11:惨状確認
息を切らして腰をついた蘇芳さん。
俺も吐き気に耐え切れず、そばの椅子に腰かけた。
「お疲れ様です。慰めはいりませんね」
「……気ぃつかわせましたね。勿論理解してます、そのために此処へ転移したンですから」
奥からセレンさんが大量の書類を持ってきて話しかける。
その書類をがしりとつかんで立ち上がった蘇芳さんは、奥の部屋に向かった。
「柊木クン、あいにく僕ァ時間がない。状況については彼女から聞いたってください。まァ大方想像してる通りですがね」
最後に一言残し、足早に部屋を後にした蘇芳さん。
俺はその剣幕に気圧され、何も聞けなかった。
「ヒイラギさん……あっちの部屋で、トウドウさんが待ってるわ」
セレンさんに案内され、スオウさんとは反対の部屋へ入る。
「!アキラ!無事だったか、よかった!」
東藤は服がボロボロになりながらも目立った外傷もなく、俺を見つけるや否や立ち上がって手を握ってきた。
「お前も、無事で何よりだよ相棒」
その後、俺たちは自分の用いる情報を交換し合う。
唐突に引き起こされた惨劇。
火炎とがれきに埋もれ、命辛々外へ脱出できた藤堂がみたという破壊された壁。
何が起きたかは、容易く想像出来た。
「薄氷が、割れちまったってことだよな」
「……もとより、覚悟はしていたわ。だからこんな状況でもここまで早く対応ができてる」
整った顔立ちをゆがませて、拳を握るセレンさん。彼女も蘇芳さんと同じ立場なんだろう。
聞くところによると、ここは数ある基地の中のひとつで、蘇芳さんやほかの人の転移魔法で大まかな機能丸ごとこちらに転移してきたらしい。
建物の施設丸ごと転移させるとは、中々とんでもないことのように思えるが、実はそうでもないのだろうか。
「いま、貴方たちに割く余力はないの。こんなことになってしまってほんとに……」
頭を深々と下げてくるセレンさんに俺は慌てて止めるように言った。
「まってまって、なんも謝ることないって。セレンさんもみんな被害者じゃん?謝るってんならこんな事をしでかした怪物どもだろう」
「ま、確かにこのまま帰れるわけねえよな」
ここでの生活が長引くことになってしまったが、こうなってしまっては是非に問うまでもない。
この世界のものではない身ではあるが、助力は惜しまずしていこう。
*
僕自慢のギルドが完膚なきまでに破壊されてから四日。
その間僕は睡眠もとらず、後処理に追われていた。
それはもうひどい有様。亜人共に人の心はないってのはよォわかってたけども、いくら何でもやりすぎや。被害として何より酷いんは物見やぐらであったギルド建物そのものと、境界線として機能させとった壁。それらはもはや見る影もない、それゆえに僕らは生存域をさらに狭めんといかんくなった。これはまたお偉いさん方がぎゃーすか喚いてくるに違いない。面倒なことになったもんや。
それに加えて人的被害も甚大。把握できてるだけでも、大方三分の一ほどは持ってかれたんとちゃうかな。ただでさえ人手不足やー言うてんのに、これ以上はほんまに分身でもしやなおっつかへん。
「シュウイチ君。少しは休んではいかがですか」
「おぉやぁ、ヘルトスさん、少し見ん内に痩せました?」
いかんなぁ、事務処理に気ぃつかいすぎて真後ろのヘルトスさんの事全く気付かんかった。
そんな僕の様子を見てか、ヘルトスさんは眉尻を下げている。
「それはこちらの台詞です。君の立場も理解はしていますが、無理はいけない」
耳が痛いなぁ。無理して前線を退いた人からの言葉は含蓄が違うわ。
「へえ、気ぃ付けますわ。でもねえ、今ばかりは無理してでも早う立て直さんと。これが致命傷になることをあいつ等に気づかせたらアカンので」
「……」
押し黙るヘルトスさんを後目に、僕は机に向き直る。
後複数の部屋の魔術陣同士でつなげば、大方元通りに復元が完了するんや。ここで滞ったら今までのが全部おじゃんになってしまうかもしらん。そんな事は僕にはできん。ただでさえ、あの二人を巻き込んでまうっちゅう大ポカかましてもうてんねんから。
正直、こんなタイミングであいつら亜人共が攻めてくるとは思わんかった。
いつかは来るとは思てたけど、僕が彼らにこの世界のことを説明した矢先になんともまあ運命様はええ性格してはるわ。
ともかく、彼らを迎え入れた瞬間の出来事。やはり、彼ら……僕は東藤クンやと思てるけど柊木クンの可能性も十分あるか。……ともかく、そのどちらかにやつらにとっての地雷があるに違いない。
せやから今、彼らが力をつける前に手ェ出してきたんやろう。召喚して早々に迎えに行って正解やった。
「ヘルトスさん、彼らン事守ったって下さいね。僕じゃあ力不足だもんで」
「任されました。では私からのお願いも聞いてもらいましょう。作業の峠は越しているはずですね?あとはこの老骨に任せてください」
怖いなあこの人。何でもかんでも見通されてるんちゃうか、何で今の進捗具合まで把握してんのやろか。
「私は君の処理能力の高さを評価しているだけですよ。シュウイチ君」
「ンなこと言って、ナチュラルに僕ン心読まんといてくださいよ」




