12:これからのこと
数日後、俺たちが蘇芳さんに会ったとき。彼は開口一番謝罪を述べた。
曰く、俺らに使う予定だった転移の魔法陣などをほとんどを使ってしまった上に、その魔法陣を作るための材料は件の事件で燃えて消えたとのこと。
「というのが、今の現状です。正直言うて完敗。僕らの対策なんぞ時間稼ぎにしかなりませんでした」
拳を握る蘇芳さん。
元の世界に帰れなくなったことに対して、思う所はあるが、少なくとも今それに割けるほどの余裕がないのは、部外者である俺にもひしひしと感じ取れた。
「しかし、よぉ状況分かってますねお二人とも」
「セレンさんからいろいろと聞いたもんで」
「へえ、彼女か。本来なら、いの一番に頭を地面つけやんといかん所を……。辛く面倒いことさせたなぁ……またうまい飯でも食わしてやらんと足向けられへんわ」
「ぜひそうしてやってくださいよ。俺はセレンちゃんに呼ばれてなかったら瓦礫の下だったからな」
セレンさんは蘇芳さんの右腕として煩雑な事務処理から情報伝達まで、様々な雑務を担ってくれているらしい。俺たちの世話もそれの一部だったのだろう。
「彼女の働きにはいつか絶対報いるとして。今後のことを、話しましょか」
「これから?」
「はい。はっきり言うて、これから先、君らのことを優先することはできません。虫のええこと言うてるんは自覚してます。しかしてやり様がないのも事実、せかやら恨むんは僕だけにしてください」
深々と頭を再度下げてくる蘇芳さん。
「僕が君らをよんで、僕の失態で引き留めてるんです。ここにいる職員はなんも悪ぅありません。」
「もとより、そんなつもりないっス。兄弟も仕方のねえ事だってここ数日の様子見てわかってるんで。そんな事より、これからの事。なにか、希望があるんでしょ?」
あくまで理知的に務める東藤の様子に驚く。
ここに来てから一貫して元の世界に帰ることを望んでいた東藤にこれを言わせてしまった、俺が言うつもりだったんだが。
「えぇ、希望的観測にはなりますが、転移陣にも種類がありましてね」
「種類、それってえと……つまりはタイムワープか!」
「おォっと。正解を言われてしまいましたわ」
この世界が異世界だといの一番に考え付いた東藤が、蘇芳さんの考えを暴く。
「順を追って説明します。ゆっくり聞いたって下さい」
語られた蘇芳さんの計画。
それは東藤の予想通りで、曰く空間を飛ばせる転移ができるのであれば時間も同じように飛ばすことができるのではないかというものだった。
「ただ、さっき言うたようにあくまで希望的観測。できるかどうかは保証はないし、よしんばできるとしても僕だけじゃあとても無理。彼女の力添えあって初めてスタートラインです。」
度々蘇芳さんが口にする彼女というのは、俺たちと同じように加護を持った人物なのだろう。察するに転移等の術に関しての加護を持っているに違いない。蘇芳さんよりも前に転移してきたのか、あるいはこの世界の人で、たまたま加護を持って生まれたのか……、どっちなのだろうか。
「それに、彼女は僕ン事を蛇蝎のごとく嫌ってましてねえ……。意図的にこっちへ情報が入ってこないようにしてるんですわ」
「だから俺たち自身で、その人を探しに行けっていう話ですね?」
「そゆことです」
自分たちが帰る道は自分たちで用意しろということらしい。
正直、なんでこんな目に合わないといけないのか。という感情はあるのだが、そんなことを言っても何か状況が好転するわけじゃなし、早く帰るためにも動くことは必須条件だろう。
是非もない。
「さっき言うたとおり、僕は彼女に関して名前と能力、見た目以外の情報を一切持ってません。ですんで、まずは居場所をつかむ必要があり、できる範囲で捜索を行ってます。」
先ほど蘇芳さんが言ったように、そこまで割けるリソースはないとのことだが、隙間時間やギルド外の人脈などを使って捜索はしてくれているらしい。
そしてその情報が入り次第、俺たちが行動に移すという手順。
「ただ、今のまんまで君らを放り出す訳には行けません。せめて自衛が十分できるようになるまでは僕らで能力の向上をさせてください」
「成程。体よく俺たちを戦力に加えれたってわけっすね」
東藤がぼそりとつぶやいた。
蘇芳さんとのやり取りで、俺は彼を責める気はなかったのだが、彼はどうしても蘇芳さんの計画通りに進んでいる感じがぬぐえなかったのだろう。
「ぐぅ、耳が痛い……。そう捉えられてもなんも言えませんわ。ですので、これはあくまでもお願いです。僕かて加護を持ってるんで、時間さえかければ彼女無しでもなんとかなるかもしれん。だから君たちはなんもせんと待っとくだけでも構いません」
「別にそんな気で言ったんじゃねえよな、東藤」
「――ああ」
「俺達は動きますよ、だって俺たちが帰るためなんだし。ジッとしてんのは俺のキャラじゃないんで」
東藤の言葉でこれ以上変な雰囲気が広がらないように、軌道修正を図る。
結局東藤自身も動く以外の選択肢はないということは理解してくれるだろう。




