サフラト村 7
「帰ったわ」
「おかえり!」
(おかえり?別にここの家に住んでいるわけがないのに)。リーナは思ったが自分もここを「帰る家」と認識していた事に気付き、黙った。サクヤが鍋を煮込んでいるのを横目にテーブルに着いた。
「おまたせー」
しばらくするとサクヤはテーブルに夕飯を並べた。何かの魔獣、恐らくシシボアンというイノシシの様な魔獣の干し肉と干したキノコ、キャベツの入ったスープ、そして切って焼いたパンが並んだ。質素ではあるが男の作る大胆な料理といった見た目であった。しかし、そんなスープがリーナの鼻孔をくすぐった。
「いただきます」
サクヤは食事に手を合わせ会釈した。昼にもやっていたが、リーナにはその作法が不思議に見えた。
「食べていいのか?」
「いいよ、いいよ、食べて」
そう言われるとリーナも食事を始める。まず最初にスープを一啜りする。すると、程よい塩味と食材の調和した旨味が舌に乗る。そしてそれと同時に、凝縮されながらも優しいキノコの香りと、干し肉の香りが鼻を突き抜ける。一日中歩き回っていたリーナの身体にそのスープの味、そして匂いが共に染み渡り、疲れが取れていくのが感じられた。
「干し肉とキノコは煮込む前に炙るのがポイントなんだぜ。どうよ?美味いでしょ」
「・・・まあまあね」
このスープは確かに美味い。しかしサクヤの自慢気な態度が少し気に入らず、素っ気ない態度をとってしまう。
次にリーナはパンに手を付けた。焼かれて多少はちぎりやすくはなっているが、古く乾燥したパンだからか非常に硬く、ボソボソとした千切れ具合だった。千切った所からポロポロとパンのカスがスープへと落ちるがリーナは気にしなかった。リーナはそのパンをスープへと浸し、パンが柔らかくなるまでスープを吸わせ、そして口の中へと入れた。先ほどのスープの香りを麦の風味が包み込む。古いパンではあるがその香りの凄さは流石というしかないものであった。
次にスープの具を掬い口へ運んだ。春先の甘味が強く柔らかいキャベツは煮込まれる事でトロけるようになっており、そしてキノコの独特な弾力、さらに干し肉の噛み応えのある硬さがそれぞれ違った食感を楽しませてくれる。
そんな夕食をリーナは上品に食べていたが、対照的にサクヤは貪るように、しかし急がず食べていた。
食事が終わるとサクヤは食器を下げ、もう一つの鍋から何かを注ぎ持ってきた。薄い赤紫色をしたその液体は水で薄めたワインを温めたホットワインである。
リーナはそれを軽く冷まし、口へ含む。食後の胃を落ち着かせ、気分も落ち着き、一日の疲れが取れるような感覚があった。
サクヤも軽く一口飲むと少々熱そうにしていた。そして、カップを置いた。
「ねぇ」
「なに?」
「昨日から気になってたのだけれど、なんで私には敬語じゃないのかしら」
「なんでって、年齢同じくらいでしょ。それに俺、そういうの苦手でさ」
リーナは顔をしかめる。
「私達は人間よりも長寿な存在よ。それに、少なくとも普通の人間より長く生きてるわ」
「へぇー。いくつまで生きるんだ?」
「デミス、あなた達が魔族と呼んでる私達の平均寿命は大体400年くらいと言われてるわね」
「400年!?」
サクヤは驚いた。400年などという数字は人間には途方もない長さであり、当然その長さを生きられるわけがないからだ。
「でも待てよ。人間が80年生きるとしたら400年はその5倍だから・・・リーナっていまいくつだ?」
「女性に年齢を聞く?」
「そういうのはいいからさ」
「・・・120よ」
「120を5で割ると、五二十の五四二十で・・・じゃあ人間だと24歳くらいか?」
「人間の尺度で測らないでくれる?」
「まあいいじゃないか。俺と同じくらいの歳ってことで」
リーナは不満気な表情でホットワインを飲んだ。人間と同列に思われるのは心外だ、例えるならそれは人間がペットでも家畜でもない魔獣と同列に扱われるようなものである。しかし助けられて衣食住を提供されている以上は逆らえなかった。
リーナは自分のコップに注がれていたホットワインを飲み干し一息ついた。同時にサクヤも飲み終えた様で、おかわりを聞かれたのでリーナはコップを差し出した。サクヤは自分とリーナの分のホットワインを注ぐと、片方をリーナへと渡し席に着く。渡されたホットワインを冷ましていると、サクヤは真面目な顔をして質問をしてきた。
「なあ、今日見たフレームゴーレムっての、もっと詳しく教えてくれないか?」
「詳しくもなにもあの場で説明したでしょ?」
「ほら、異界だとか降ってきたとか言ってたじゃないか」
「そんなこと興味があるの?」
「お願い!教えてくれないか?」
サクヤは食い入るようにリーナの方を見ていた。あまりの圧の強さにリーナは少し引いていた。
「いいわ。でも私が知っているのも本で読んだり聞いた話だけよ?」
「お願いします!」




