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祭りの夜 5

しばらくすると洞窟へ避難した人たちが戻ってくる。誰かが呼び戻したのか、それとも騒ぎの音が聞こえなくなったからなのは分からないが、恐らくその両方だろう。避難していた人たちは村に戻ってくると村の惨状を目の当たりとし、肩を落とす。焼け崩れた建物の数々、疲弊している男達、そして首を落とされた竜の亡骸とその惨状は事の過酷さを物語っていた。しかし束の間、村人がザワザワとし始める。

「私見たの!あの子に角と羽が生えるのを!」

「きっと魔族よ!あの竜も奴のせいだわ!」

村人の視線は皆、リーナへと向き始める。それは感謝や尊敬などではない、恐怖や疑いの眼差しであった。

「待ってくださいよ!エスペランザを、あの巨人を動かして戦ってくれたのはリーナなんですよ!」

「そうだぜ!いくらなんでも命の恩人に対して恩知らずじゃないか?」

咄嗟にサクヤとランドがリーナを庇う。しかし、村人たちの疑念は収まることがなく、むしろ火に油な状態であった。「だからなんだ!」、「ランド!アンタは知ってたのか!?」などの声が上がり、次第にサクヤ達が劣勢になっていく。すると、リーナは突然元の姿へと戻り始める。

魔族。人間がそう呼ぶ種族の姿へと変貌したリーナに対し、村人たちは恐怖心を抱き、手に持った武器を持ち始め警戒し始める。

「私はリーナベル・アルクトゥラ。ディナルドの元幹部であり、貴方たち人間が魔族と呼ぶ存在、デミスよ。これで満足かしら?」

正体を現したリーナの顔には哀れみや怒りといった感情はなく、ただ純粋にこの状況を終わらせたいという思いだけがあった。しかし、リーナの気持ちとは相反する様に、村人は武器を向ける手を下ろそうとしなかった。魔族は人より魔力量、身体能力共に優れており、今やそんな存在が人間に牙を向けている状況である。そんな存在を、ただの村に住む人たちが恐怖しない方が無理であろう。人間と似た見た目をして、人間の様に知性があり思考する存在。そんな人間と似て非なる存在である以上、一度敵意を向けられたなら野生の猛獣よりも勝ち目が無いとも言えるだろう。

「皆さん武器を下ろしてください!リーナは悪い奴じゃありません!」

「女だからって騙されるな!ソイツは魔族だ!油断した所を攻撃してくるかもしれねぇ!」

サクヤの主張も虚しく、村人たちは聞き入れる素振りを見せなかった。

しかし、その状況に痺れを切らした存在が居た。

「皆聞け!」

その大声に全員の視線が声の主の方へ向かう。そう、シャルである。

「この数日リーナベルを見ていたが、彼女はこの村どころかサクヤを傷つける素振りすら見せなかった。だがしかし、この中でリーナベルに攻撃された人は居るか?」

村人たちはざわざわとしたが、誰も名乗り出ることはなかった。

「ではなぜ、こうして守ってくれた者に武器を向けている?」

「でも奴は魔族なんだぜ」

村人の一人がそう答える。

「確かにそうだ。私の奴とは対峙し、この村で再会した時は彼女を疑った。しかし彼女はこの数日、人間と暮らし、こうして人の村を守った。皆と避難した時にそのまま逃げることだって出来たし、あの巨人で人を襲う事も出来た。しかし、戻ってきてこうして村を守った。どうしてその事実を受け入れようとしない!?」

村人たちは皆黙り込み、少しばかり武器を向ける手が下りたようにも思える。

「信じてやれとまでは言わない。しかし、疑う心だけで攻めようとせずに、彼女自身を見てあげたらどうだ?」

村人たちはその手を完全に下ろす。決してリーナを認めたわけではないが、今はただ「自分達の村を守ってくれた」という事実を受け入れるしかないからだ。

「ありがとう、シャル」

「勘違いしないでくれ。私はリーナを守ったわけじゃない。無駄な争いを避けただけさ」

そうしていると、村人たちの中から少し老いた男性が現れる。彼はこの村の村長だ。

「リーナベルさん。まず例を言わせてくれ。この村を守ってくれてありがとう」

村長はリーナに対して頭を下げた。

「その様な恩人に向ける言葉ではないが、我々としてはやはり魔族という存在は怖いしこの村に置いておく事に皆不安を持つことは事実じゃ。それだけは分かってくれ」

「いいわ、別に。そこまで気にしていないし」

「しかしもし、人を欺くような事があれば、その時はサクヤ、お主に責任を取ってもらうぞ」

村長の目がギラリとサクヤを睨む。

「分かりました・・・」

「安心なさい。私もそんなことするつもりは無いわ」

「我々としてもそれを願っております・・・」

村長は話を終えると、皆に帰る様に伝えた。村人たちは渋々聞き入れ、先ほどの戦いで家を失わなかった者は自分の家へと帰るのであった。


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