邪気が無いから「無邪気」というが
子供は無垢な心を持つ天使でありながら、悪魔のような存在である。
こんな言葉、どっかにあったっけ?
その無邪気の代表格である子供というものは、得てして天使のように扱われがちだが……
お前ェさん、本当にそう思うか?
確かに子供というものは邪気があるとは思えない。
素直で純粋で、そんな存在ではあるのは確かだ。
昔は大人になるにつれ、駆け引きやわだまかりなどで段々と心が荒み、邪気をはらんでくることから、「邪気を持つ大人が、偉そうに叱る資格なんぞあるか!」という考え方を持ってたらしく、七歳くらいまでの子供に対してはガミガミと叱る事はあまりしなかったらしい……
確かに七歳を超えるくらいになると、知恵もついて色々と生意気な事を言うもんだ。
けどよぉ、そいつらはよぉ…… 純粋で無垢で無邪気な天使かと言われれば、決っっしてそうとは言えない、逆の場合の時もあるとだけは言っておくぜ。
そんなバカなだって?
チッチッチッ!
嘘じゃねェ……
子供たち非常に残酷だったりするんだ……
それを今から教えてやろう。
蟻とかの小さな虫を踏んだりして「子供は生命の尊さというものを理解していないから残酷」とか、そんなちゃちなもんじゃねェ。
「非常に」だ。
「常」を「感情」の「情」に書き換えてもいいくらい残酷な話になる。
そうそう、その「非情」だ、冷酷とかに近い意味の……
嘘じゃねぇって、それを教えてやるって!
覚悟…… いいな……
あれは…… だいぶ昔になる……
昭和まではいかないが、平成になってすぐくらいだ。
その頃は「車社会」なんて言葉も出尽くしちまって、あちこちに車が走ってたんだ。
車はガソリン入れて走るもんだ。
けどな、車は走りっぱなしってわけにもいかねぇ。
停まることも必要だ。
だがな、車が多くなりすぎて停まるとこがありゃしねぇ。
だからよ。みんな好き勝手に停めたんだ。
そしたらよ、渋滞やら何やらで社会問題までなりやがった。
それで、警察が取り締まるようになったんだけどな。
量が多いんだ!半端じゃねぇ!
それでミニパトに乗って婦警までがしゃしゃり出て取り締まりを始めたんだ。
チョークでタイヤにツーッとラインを引くアレな。
あれ、簡単そうに見えるだろ?
けどな、真夏のアスファルトってな、地獄だぞ地獄。
そんな地獄に若いねーちゃん婦警が務まるもんじゃねェ。
しっかりとメシが食える体力のあるヤツしか務まらねぇんだ。
こっからが本番だぁ! いいか、よく聞け?
ある婦警さんがよ、汗水垂らしてチョーク引いてたんだ。
公園の近くだったらしいが、くっそ暑い中でよ。
そうしたら婦警さんが珍しいのか、一匹の子供が……
あぁ、悪い悪い! そうだ、一匹なんて言っちゃいかん! 悪い! 言いすぎた! 一人だな!一人!
その一人の子供が公園から近づいて婦警にこう言ったんだ。
「何でスカート履いてるの? オカマ?」
……ふぅ。
恰幅の良い婦警さんだったんだろうなぁ。
しょうがない! 仕事上しょうがないんだよ、体力つけないと!
だけどな、そのガキンチョの目には婦警さんがデラックスマツコのように見えてしまったんだろうよ。
わかったか?
これが「子供は無邪気ゆえに残酷」ってことだ。
婦警さんは拳を振り上げることもできなかっただろうさ。
国家権力が、手出しするそぶりさえ出来なかったんだ!
これだけ恐ろしい事が他にあるってのか?
無いだろ? なっ?
あぁ、じゃあな。お前も気をつけろよ……
バカバカしい話ほど薬だわ。