サフラト村 3
サクヤとリーナとランドは店の外に出た。陽は真上へと昇っており、春の温かさがより一層際立つ時間となっていた。
「オレは祭りの準備に戻るが、お前はどうするんだ?」
「リーナと一緒に村を回って、そのあと東の森に行って巨人像を見てみようかと」
「なるほどな。しっかりエスコートしてやれよ」
「はい?」
ランドは何かを納得した様子でサクヤを見ていた。その顔はどこかニヤけており、サクヤには何か勘違いしているように見えた。すると、ランドはサクヤに顔を近づけ、リーナに聞こえない様に話始める。
「もし”コレ”が足りなかったら俺の所に来い」
ランドは親指と人差し指で丸を作り、サクヤにジェスチャーをした。
「何言ってるんですか!?」
「せっかくなのに足りなかったら恥ずかしいだろ!」
「俺とリーナはそういうのじゃないですって!」
「なーに、お前も男だ。オンナの一人や二人作ってみせろ!」
「二人も居たら問題でしょ!」
ランドはガハハと笑い、サクヤは何とか誤解を解こうと必死になっていた。
「さっきから何を話している?」
「いや、すまない嬢ちゃん。男の駄弁って奴だ」
ランドは笑顔で答えた。その顔を見たサクヤは疲れた表情をしており、あきれている様にも見えた。
「リーナベル!?」
その時どこからかリーナを呼ぶ声がした。
サクヤは疑問に思った。この村をリーナを知っているのは自分とランドだけのはずなのに何故他にリーナを知っている人物が居るのかと。しかし、リーナは違った。その声は聞こえるなり咄嗟に警戒の大勢に入っていた。
サクヤ達が声のした方向を見ると風変りな恰好をした金髪の少女が急ぎ足で迫ってきた。その後ろの方には赤髪の少女が金髪の少女を追いかける様に急いでおり、さらにその後ろには長身の眼鏡の男と少し背の低い体格のいい男が歩いていた。
「リーナベル、何故お前がここに居る!?」
「貴様こそ、何でこんな所で」
リーナと金髪の少女はお互いを警戒していた。それはいつでもどちらかが攻撃を仕掛けそうな緊張感であり、サクヤにもそれがヒシヒシと伝わってきていた。その空気に圧倒され、サクヤは口が開けなかった。
「ちょっとシャル、こんな所で戦おうとしないで!」
金髪の少女を追いかけていた、年齢が同じほどの赤髪の少女が追いついてきた。
「すまないミリアム。しかしリーナベルだぞ。」
「そうだとしても他の人を巻き込むような事はしないの!」
「そうですよ」
長身の男性と背の低い男が歩きながら追いつく。そして長身の男がシャルと呼ばれる金髪の少女をなだめ始めた。
「ほら、シャルロット。そう固くならないで」
「さっきまで眠たそうにしてたのにすぐこれだもんな」
背の低い男も金髪の少女を宥めるのを手伝った。
「シャルロット・・・、まさかアンタらが勇者さんか?」
「す、すみません、いきなりこんな。ほら、シャル!」
赤髪の女が謝りながらも宥めるも、そのヒリついた空気はまだ続いていた。しかしその空気も長くは続かず、遂にランドが口を開いた。
「なあ、勇者さん。飯はまだか?」
「飯?確かに今日はまだ何も食べてませんね・・・」
思わぬ質問に金髪の少女は緊張を解いた。
「サクヤ、お前もこれから昼飯だろ?」
「えっ?そ、そうですけど・・・」
「ならサクヤ、嬢ちゃんのついでに勇者さん達も案内して一緒に食ってこい!」
サクヤも思わぬ提案にビックリしていた。すると、金髪の少女は完全に警戒を解き、それを見たリーナも警戒を解いたのだった。
「サクヤと言ったか?なら、お願いしてもよろしいかな?」
「あぁ、いいですよ!ほら、リーナも行くぞ」
「待て、何で私がコイツらと?」
「いいから行くぞ、ほら!」
ランドの助けもあり、サクヤは、リーナと勇者一行と共に村を回り始める。その後ろでランドは笑顔で手を振りながら応援をしていた。