始まりの出会い 5
「おはよう。もう熱は大丈夫か?」
「熱?」
「あの後大変だったんだぜ。真夜中に急に苦しみだすからさ。」
リーナは自分の額に手を置く。そこにはもう乾いた布があった。
「そうだったの」
「まあとりあえず朝飯にしようぜ、昨日の粥の残りになるけどさ」
「貰うわ」
サクヤは昨晩の様にリーナに食べさせ、その後、自身も朝食を済ませた。そして、リーナの腕の確認をする。リーナの腕の包帯を取り、薬の塗った布を取り患部を奇麗に拭くと、既に腕がほぼ治っていた。
「もうこんなに治ったのか!?」
「私たちは人間よりも魔力を取り込める量が多いからね。そのおかげで傷の治りも早いのよ」
「じゃああんなに熱が出てたのがもう治ったのも?」
「そういうことだ」
サクヤは不思議だった。魔族という存在は何となく知ってはいたがここまで違いがあるとは思わなかったからだ。
「とりあえず着替えないとな。汗かいてるから洗濯もしないとだしさ」
するとサクヤは衣装の入ったケースをゴソゴソと漁る。
「男物しかないけど我慢してくれよ」
サクヤは麻で作られたような服とズボンを渡し、そのあと表へ出た。サクヤなりの配慮である。
リーナは渡された服に着替えた。男物なのとサクヤとの身長差もあり、やはり服は一回りほど大きく、ブカブカとしていた。
リーナは自分の服を畳み、その後表に出ていたサクヤに声をかけた。サクヤは家の中に入りリーナが着ていた服を受け取ると服をマジマジと見た。
「しかし、洗濯屋に頼むと時間がかかるし、なによりこんな服じゃあな」
「こんな服?それに洗濯なら魔法を使えばいいでしょ?」
「あー、俺、その魔法ってのが使えないんだ」
「使えない?そんなことはないでしょ」
しかし、確かにサクヤの言う通り、リーナはサクヤから魔力が感じ取れなかった。ディナルド人でなくとも人間、例え動植物だとしてもこの世界に生きるなら魔法が使えるかどうかは別にして、少なからず「魔力」があるはず。いやないとおかしいのだ。大気中にある「マナ」を貯めこみ「魔力」とし、そのエネルギーを様々な形の「魔法」へと応用する。それは生き物が酸素を吸い二酸化炭素を吐き、植物が取り込んだ二酸化炭素を光合成で酸素にして排出するのと同じような生物に備わった機能の一つであり、あって当たり前の能力なのだ。サクヤには”それ”が無いのだ。
「本当に変な奴ね」
リーナがそう呟いた。
「まあいいわ。桶はある?回復の肩慣らしに洗濯くらいするわ」
サクヤはリーナに言われた通りに庭に洗濯桶を用意し、その中にリーナの衣服を入れる。リーナはその桶に右腕を翳し意識を集中させる。するとリーナの右手が少し光始めたが、その光はすぐに消えてしまう。
「やっぱりまだ無理ね・・・」
何がどうなのかはサクヤには分かっていなかった。今のが魔法なのはなんとなく分かったが、しかし成功なのか失敗なのか、何をしようとしていたのかがサッパリだった。
「私の剣を持ってきてくれる?」
サクヤはそう言われると家の中に入り、リーナの持っていた剣を持ち出した。
「これでいいか?」
「いいわ」
リーナはサクヤから渡された剣を持とうとする。しかし、片腕で持つには重い剣なためか、腕が振るえ、安定せず落ちそうになっていた。それを見たサクヤはリーナの腕を舌から支える様に持った。
「・・・ありがと」
リーナは呟いた。しかしそれは、サクヤには聞こえない様に小さく呟いたものだった。
リーナが再び腕に力を集中する。すると先ほどの様に弱い光が腕を纏ったが、今度はそれが剣へと伝達し、剣先から勢いよく水が湧き出る。
「なんとかなったわね」
「今のが魔法?凄いな!」
サクヤは非常に興奮していた。この世界に生きるなら魔法なんて誰しも日常生活に応用しているので珍しくないだろう。しかしサクヤはまるで新しい玩具を渡された幼児の様な目を見せていた。