始まりの出会い 2
その男は森や山での仕事を生業としていた。
山菜やキノコと言った食料から、薬草、魔獣の毛皮、牙、骨などを拾いそれらを村の役場に卸、貨幣と交換している。
そんな男には癒しがある。それは森の中央にある大樹のそばで休憩することだ。これをすることで自然の空気や音で身体が癒され、仕事のメリハリが付き、やる気が出るからだ。男は仕事に一区切りをつけ今日もそこへ向かっていた。
しかし今日はその大樹のそばに人影があった。不思議に思った男はその人影を注意深く観察すると、その人影には角が生えていた。
村の人から聞いた事がある。角や羽が生え、人間とは違う魔法を使う種族がいることを。そして今その種族が大陸侵攻を宣言し戦争状態だと言うことを。
「ま、魔族!?」
男はつい声に出してしまった。そして目が合う。男は驚き尻もちをついた。
本来はすぐに逃げるべきなのだろう。しかし、何かを呟き、そのまま眠ってしまった女が気になってしまい、恐る恐る近づく。聞いていた恐ろしい言い伝えとは裏腹に、身体つきはほとんど人間と変わらず、そして言葉では言い表せないような美しい髪の色に惹き込まれそうになっていた。
しかしよく見ると女は左腕を失っていた。
「腕が無い、何かにやられたのか?」
男は傷口をよく観察した。
「獣にやられたとしたら傷口が奇麗すぎる。となると鋭利な刃物か?」
よく見ると何かに切られて出来たような傷が他にも見られる。誰かと戦闘をしていたのだろうと男は推測した。
傷口の血は止まっていないため、このまま放置すればこの女はそのうち息絶えるだろう。
しかし男は悩んだ。魔族とは言え怪我人を、しかも弱っている相手を見殺しにしてもいいのだろうか?
悩んだ末に走り出した。しかしそれは逃げるためではなく、助けるためだ。男は山の中で水が採れる場所へと向かった。いつも持っている予備の水筒が満タンになるまで水を入れ、先ほどの魔族の場所に走った。汲み終わると、男はすぐに元の場所に戻った。
男は女に駆け寄ると、女の上体を起こし、先ほど汲んできた水で傷口を綺麗に洗い流した。次に仕事の時はいつも持ち歩いているポーチの一つから布、包帯の入った瓶、塗り薬の入った瓶を取り出す。塗り薬は村の調薬師が様々な薬草を組み合わせ作り上げてくれた物だ。布を傷口に合わせ折り、そこに薬をたっぷりと塗る。そしてその布を傷口に当てたらそのまま包帯を巻いて固定した。
一連の処理が終わると男は先ほど水を汲んだものとは別の水筒を女の口に近づけ飲ませた。
「これでよし・・・。」
男は応急処置を終わらせると、それまでの緊張の糸が切れ、樹に寄りかかって眠った。