サフラト村 1
昼前なのもあって村の外は賑わっていた。仕事をする者、買い物をする者、散歩をしている者、様々な人が村の中を往来している。日が傾いた頃にこの場所に来たリーナにとっては驚きの光景であった。しかしそれだけではない。村の人達は村の中心にある拓けた場所に集まっている。まるで何かを準備しているように。
「こんな山の近くにここまで人が居たとはね」
「そうだろ?俺も初めて来た時は驚いたんだ」
「しかしこれだけの数の人間がどうしてあそこに集まっているの?」
リーナは疑問に思った。人が多く、往来が多いのはまだ分かるが、活気づいた人だかりは不自然なほどだったからだ。
「あれか?あれは祭りの準備さ」
「祭り?」
「春先に、つまり今の時期にやる祭りらしくてさ、この村が在り続けている事への感謝と、これからもそれが続く願い、そして今年の豊作の願いを巨人様へと伝える祭りらしいんだ。3日後にあるんだぜ」
「あやふやな答えね。で、その巨人様って言うのは?」
「みんなが作ってる巨大なアレさ。本物は村の東の森にある洞窟そばに居るらしいんだ。それがあったからここに村を作ったんだとか」
サクヤが指を指した先には巨大な人型のハリボテがあった。大きさは5mあるかないかだが、人間の目からすると十分見上げるほどである。
「そうだ!洞窟の場所は知ってるし、せっかくなら後で見に行かないか?」
「面白そうね。それに気になる事もあるし」
リーナは何か知っているような顔をしていたがサクヤは気にもしなかった。
巨人像を造る男達、資材を運ぶ者、指示を出す者、周辺を飾りつける女達、昼から酒を飲み楽しむ男達。村の中心には様々な人が集まり、賑やかにしている。サクヤはそんな人ごみを注意深く見渡し、誰かを探していた。するとサクヤはある一人の男を見つけ、手を振り、喧騒に負けない声で叫んだ。
「ランドさん!」
すると巨人像を造る男達に指示を出していた男が振り返り手を振る。
「おおっ!サクヤ!」
サクヤがランドと呼んだその男に駆け寄る。それを見たリーナは遅れてサクヤを追いかける。
「サクヤ、どうした?」
「ちょっと頼みたい事があって、今から店に行ってもいいかな?」
「頼み事?」
サクヤと会話をしつつランドはサクヤの横に来たリーナを物珍しそうに注意深く見る。すると、何かを察したようにサクヤに視線を戻した。
「ちょうどいい、渡したい物もあったし一度店に戻るか。それに、その嬢ちゃんはワケありの様だしな」
ランドは手に持っていた図面の様なものが描かれた紙を近くに居た男に渡し、事情を説明した。
「オーイ、オレは一度店に戻る!こっちに戻るまではデルに任せる!デルの指示に従ってくれ!」
ランドは巨人像の作業をしている男達に声をかけた。それに対し男達は口々に同意の返事をする。
そしてランドは改めてリーナの顔を見た。
「オレはランド。この村で商人をやっている人間だ。農具や雑貨なんかを売ったりしてるが、まあなんでも屋みたいなもんだ。よろしく」
リーナは突然名乗られ困惑した。するとサクヤが耳元で囁いた。
「ほら、自己紹介。魔族な事は隠してさ」
「リーナベル。近くの森で怪我をしていた所をこの男に助けられた。これでいい?」
リーナはサクヤとランド、両者の顔を伺い確認する。サクヤは少々頭を抱えていたが、ランドは屈託のない笑顔で頷いていた。
「じゃあ自己紹介も済んだし行くか」
ランドはサクヤとリーナに声をかけ、自分の店に戻る。