始まりの出会い 3
どれほど眠っただろうか。気付けば陽は傾き、夕方になろうかというところだ。
「くっ」
まだ左腕が痛む。しかし眠る前とは違い、腕には包帯が巻かれてあった。
「これは?」
周囲を見渡すと、すぐそばで誰かが眠っていた。その男は先ほど逃げた男だ。女はすぐそばにあった自分の剣を構え慎重に近づく。
「おい!起きろ!」
「・・・んん・・・」
その声が聞こえたのか男は眠たそうな目を擦りながら女の方を見る。そんな寝ぼけた男に対して女は喉元に剣を突き付ける。しかし片腕ではその剣は重いのか、今にも垂れ落ちそうであった。
「これをやったのはお前か?」
女は顎で自分の左腕を指す。
「あ、あぁ・・・。」
「なぜ助けた?」
「なぜって・・・俺にもよく分からない」
「はぁ?」
女はふざけているのかと思った。自分を見て逃げた男が自分を助けた。しかも理由もあやふやなのだから疑問ばかりだろう。
「くっ・・・」
まだ傷が塞がっているわけじゃないため、激痛が走る。
「あぁ、まだ応急処置だから安静にしないと!ほら、これ食べて」
男は薬を入れていたポーチとは別のポーチから何かを取り出す。
「これは?」
「非常食。パンみたいな生地に乾燥させた果物を入れてカラカラになるまで焼いた物だから簡単に栄養が採れるんだ」
「変な奴ね、お前は」
女は男から非常食を受け取り食べる。すると男は非常食を出したポーチから自分の飯を取り出す。パンに干し肉を挟んだ物のようだ。
二人は静かに自分の食事を取る。すると女が口を開く。
「お前、名前は?」
「名前?俺はアツタ・サクヤ。サクヤって呼んでくれ」
「珍しい名前ね。ヒノワ国の人間?」
「ヒノワ・・・って東の方にあるっていう島国だっけ?てわけじゃないんだけど・・・」
「本当に変な奴ね、貴方は」
「そんなお前こそ、名前は?」
「おまっ・・・。まあいいだろう。私の名はリーナベル・リ・アルクトゥラ
だ。」
「リーナベル・・・、じゃあリーナだな」
「・・・、いきなりそう呼ぶ?」
「じゃあなんて呼べば?」
「・・・まあいいわ。」
そんな会話をしていると二人の食事が終わる。リーナも落ち着いてきた様子なのを見てサクヤは立ち上がり、リーナに手を差し伸べる。
「じゃあ行くか」
「行くってどこへ?」
「村だよ。俺の住むサフラトって村に」
「どうして?そこまでされる義理は無いでしょ」
「ここまでしたのに見捨てられないだろ?それに今は落ち着いていても、怪我のせいでこれから熱が出るだろうし。それに村にいけばちゃんとした手当ても出来るからな。」
「そこまで言うなら仕方ない。ついて行くわ」
リーナは納得するとサクヤの手を取り立ち上がる。
サクヤはリーナに肩を貸し、二人で村に向かい歩き始めた。
「村に行くんだからその角と翼は隠せるなら隠してくれよ」
「なっ、我々の誇りである角を隠せと!?」
「仕方ないだろ。俺はいいけど村の人達は怖がるだろうし。そんな事になれば大変だろ」
リーナは少し考えた。タツヤの言う事も確かだ。
「ならば仕方ない」
リーナは少しだけ回復した魔力を使い、角と翼を隠した。
こうして二人はサクヤの住む村であるサフラトへと向かうのだった。