《混沌》降臨~ケイオスアーク 1
シャル達がチャーモンドの案を飲むのか議論をしていた頃の事である。サクヤ達はいつもの様にエスペランザで道を進んでいた。進行方向に街があるものの、今回は特に寄り道などをせずに進もうとしていた。そんな時、エスペランザに何かの反応が入る。それは、次元龍などではなく、恐らくフレームゴーレムが2体と言った所であった。もしディナルドのフレームゴーレムであった場合、下手に戦闘などとなる可能性があり、それは避けたい話であった。そのため、一度その場で立ち止まり身を潜め、やり過ごそうとするのであった。しばらく待機していると、その2体のフレームゴーレムが視界に入ってくる。片方は何と形容しがたい、ごく普通な見た目の物だったが、もう一方は異質であった。まるで、動物が合体し、人の形を作っていると言うのが正しいだろう。
「リーナ、アレは?」
「ディナルドでは見た事無いわ。でも、だとしたら誰が」
すると、2体のフレームゴーレムが立ち止まり、片方がエスペランザの方向へと向き始めた。
「そこに居るのは分かっている。顔を見せてくれないか!」
男の声がする。その声はエスペランザが隠れている事に気付いている様である。
「止まれ、ウェルター」
「どうした?」
「何か居る」
それは、ムラサメとウェルターであった。彼らは少し前にシャル達と共に、岩魔竜の巣で次元龍と戦った二人である。
「また次元龍とかいうのなら御免だぜ」
「いや違う。反応は1体。ロボットか・・・?」
ムラサメは自身の操るフレームゴーレムの顔を反応のする方へと向ける。
「そこに居るのは分かっている。顔を見せてくれないか!」
「どうするの?」
「もし敵意があるなら、もう攻撃されてるはず。なら・・・」
「でももしもがあるわ。その時はみんな、頼むわよ」
リーナがメラ、メル、リュードに声をかけると、3人はその意図を理解し頷く。そして、サクヤはエスペランザを立ち上がらせるのだ。
「オイ、アイツもしかしてこの前の!」
「いやよく見ろ。確かに似てるが頭も色も違う。何よりあの羽が無い」
大人しく姿を現した相手は恐らく敵意は無い。あるなら既に攻撃を仕掛けてきているだろう。
「俺はムラサメ。このリプレイスボディのパイロットだ。そして俺の隣に居るのは超神王。パイロットはウェルター」
「俺はサクヤ。このフレームゴーレムはエスペランザ。俺以外にもあと4人乗っている」
「すまないが色々と聞きたい事がある。一緒にこの先にある街に向かわないか?」
「分かった。そうしよう」
サクヤは彼らの要求を飲み、共に近くの街へと進むのであった。
サクヤとムラサメは歩きながら様々な話をした。その中で、ムラサメはサクヤと同じ異世界から来た人間だと分かったのだ。
「しかし、ウチの船にアニメが好きでそういうのを見てた奴が居たが、まさかそんな世界に来ちまうなんて思わなかったよ」
「ねえ、もしかしてあのフレームゴーレムってサクヤの世界の?」
「いや、あのリプレイスボディってのは、俺の居た世界の技術じゃない。それにE-3なんて動力源も、クフェアイリ―ンなんて宇宙戦艦も聞いたことがない」
「こちらからも質問がある。そのロボット、名はエスペランザと言ったか。それはソムニュームとどういう関係なんだ?」
「ソムニューム?」
サクヤはその名前が引っかかった。知らないはずなのにどこかで聞いた名前であったからだ。しばらく考えた後にサクヤは思い出した。そう、エスペランザのデータ内にあった同型機の名前である。
「名前は知っているけど、それ以外は何も知らない。でも、どうしてそれを?」
「少し前に出会ってな。勇者を名乗る、シャルロットという少女が乗って、助けてもらってな」
ウェルターのその発言に、サクヤとリーナは驚いた。まさか、シャル達が旅先でフレームゴーレムに乗っていたとは思わなかったからだ。
「ねえ。そのシャルロットって人、誰?」
メラがリーナへと尋ねる。リーナはどう答えるか少し悩みながら自身の失った左腕を摩る様な動作をし、こう答える事にした。
「私達の知り合いよ。喧嘩もしたし、一緒に戦ったりもした」
そうしていると一つの街へ辿り着く。そこはラグームという街だ。
街に入る前に、サクヤはエスペランザを玉に、ウェルターは超神王を小さな三匹の獣の姿へと変えた。巨大なマシンかと思っていたフレームゴーレムが三匹の獣へと姿を変えた事に、サクヤ達は驚くのだった。
「コイツらは、まあ最初はそんな反応だよな」
獣たちだけでなくムラサメもウェルターも慣れた反応であった。
ムラサメの乗るリプレイスボディはエスペランザの様に玉になるわけではないため、街の入り口のすぐそばに停める事になる。「お前達は便利でいいな」と言いながらムラサメはリプレイスボディから降りるのであった。そして降りてきたムラサメは、サクヤに対し何かを差し出す。それは大人の手のひらサイズほどの小箱であり、それが三つもあった。
「これは?」
「羊羹さ。アンタの世界の日本にもあるだろ?ウチのは塩味も効いてて人気の携帯食なんだ。やるよ」
「へぇ、羊羹!ありがたく貰うよ」
「羊羹?」
「何、それ」
メラとメルは疑問に思い聞いた。そしてそれはリーナも聞いたことのない物であった。
「甘いお菓子さ。後で食べような」
サクヤ達の入った街ラグーム。そこも極々普通の街であり、目新しさは無かった。しかし、その街の特徴として一つが大通りである。様々な店がならんでおり、そのほとんどが建物を持ちながらも軒先に商品を並べ売る露店の様なスタイルを取っていた。
そんな大通りを歩いていると、サクヤ達はある光景を目にした。
「お願いです、お金は払います」
「いいから帰ってくれ!」
パン屋の前で少年が店主に突き飛ばされていた。その少年はメラやメルより恐らく少し上くらいの年齢だろうが、肌着は着古されて少し破れており、悪い言い方をすればその街に相応しくない様な汚さであった。そして、その少年が突き飛ばされている姿を、周りはまるで見えていないかの様に無視をしているのだった。その光景を見かけたサクヤ達は咄嗟に駆け寄り、少年に声をかけるのであった。
「大丈夫?」
「えぇ」
「ちょっと、酷いんじゃないか?」
ムラサメはパン屋へ詰め寄った。
「アンタらには関係ないだろ」
「どういう事情かは知らんが、目の前で子供が突き飛ばされているのを見てしまったらな」
ウェルターもムラサメに加勢をする。しかし、パン屋の店主は大人の男二人に詰め寄られても動じない様子であった。
「なんだろうと、ソイツに売る物はねぇ。どっかに行ってくれ」
「そうか、そうか」
ウェルターはわざとらしくそう答える。
「なら、そこの長いパンを5本貰おうか」
「だから、そのガキに売るパンは無いって言ってるだろ、しつこいな」
「おや?俺はただ旅の食料としてソレを買って常備しておくだけなんだが?それとも、ただの旅人である俺達にも売れないのかな?」
ウェルターのその鼻につくわざとらしい態度に店主は舌打ちをしながらも、ウェルター達に売らない理由はないため、仕方なくパンを売るのであった。
「立てるか?家まで送るよ」
「ありがとうございます」
そう言うと、サクヤ達は少年と共に少年の家へと向かった。道中その少年を皆無視しながらも、その少年に付きそうサクヤ達にはどこか視線があるのであった。
少年の家は少し古い家であった。しかし、異質なのはその家が他の民家とは少し離れた場所にある事である。
少年がドアを開けると、中から「おかえり」と女性の声が聞こえる。その声には元気が無く、少し弱っている声であった。その女性はサクヤ達の姿が見え始めると、咄嗟に布団をかぶり、隠れようとするのだった。
「大丈夫だよ、母さん。この人達は助けてくれたんだ」
そう言うと、母親は恐る恐る顔を見せる。しかし、その姿にサクヤ達は驚いた。その母親には角があったのだ。角がある人間。それはサクヤの知る限りではリーナと同じデミスだけである。
「あなたのお母さん、もしかして」
「えぇ。助けてくださったお礼に、お話します。入ってください」
少年は、そう。サクヤ達を家に入る様に促す。




