしい、を感知すること自体が転生者には非常に困難であるとのこと。この世界の人間であるからこそ、それを本能的に知覚し、操れる。この世界にとって異物である転生者は、当然この世界における恩恵を受けることはできないのだとか。

 蘇芳さんや噂の天城さんは加護と本人の努力によって術を行使していて、俺にはそのような力を持つ加護があるかどうかはまだ未知数。

 そう、未知数。可能性がある。あるんだ。

 きっと、こう……なにか過去に類のない加護で思いもよらぬ俺の隠されしパゥワーが云々かんぬん……。

 

「敢えて言いますが、これから私は君たち……特にアキラ君には魔術とは違うやり方で生存力を高めてもらいます。その方が効率良いのでね」

 

 加護の種類が明らかになっている東藤は、それにあった魔術の修練を重ねていけば蘇芳さんみたいに使うこともできるだろうが、俺にはそれがない……というかあるのか分からない。

 この切迫した状況で、俺の加護がどのようなものなのかをはっきりさせてからそれにあった能力を覚えていくなんて言う余裕はない。

 是非もないことなんだ、なのだが……!

 

 ……悪い、やっぱ辛いわ。


「さて、そのやり方というのが、私が得意とする結界術。そして、スクロールです。」


 そういってヘルトスさんは2つの小さな紙を宙に投げた。


「結界術は以前、加護を見るときに使いましたのでどんなものなのかという説明は省きます」


 てきぱきと授業を進めていくヘルトスさん。

 

「スクロールとはこの紙の事でして、この紙に書かれた術式は、衝撃を加えることで発動する仕組みになっています」


 そういって宙に舞う小さな紙二枚を指ではじいて見せた。とたん、紙が赤紫色に光りだす。


「うおぉ!光った!」

「成程……!これならだれでも魔術的なことができるようになる……!」


 即席の魔法陣。ある程度の知識とその予備動作を行うことで決められた魔術を行使できるようになる代物。すごい発明をするものだ、人的資源が限られている中で、最大限戦力を確保するためのものなのだろう。

 

 しかし、何かデメリットがあるはずだ。

 でなければ人類がここまで追いつめられるはずがない、何か……例えば殺傷能力の高いものは紙に書き込めないとか、そういった制約があってうまく使うことができかねているとかな。

 

「ほう、アキラ君はこのスクロールが気に入りましたか?」

「あ、いやそーじゃなくてそんな便利アイテム貴重なんじゃねえかなって」

「ふむ。成程どうして、鋭いですね。素晴らしい、君の言う通りこれは場合によってはかなりの貴重品です。転移の魔術を書き込めば緊急の際に何よりも心強い命綱になることでしょう」


 だとしたら、なぜ今この場所で二枚も使ったのか矛盾が生まれる。


「そうは問屋が卸さないってことっすね?」

「おっしゃる通り。超短距離での転移や、今のような光らせるだけであればある程度量産できますが、高度な能力ともなるとそうはいかない。かなりの時間と、様々な材料を必要とします。それに加えて術の発動にも技量がいる。故に、君達にあてがうのは簡易のスクロールだけですので、悪しからず」

 

 納得。

 場合によってという言葉はそういう意味だったか。

 量産できるものならば使い放題とまではいかずとも、変に気を使う必要もなさそうだ。


「ともかく、この2つがあれば取りあえずの自衛は問題なくできるでしょう。ですので、初級としてはこれのマスターを目標とします。お察しの通り時間がありません、みっちし扱きますのでお覚悟を」



 こうして、俺と東藤の楽しい楽しい魔術教室ならぬ、生存と帰り道をかけた訓練が幕を開けた。


 

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